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黒革の矜持 第3回 播戸竜二×パラメヒコ「日本代表に入るまでは、スパイクに刺繍を入れないと決めていた」

ひとつのスパイクをこんなにも信頼して履き続けることができるのは、フットボーラーとしてとても幸せなことなのかもしれない。播戸竜二が抱くパラメヒコへ思いは、どこまでも尽きない。

Icon s 1 戸塚 啓 | 2016/08/08
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──パラメヒコでいちばんお気に入りのところは?

播戸 シンプルさじゃないですか? シンプルだから飽きがこなくて、ずっと愛されているんだと思う。飾らない感じが好きですね。洋服もゴチャゴチャしていないのが、僕は好きなので。

──軽さはさほど重視しない?

播戸 軽いスパイクを履いたことがないから、僕にはパラメの重さが自然なんです。軽いスパイクを履いたら足が速くなるかって言ったら、そんなことはないでしょう? それほど変わらないよなあ、と思いますよ。重さよりも素材ですね。
 
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──パラメヒコを愛しているわけですから、もちろん天然皮革がいい?  

播戸
 人工皮革がいいって言う選手もいますけど、僕は皮がいいですね。使っているうちに少しずつ皮が伸びてきて、ほどよく足に馴染むので。最初に履いた時はちょっとキツくて、水をかけてその日は履いて、しっかりと足に馴染ませる。使い終わったらシューズキーパーをちょっと大きめに入れる。それで、キュっと伸びるというか。天然皮革は履くと縮むので、シューズキーパーを中に入れておかないと次の日は固くなって小さくなっちゃうんです。履いたらしっかり磨いて、シューズキーパーを入れて伸ばして、っていう作業ですね。  

──自分で磨くそうですね。

播戸 メジャーリーガーのイチロー 選手が、「自分の商売道具は自分で磨く」って言っているじゃないですか。それはすごく共感できるところで。専任のホペイロがいるチームでプレーしてこな かったというのもあるんですけど、その日履いたものを自分でメンテナンスするのは、当たり前かなって。 

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──スパイクの手入れを自分でする選手は、いまは少数派じゃないですか?

播戸 それはだって、カラースパイクを履いている選手は、何色の靴墨で磨けばいいねんって感じじゃないですか?(笑) パラメ(ヒコ)は黒の靴墨でいいですから。皮がちょっと剥げてきても、塗ればまたきれいになるし。それでまた、味が出るし。    

──使うほどに味が出るのが、天然皮革のいいところですよねえ。

播戸 それはもう、間違いないですよね。磨くのが楽しいですよ。  

──スパイクでゲン担ぎをするFWもいると聞きます。点を取れているうちは変えないとか、何試合か取れなかったら変える、とか。

播戸 そこはあまり、求めてないですね。感覚的にそろそろ変えようかな、というぐらいかなあ。「このスパイクで点を取れないから変えよう」じゃなくて、むしろ僕は「取れてないなら取れるまでこれでやろう」と思います。  

──メモリアルなゴールを決めたスパイクは、大切に保存していたり?

播戸 いえ、まったく。チャリティーに出したりしますし。メモリアルなスパイクとしては、ガンバ大阪でプレーしていた2009年元旦の天皇杯決勝で使ったものが……。 

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──播戸選手が延長後半に決勝ゴールを決めて、ガンバを優勝へ導いた一戦ですね。  

播戸
 あのスパイクは、ガンバから飾りたいと言われて。どこに飾ってあるのかは、いまはちょっと分からないですけど。自分で保管しているものは、実はないんです。あっ、ひとつあった! 05年のシーズン途中に、カズさんがヴィッセル神戸から横浜FCへ移籍するときに、『スパイクをください』とお願いしてもらったものがあります。  

──いまでは誰もがやっていると言ってもいいスパイクの刺繍。播戸選手はあることを達成するまでは、入れなかったそうですね。

播戸 日本代表に入るまでは、そういうことはせんとこうと思ってました。2006年に初めて代表に呼ばれて、背番号の「11」を刺繍してもらいたいと、プーマにお願いをしました。 カズさんがヴィッセルでプレーしていたとき、確か2005年やったかなあ。プロ20年目でスパイクに「20th」って入れてたんですよ。 

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──それはレアですねえ。
 
播戸 「あぁ、オレもそれ、やりたいな」と思いましたね。僕は今年がプロ19年目で、来年が20年目なんです。「来年もプレーできてたら入れてください」って、プーマにはお願いしてます。カズさんはヴィッセルだったので、チームカラーのクリムゾンレッドで入れてましたけどね(笑)。  

──20周年仕様のパラメヒコ、楽しみですね。

播戸 僕のサッカー人生は、パラメ とともに歩んできたものですから。新しいスパイクもいいと思うんですけど、僕より上の世代ってパラメに魅力を感じる人が多いじゃないですか。だから、プー マにはお願いをしているんです。もう一度大々的にプロモーションをして、どんどん売ってくださいって。パラメをまだ履いたことがない人、履いたことはある けどいまは履いていない人に、ぜひ履いてほしいんですよ。一度履いたら絶対に惚れると思うんで! (了)      

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取材協力:大宮アルディージャ
                      
取材:戸塚 啓  写真:清水知良、(C)N.O.A


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