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卓球女子団体金メダルへのキーマン 張本美和が描いた軌跡とパリ五輪でベールを脱ぐ16歳の現在地

7月26日に開幕するパリ五輪で過去最強と呼べる陣容が揃った卓球の女子団体。その充実ぶりから打倒・中国を成し遂げての金メダル獲得が期待される。今回のメンバーに早田ひな、平野美宇に続く3人目として名を連ねたのが張本美和。日本男子のエース、張本智和を兄に持つ16歳はここ1、2年で凄まじいスピードで成長を重ね五輪メンバー入りした。世界ランキングでもトップ10入りするなど期待の若手から中心選手に進化を遂げた張本は、金獲得に向けたキーマンとなり得る存在だ。※トップ画像(C)ITTF

Icon 30716468 1048529728619366 8600243217885036544 n 井本佳孝 | 2024/07/07

当初は黄金世代の陰に


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(C)WTT

張本は2008年生まれで宮城県仙台市出身。世代別の国際大会で優勝するなど、若くして実績を上げてきた張本だったが、当初はパリではなく28年のロサンゼルス五輪に向けた有力選手とされてきた。パリに向けて中心を担うのは、2000年生まれの早田ひな、平野美宇、伊藤美誠と見られており、“黄金世代”の同学年が選考レースでも上位につけてきた。


そんな風向きが変わったのは2023年に入ってからのこと。張本は同年5月の「全農CUP 平塚大会」で14歳ながら準優勝を飾りパリに向けた選考ランキングで5位に浮上する。その後も国際大会で結果を残すと、ダークホースとして一躍注目を集める存在になった。


張本の助けになったのが166cmまで伸びた身長。兄譲りの鋭いバックハンドやサービス、細かい台上技術などには定評があったが、成長期を迎えた身体の進化によりシニアの舞台で対等に戦えるようになった。さらに、国内外の戦いで試合数を重ねることにより、その持っていたポテンシャルが徐々に引き出された。パリの選考においても、五輪経験者の平野や伊藤といったトップ選手を追いかける構図が生まれはじめた。

国内外の大会で飛躍し掴んだ五輪

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(C)ITTF

その蓄積がひとつの身を結んだのが昨年11月に行われた「全農CUP 大阪大会」。張本は準々決勝で伊藤を下すなど期待通りの活躍で決勝までたどり着くと、ファイナルの相手は日本の新たなエースとして成長していた早田。これまで未勝利と苦手にしていたサウスポーに対して、成長の跡を見せつけて4-2で勝利。選考会では初優勝を成し遂げ、大逆転でのパリ行きへ望みをつないだ。


その後も12月に行われた「WTTファイナルズ名古屋」では中国の絶対女王である世界ランキング1位の孫穎莎とフルゲームの激闘を演じ、今年に入ってからも1月の全日本卓球選手権のシングルスで早田に続く準優勝と結果を残した。その結果2月には、団体戦の3人目メンバーに将来性を期待されて選出。五輪過去2大会メダルを獲得してきた伊藤を差しおいて、逆転で滑り込んだ。


2月の五輪メンバー選出から7月の五輪開幕までのおよそ5カ月は伸び盛りの張本にとって貴重な期間であり、これまで五輪で中国の牙城を崩せず銀メダルに留まっていた日本にとってもカギを握った。そんななか歩みを止めない張本の快進撃は続いた。2月に行われた「世界卓球団体戦」では決勝進出に貢献するとともに、決勝では2-2で5番手を任され、東京五輪金メダリストの陳夢とあと一歩の打ち合いを演じた。

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さらに、4月にマカオで行われた「ITTF男女ワールドカップ」では女子シングルスで銅メダルに輝いた。そして4月23日に発表された世界ランキングでは8位にランクインし、日本女子では早田に次ぐ存在に。ここ1、2年で積んできた経験が着実に結果として身を結び、期待のホープではなく、今や中心選手として進化を遂げた。

パリで注目される起用法

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パリ五輪に向けて順調な成長曲線を描いてきた張本だが、本大会ではシングルスに加えてダブルスでも起用が想定される。ダブルスの名手でもある張本は、所属先の先輩である平野と今年に入ってからペアを組み国内外での大会に参戦している。


サウスポーの早田とも昨年12月の「混合団体ワールドカップ」でペアを組んだ経験があり、どちらと組んでも対応する力を備える。五輪の団体戦はダブルス1試合、シングルス4試合を戦うが、もし決勝で中国と戦うことになった場合、世界1位の孫穎莎がシングルスで2点起用される可能性が高い。その場合カギを握るのがダブルスであり、日本女子チームのペアリングにも注目が集まる。


また、張本は早田、平野が開幕直後の7月中に初陣を迎えるのに対し、8月に入ってからパリ本大会を迎える。五輪初出場かつ短期決戦で最年少が流れに乗れるかは重要な要素になり得るが、この16歳は技術だけでなくメンタルも波が少なく崩れにくい安定性が魅力。2月の世界卓球でも多くの出番を与えられ経験を積んできており、早い段階で五輪の空気感に慣れることができればその実力は十分に発揮されるだろう。


競争力が激しい日本女子卓球界のなかでもNo.1と呼んでいい成長速度で中心選手に駆け上がった張本美和。智和との兄妹競演にも注目が集まるなか、張本がパリ五輪の女子卓球チームにおいて果たすべき役割は決して小さくない。悲願の団体金メダル獲得に向けて、五輪初出場でベールを脱ぐ張本の働きぶりには注目が集まる。

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