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長距離ランナーの御託・藤原新(1) 「マラソン引退したら、思う存分、サッカーやりたいんですよねえ」

10キロ走って一番疲れないサッカースパイクはどのメーカーの、なんというモデルか。 今回、藤原はサッカーショップで100足を超えるスパイクを手に取り、そのうちの何割かに足を通し、あろうことかショップの中をランニングして履き心地を確かめ、心底気に入った数足をサッカー場へと持っていった。

Icon kaneko 金子 達仁 | 2016/09/01
マラソン・ランナーは変態だ!  

そう痛感したのは、4年と少し前、エリザベス女王の即位60年に沸き返るロンドンでのことだった。密着取材をさせてもらっていたわたしに、ロンドン・オリンピックのマラソン日本代表に選ばれていた藤原新はこう言ったのだ。


「歩くと疲れるから、走りません?」  

意味がわからなかった。中学時代、とにかく走るのがイヤで、でも親からは部活を続けることを命令されていたため、仕方なく選んだのがゴールキーパーというポジションだったわたしにとって、「走る」という行為は「罰」でしかない。  

ところが、唖然とするこちらに向かい、長崎出身の変態はこうも言ったのだ。

「だって、走ってる時って、空中にいる間休めるじゃないですか。これが歩きだと、力を抜ける瞬間がないし、第一、時間とエネルギー効率を考えたら、絶対に走った方がいいでしょ」  

いや、時間とエネルギー効率を考えたらタクシーの方が‥‥とノドまで出かかったわたしだったが、さすがにそれは我慢した。

目的はあくまでも、本番のオリンピックに向けてロンドンという街を体感することであって、小判鮫のようにくっついているおっちゃんライターの体力温存ではない。


結局、わたしが折れ、向こうも折れた。つまり、走るでもなくタクシーでもなく、歩いた。約10数キロ。前日飲みすぎていたわたしは激しい下痢に見舞われ、きれいなトイレを探して広大なハイドパークを彷徨った。

生き恥をさらす寸前でようやく目的とするものを見つけた時には、もう二度とマラソン・ランナーの密着取材なんかするものか、という誓いが芽生えていた。
 

だが、藤原新という人物には猛烈に心惹かれた。

彼は、いろんな意味で型破りだった。なにしろ、どうやったら速くなれるかを聞いているうちに、体内のミトコンドリアについて語り始めてしまうようなオトコなのである。

勝つために、世界と戦うためにあらゆるファクターを徹底的に分析し、血肉として取り込んでいく手法は、それまで出会ってきた多くのアスリートの中でも、はっきりと異色だった。  

だから、キングギアを立ち上げ、サッカースパイクを異種目のスペシャリストに語ってもらおうということになった時、まず思い出したのは以前に聞いた藤原新の言葉だった。

「マラソン引退したら、思う存分、サッカーやりたいんですよねえ。さすがにいまやってケガでもしちゃうと、間違いなく朝青龍な感じになっちゃうんで」  

同じ長崎の国見サッカー部が全国を席巻する様を目の当たりにしてきた彼は、まず、サッカーが大好きだった。かつ「話し始めたら一晩中でも話しちゃうと思いますよ」というぐらい、ランニング・シューズに対する思い入れも深かった。

ただ、本場所を欠場している最中にサッカーを楽しんでいるのがバレて、世間から袋叩きにあった横綱と同じリスクを背負うのは、さすがに憚られる──そんなことも言っていた。
 

でも、サッカーシューズを履くだけならば──。
 

恐る恐る探りを入れてみたところ、答えは拍子抜けするほどあっさりしていた。

「あ、いいっすよ。面白そうっすね」   

サッカーが好きで、シューズが好きで、「走る方が歩くよりラク」などと口にしてしまう日本屈指の長距離ランナーが、サッカーシューズを履き倒したらどうなるか。

10キロ走って一番疲れないサッカースパイクはどのメーカーの、なんというモデルか。
 
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今回、藤原はサッカーショップで100足を超えるスパイクを手に取り、そのうちの何割かに足を通し、あろうことかショップの中をランニングして履き心地を確かめ、心底気に入った数足をサッカー場へと持っていった。

「いいランニング・シューズって、ソールの部分にスイートスポットっていうか、そのラインに乗っかって走っていれば疲れないポイントみたいなものがあるんです。サッカースパイクでも、そういうのをはっきりと感じさせてくれるモデルってあるんですね」
 
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果たして、藤原新はどのモデルに最高の評価を与えたのか。  

ご存じの通り、キングギアではヴェルディの永井秀樹によるスパイクのインプレッションもやっているが、それとはまったく、まるで、全面的に違う結果が出た、ということだけは最初にお伝えしておこう。

さあ、乞ご期待である。

(近日公開予定のPart2に続く)