
英雄たちが愛した歴史的スパイクVOL.35 「プーマT字型シュータンのナゾ編」
神のW杯デビューは82年スペイン大会の開幕戦でした。当時の世界のサッカーファンがそのプレーに注目していたはずですが、その時のスパイクについて語られたことはあまりないと思います。プーマの固定式と言えばそれまでなのですが、未だによくわからないモデルです。

また、ずいぶん古い話に戻ってしまい申し訳ありません。
ちょっと変わったモデルが手に入ったので、急遽それにちなんだことを書かせていただきます。
巻頭写真及び図1は82年大会の開幕戦・アルゼンチン対ベルギー戦です。どちらの画像も検索すればよく出てくるもので、特に図1右は、神1人に6人のDFが立ち向かうみたいなことがよく書かれています。
でも、これはパサレラ選手の強烈なFKをふせぐために、ベルギーが6人の壁を作ったのですが、パサレラ選手は蹴らずにアルディレス選手が壁の横にいた神にパスしたため、壁がバラけた状態です。 画像だけ見るとわからないことは多いですが、その時の神のスパイクは画像をいくら見ても私の中で正解が浮かびません。

図1 基本的にベルトマイスターの構造に似ていると思いますが、シュータンやつま先も独特のようです。
T字型シュータンとは私が勝手にそう呼んでいるだけなのですが、一般的な白シュータンとの違いは図2の通りです。また、この頃の南米選手のT字型シュータンは国内版(図10参照)とはデザインが異なります。

図2 左のタイプは70年代終盤から登場し、ほんの数年で右のようなシュータンになりました。左は82年W杯前の神のスパイクですが、つま先の作りも2枚革なのか、ステッチなのかが未だによくわかりません。
図3は2018年に約100年の歴史に幕を閉じたアルゼンチンのスポーツ誌「El Gráfico」の1980年12月号で、表紙がT字型シュータンのプーマスパイクを履く神とケンペス選手です。表紙の裏ページにはプーマの広告があり、T字型シュータンの「Cesar Menotti」がメノッティ監督のイラストと供に載っています。

図3 本文中にも貴重なT字型シュータンの写真がないかと期待して海外から取り寄せましたが、全く載っていませんでした。
こちらでもご紹介しましたが、神が愛用していたT字型シュータンのスパイクはマラドーナグッズコレクターの永井さんが所有されている神実使用(図6)しか私は見たことがなく、自力で発見するのは諦めていました。
しかし、最近になってようやく入手することができました。 それが図4です。 残念ながらソールは10本スタッドのオリジナルではなく、アルゼンチン製の12本スタッドに交換されています。 アメリカ在住の20代の方から購入したもので、アッパーは多少使用感がありますが、そこそこきれいです。 その方のお父さんが、昔、アルゼンチン国内のリーグで使っていたものだそうで、よくぞ捨てずに残しておいてくれました。

