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英雄たちが愛した歴史的スパイクVOL.42 ~マラドーナ実使用スパイク(90年W杯ソ連戦)編~

このアクロバティックなトラップの写真はご覧になったことがある方も多いと思います。これは90年W杯のソ連戦ですが、この時の神のユニフォームもスパイクも実は日本にあるという事実に驚くばかりです。今回はその実使用スパイクについて紹介します。

Icon 29634314 1815368455432881 1085668874 o 小西博昭 | 2020/04/20
ウイルスの恐怖に世界中が震撼する今日この頃、とにかく引きこもって3蜜を避け、終息を願いつつ、ストレス解消も兼ねて好きなことを書かせていただきます。   

以前、こちらでも紹介された神グッズコレクターの永井さんから「90年W杯のソ連戦の実使用スパイクが手に入るかもしれない」との連絡をいただきました。
 

永井さんは私と違って一般のオークションなどで売っているものには決して手を出さず、かならず素性のわかったお知り合いからしか神実使用品(主にユニフォーム)を入手しないそうです。 当然、ご自身のネットワークは世界中に広げられているわけですが、今回の神のW杯実使用スパイクも驚くべき方から入手されたことは後ほど紹介します。   

まず、以前もこちらで紹介しました90年W杯で神が履かれたスパイクについてもう一度ご説明します。 Thumb efbc92 図1 90年イタリアW杯で神はおそらく3種類のスパイクを履いていました。 それらを用いた代表的な試合です。 左はカメルーン戦、中央はソ連戦(いずれも予選リーグ)、右は準々決勝ユーゴスラビア戦です。 

いずれも黒に白ラインのプーマ製ですが微妙にそれぞれ異なります。以下、カメルーン、ソ連、ユーゴモデルとさせていただきます。 Thumb efbc93 図2 図1の3種類のスパイクの拡大図。ソールパターンはどれも同じです。 

カメルーンとユーゴモデルはかかとに緑のラインが入っていますが、ソ連モデルのかかとはオーソドックスなタイプです。また、カメルーンとソ連モデルのシュータンマークは白地(黒・金文字)ですが、ユーゴモデルは黒地(緑文字)です。
  

これらは基本的に90年頃に市販されていたキング(図3)と似ていますが、様々な箇所が特別仕様だったようです。 シュータンは80年代と異なり、リバーシブルで両面同じデザインになっています。 

意図的か偶然かはわかりませんが、緑ラインの方(カメルーンとユーゴモデル)はシュータンを立てて履いており、ソ連モデルはシュータンを折り返していました。 ただ、セリエAでもソ連モデルを使われていたようですが、その時はシュータンを立てています(図1中央上)。 Thumb efbc94 図3 90年頃の市販モデル(西ドイツ製キング)。シュータンを立てても折っても同じデザインが見えるようにできています。   

90年大会の神実使用スパイクは私が知る限り、一般に展示などされたことはないと思います。 唯一、90年大会の練習中に使ったと思われるスパイクはイタリアのコレクターの方が所有されているようです。 こちらは固定式でソールは劣化してなくなっています(図4)。 

シュータンが図2のタイプと異なりますが、側面のマーク、特徴的なヒモの穴やかかとの緑ラインは同じです。 似たデザインのトレシューは海外で市販されていましたが、スパイクは見たことがありません。     Thumb efbc95 図4 90年大会の練習で神が使った固定式モデル。この大会の神特別モデルにはプーマラインに「DIEGO」の印字があります。   

さて、永井さんが入手されたスパイクが図5です。 一見、図3と同じように見えますが、側面にはKINGではなくDIEGOと表示され、プーマラインにもDIEGOの印字があります。 Thumb efbc96 図5 90年大会のソ連戦実使用モデル。ボカジュニアーズ時代の神実使用ユニフォームの上に置いての撮影という非常に贅沢なひとときでした。   

スパイクオタク的視点からさらによく観察しますと、つま先のステッチが左右で異なっています。右足は市販のキングと同じですが、左足はステッチが少なくなっています。これは神のこだわりだったのでしょうか?興味深いです。   Thumb efbc97 図6 つま先部分の拡大写真。左足の方がステッチが少ないです。   

市販のキングと比較してみました(図7)。
どちらもカンガルー革だと思いますが、図6のようなつま先部分の特徴的なシワは市販モデルにはありません。 

これまでたくさんの当時の市販のキング同等のモデルを見てきましたが、このような特徴の革は見たことがなく、偶然できたものではないと思われます。
  Thumb efbc98 図7 神モデル(上)はつま先部分だけ革にシワができるような加工がされています。かかと部分は下の市販モデルと同じ感じです。   

アッパーで異なる点はこれぐらいだと思いますが、最も大きな違いはソールです。 実使用モデルはいわゆるプーマの旧型2色ソールで、神は70年代後半からコンスタントにこのソールのモデルを愛用しました(図8)。 

市販のキングは80年代からデビューしたDuo Flexソールで、アッパーがキングで旧型2色ソールのスパイクは90年代では市販されなかったと思います。
  Thumb efbc99 図8 神特別モデルのソール(上)。90年代はじめに同じソールのリーガというモデルが市販されていましたが、アッパーは別物でした。   

シュータンは市販のKINGと同じで、これも当時のプレー中の画像では細かい文字まで読めるようなものはなく、「Made in West-Germany」であったことが初めてわかりました(図9)。
 Thumb 10 図9 シュータンの比較。 神モデルもKINGのシュータンを使っていたことがわかりました。   

永井さんはソ連戦のスパイクのみならず、ユニフォームもお持ちです。代表ユニフォームについては79年Wユース、82年、86年W杯の実使用品も手に入れられているというスーパーコレクターです。
 

神のW杯使用スパイクまで日本国内にあるのはスパイクオタクにとっては大変喜ばしいことですが、どうやってこんな貴重なものを手に入れるチャンスがあるのか?
今回のスパイクは神と86年、90年W杯でチームメートだった方から入手されたそうです。 さすが、20年以上コレクターをされている方の人脈は一般人にはとても真似できません。   

最後に、図2の他のスパイクはその後どうなったのか?
 

おそらく、そのひとつは94年大会で神が使ったと私は思っています(確証はありません)。
残念ながら94年大会では神は2試合しか出場できませんでした。この大会、神は全選手中(たぶん)ただひとり所属クラブなしで登録されています。 

おそらくプーマからの手厚いスパイクサポートもなかったと思われ、練習ではアディダスのコパムンを使用していました。 しかし、本番では2試合とも黒塗したプーマ製らしきスパイクを使っていましたが、同じものではありませんでした。 

神のW杯最後の試合はナイジェリア戦でしたが、その時の画像を見ますと、図2のスパイクに似ています(図10)。 だいぶんスパイク供給事情がよろしくなかったのか、つま先に穴があいている状態です(図10右下)。 また、リバーシブルのシュータンの裏側は黒く塗るのがめんどうだったのか、はがされているようです(図10右上)。
 Thumb 11 図10 94年W杯ナイジェリア戦の神。図2のかかとに緑ラインの入った90年W杯モデルを黒塗したように見えます。   

実は永井さんのソ連製のスパイクもリバーシブルだったシュータンの裏側部分ははがされていました。 ナイジェリア戦後のドーピング違反でそれ以降の試合に出場できなかった神ですが、もしその後も出場できていたら、ソ連戦で使用したスパイクも黒塗して使うつもりだったのではないかと個人的に想像しています。     

94年大会は初戦のゴールや第2戦のアシストなど、神は好調だっただけに今もその後のプレーが見たかったと思っていますが、もしプレーしていたらどんなスパイクを使ったのかということも興味があります。
  

さて、今回ご紹介した神グッズコレクターの永井さんは、あたらしい魅力的なオンライントレーニング事業を始められました(こちら()もご覧ください)。
 

以前から計画はうかがっていましたが、 奇しくも、新型コロナウイルス問題で家での練習を余儀なくされるスポーツ少年が多い中、プロアスリートの助言を受けながら日々のトレーニングができる画期的な試みだと思います。 

ご興味のある方(特にお子様の親御さん)はぜひリンクをご参照ください。  


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神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。  
                  


◆小西博昭オフィシャルブログ
https://maradonaboots.com/