図4 図3右のタイプと同じ「シーザーメノッティ」。アッパーの表記がすべて大文字です。 筆記体のはこちらに紹介しています。中敷きのデザインもこの頃独特のものでした。
図4はおそらく西ドイツ製で、オリジナルのソールだと「Made in W. Germany」と中央に記されていると思います。 神はアルヘンチノス時代に、シーザーメノッティを履いている画像もありますが、T字型シュータンの固定式は12本スタッドが多い気がします。79年日本でのワールドユースでもそのタイプを使っていました(図5)。
図4はオリジナルではないのは残念ですが、むしろその頃のモデルに似ている気もします。 10本スタッドのソールも今ではなかなか見ることができませんが、以前ご紹介したプーマの動画中には登場しますので(図5右上)、プーマ社にはあると思います(こちらをご参照下さい)。
図5 79年ワールドユース(左)、80年頃のアルヘンチノス在籍時の神(右)。右上はプーマ動画中の10本スタッドのスパイク。メノッティモデルかレーハーゲルモデルかはわかりません。
繰返しになりますが、T字型シュータンの取替え式は「ケーニッヒ」しか見たことがありません(図6)。
特徴はこちらで紹介した通りですが、追加として、スタッド(ポイント)の先端にプーママークが入っています(図6左上)。 同時期のモデルの白スタッドにはないので、このモデル特有だと思います。
図6 神実使用「ケーニッヒ」。特注なのか通常モデルなのかは未だ不明です。右下は側面ロゴ上にある西ドイツ国旗様のタグ。
図3のエルグラフィコの表紙で神が履いているモデルは図6のタイプのT字型シュータンで取替え式2色ソール(黄・黒)のようですが、実戦で履いている画像はなかなか見当たりません。
しかし、ケンペス選手は図6に似たモデルを82年W杯で履いていました(図7)。 こちらも鮮明な画像ではないですが、なんとなく「ケーニッヒ」モデルの特徴である、側面の西ドイツ国旗様タグがあるように見えます(図7左)。
図7 82年W杯のケンペス選手のスパイク。この他にもトレロ、ベルトマイスターも使用していました。
さて、日本でもT字型シュータンのプーマは私にとってはナゾ多きモデルです。
図8はラモス選手がプーマを履いていた83、4年頃ですが、同じ固定式でも戸塚選手のモデルとはシュータンや、つま先の作りが異なり、ラインも銀色っぽい感じです。
図8 得点を喜ぶ戸塚選手とラモス選手。
戸塚選手のスパイクは典型的ベルトマイスター(右上)ですが、ラモス選手のモデルはT字型シュータンで、つま先の革が横に広がっています。カメラマンの靴も渋い…。
ラモス選手の特注かもしれませんが、同じタイプを履く方を時々見かけました。
図9左上では木村選手(左端)、左下では金田選手(中央)、そして杉山さん(当時ヤマハ監督)は技術書でT字型のプーマを履いています。
図9 T字型シュータンモデルを履く方々。左下では金田選手の右後ろの柱谷(兄)選手もT字型モデルです。
左上では木村選手以外の選手はリオを、森監督とスタッフはTOROを履いていたと思います。TOROは極めて珍しいモデルと思います(こちらもご覧ください) 。
図8、9のT字シュータンモデルがすべて同じかはわかりませんが、前半でご紹介した海外のものとはプーマのロゴの大きさや位置が異なります。
図10では、知る限りの国内版T字シュータンモデルを挙げました。 左上のWM-MEXICOはパラメヒコがデビューする少し前に短期間だけ販売されました。
図8のラモス選手のタイプに似ていますが、シュータンはPUMAの文字だけで、動物のロゴがありません。 こちらで紹介した木梨さんのスパイクはWM-MEXICOだと思います。
右のバレンシアは巻頭の神がベルギー戦で履いたモデルとよく似ていて、カッコよかったので、実際に買った覚えがあります。ただ、クオリティーは価格相応だったと思います。
図10 当時の国内版T字シュータンモデル。どれもシュータンのプーマのロゴが小型で文字の横に位置しています。
図11はおまけで、左は多分近年のモデルですが、何となくT字型っぽいので入手しました。 昔のと比べて白い部分が大きすぎますね。 右は「CHICO WM」。「CHICO」というモデルは昔からあるようですが、由来はわかりません。
何となくつま先がWM-MEXICOっぽいですが、イタリア製だそうです。 プーマ製品は私の知らないナゾのモデルが次々出現してきます。
図11 右は「マラガ」というモデルに似てなくもないですが、プーママークすらないモデルは珍しいかもしれません。
ここでこれまでの投稿記事で訂正させていただきたいことがあります。1974年W杯に初出場したオーストラリア代表のオールストン選手はオニツカタイガーのスパイクを履いていました。
私はこれまで国産初のW杯使用スパイクはミズノと書いてきましたが(Vol.24、25)、謹んで訂正させていただきます。調査不足でいい加減なことを書いてしまい大変申し訳ありませんでした。
(写真は当時のサッカーマガジン、ダイジェスト、イレブン及びゲッティイメージズなどより引用)
著者 小西博昭の作品はバナーをクリック!

『神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。
◆小西博昭オフィシャルブログhttps://maradonaboots.com/
巻頭写真及び図1は82年大会の開幕戦・アルゼンチン対ベルギー戦です。どちらの画像も検索すればよく出てくるもので、特に図1右は、神1人に6人のDFが立ち向かうみたいなことがよく書かれています。
でも、これはパサレラ選手の強烈なFKをふせぐために、ベルギーが6人の壁を作ったのですが、パサレラ選手は蹴らずにアルディレス選手が壁の横にいた神にパスしたため、壁がバラけた状態です。 画像だけ見るとわからないことは多いですが、その時の神のスパイクは画像をいくら見ても私の中で正解が浮かびません。

図1 基本的にベルトマイスターの構造に似ていると思いますが、シュータンやつま先も独特のようです。
T字型シュータンとは私が勝手にそう呼んでいるだけなのですが、一般的な白シュータンとの違いは図2の通りです。また、この頃の南米選手のT字型シュータンは国内版(図10参照)とはデザインが異なります。

図2 左のタイプは70年代終盤から登場し、ほんの数年で右のようなシュータンになりました。左は82年W杯前の神のスパイクですが、つま先の作りも2枚革なのか、ステッチなのかが未だによくわかりません。
図3は2018年に約100年の歴史に幕を閉じたアルゼンチンのスポーツ誌「El Gráfico」の1980年12月号で、表紙がT字型シュータンのプーマスパイクを履く神とケンペス選手です。表紙の裏ページにはプーマの広告があり、T字型シュータンの「Cesar Menotti」がメノッティ監督のイラストと供に載っています。

図3 本文中にも貴重なT字型シュータンの写真がないかと期待して海外から取り寄せましたが、全く載っていませんでした。
こちらでもご紹介しましたが、神が愛用していたT字型シュータンのスパイクはマラドーナグッズコレクターの永井さんが所有されている神実使用(図6)しか私は見たことがなく、自力で発見するのは諦めていました。
しかし、最近になってようやく入手することができました。 それが図4です。 残念ながらソールは10本スタッドのオリジナルではなく、アルゼンチン製の12本スタッドに交換されています。 アメリカ在住の20代の方から購入したもので、アッパーは多少使用感がありますが、そこそこきれいです。 その方のお父さんが、昔、アルゼンチン国内のリーグで使っていたものだそうで、よくぞ捨てずに残しておいてくれました。

図4 図3右のタイプと同じ「シーザーメノッティ」。アッパーの表記がすべて大文字です。 筆記体のはこちらに紹介しています。中敷きのデザインもこの頃独特のものでした。
図4はおそらく西ドイツ製で、オリジナルのソールだと「Made in W. Germany」と中央に記されていると思います。 神はアルヘンチノス時代に、シーザーメノッティを履いている画像もありますが、T字型シュータンの固定式は12本スタッドが多い気がします。79年日本でのワールドユースでもそのタイプを使っていました(図5)。
図4はオリジナルではないのは残念ですが、むしろその頃のモデルに似ている気もします。 10本スタッドのソールも今ではなかなか見ることができませんが、以前ご紹介したプーマの動画中には登場しますので(図5右上)、プーマ社にはあると思います(こちらをご参照下さい)。

繰返しになりますが、T字型シュータンの取替え式は「ケーニッヒ」しか見たことがありません(図6)。
特徴はこちらで紹介した通りですが、追加として、スタッド(ポイント)の先端にプーママークが入っています(図6左上)。 同時期のモデルの白スタッドにはないので、このモデル特有だと思います。

図3のエルグラフィコの表紙で神が履いているモデルは図6のタイプのT字型シュータンで取替え式2色ソール(黄・黒)のようですが、実戦で履いている画像はなかなか見当たりません。
しかし、ケンペス選手は図6に似たモデルを82年W杯で履いていました(図7)。 こちらも鮮明な画像ではないですが、なんとなく「ケーニッヒ」モデルの特徴である、側面の西ドイツ国旗様タグがあるように見えます(図7左)。

さて、日本でもT字型シュータンのプーマは私にとってはナゾ多きモデルです。
図8はラモス選手がプーマを履いていた83、4年頃ですが、同じ固定式でも戸塚選手のモデルとはシュータンや、つま先の作りが異なり、ラインも銀色っぽい感じです。

戸塚選手のスパイクは典型的ベルトマイスター(右上)ですが、ラモス選手のモデルはT字型シュータンで、つま先の革が横に広がっています。カメラマンの靴も渋い…。
ラモス選手の特注かもしれませんが、同じタイプを履く方を時々見かけました。
図9左上では木村選手(左端)、左下では金田選手(中央)、そして杉山さん(当時ヤマハ監督)は技術書でT字型のプーマを履いています。

左上では木村選手以外の選手はリオを、森監督とスタッフはTOROを履いていたと思います。TOROは極めて珍しいモデルと思います(こちらもご覧ください) 。
図8、9のT字シュータンモデルがすべて同じかはわかりませんが、前半でご紹介した海外のものとはプーマのロゴの大きさや位置が異なります。
図10では、知る限りの国内版T字シュータンモデルを挙げました。 左上のWM-MEXICOはパラメヒコがデビューする少し前に短期間だけ販売されました。
図8のラモス選手のタイプに似ていますが、シュータンはPUMAの文字だけで、動物のロゴがありません。 こちらで紹介した木梨さんのスパイクはWM-MEXICOだと思います。
右のバレンシアは巻頭の神がベルギー戦で履いたモデルとよく似ていて、カッコよかったので、実際に買った覚えがあります。ただ、クオリティーは価格相応だったと思います。

図11はおまけで、左は多分近年のモデルですが、何となくT字型っぽいので入手しました。 昔のと比べて白い部分が大きすぎますね。 右は「CHICO WM」。「CHICO」というモデルは昔からあるようですが、由来はわかりません。
何となくつま先がWM-MEXICOっぽいですが、イタリア製だそうです。 プーマ製品は私の知らないナゾのモデルが次々出現してきます。

ここでこれまでの投稿記事で訂正させていただきたいことがあります。1974年W杯に初出場したオーストラリア代表のオールストン選手はオニツカタイガーのスパイクを履いていました。
私はこれまで国産初のW杯使用スパイクはミズノと書いてきましたが(Vol.24、25)、謹んで訂正させていただきます。調査不足でいい加減なことを書いてしまい大変申し訳ありませんでした。
(写真は当時のサッカーマガジン、ダイジェスト、イレブン及びゲッティイメージズなどより引用)
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『神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。
◆小西博昭オフィシャルブログhttps://maradonaboots.com/