
パリ五輪後半年間の振り返りー【剣に魅せられて−フェンシングの世界を解き明かす】
史上初となる5つのメダルを獲得し、日本フェンシング界が新たな歴史を刻んだパリ五輪。競技への注目が高まる中、気づけば半年が経過した。この間、筆者はフェンシングの普及活動や研究に奔走してきた。本記事では、その舞台裏とこれからの展望について振り返る。※トップ画像:(c)日本フェンシング協会

体験会の開催と競技の広がり
パリ五輪後、メディアではメダリストのキャラクターを掘り下げる企画や試合の振り返り、タレントとの対決企画など多くの露出機会に恵まれた。筆者のもとにも自治体や学校、スポーツ関連事業者から「実際にフェンシングを体験できる機会を作りたい」という声が数多く寄せられた。
そこで活用したのが「スマートフェンシング」だ。このツールを導入することで、参加者が安全かつ手軽に競技を体験できるようになり、導入のハードルも大きく下がった。
実際に体験会を開催するたびに、フェンシングの普及可能性を実感する場面があった。例えば、ある小学校では「相手を突くのが怖い」と言っていた子どもが、最後には「もう1回やりたい」と興奮気味に話してくれた。次第に相手との駆け引きを楽しむようになる様子を目の当たりにし、フェンシングの魅力が自然と伝わっていることを感じた。

そして少しずつではあるが新規クラブの設立も起こり、既存クラブでは新規受付を一時停止するほどの盛況ぶりを見せるところも出てきた。これは、競技普及の観点から非常に喜ばしい変化だ。さらにスマートフェンシングの存在はスポーツ庁、自治体をはじめ多くの団体から関心を寄せる声を集めはじめている。今後はこの種火をどのようにして大きく、また長く灯していくかを日本フェンシング界全体で考えていかなければならないだろう。
中央競技団体である日本フェンシング協会が継続して実施している学校訪問事業(渋谷区、千葉県)では、筆者が合計10校の講師を担当させていただいた。学年や地域、クラスの雰囲気によっても取り組む様子に違いがあることはとても興味深かったが、共通していたのは「またやりたい」という生徒たちの素直な声だった。しかしフェンシングを一度体験して興味を持っても、その後継続できる環境が近くになければ、せっかくの熱が冷めてしまう。各自治体のフェンシング協会との連携を強化し、道具の配備や既存クラブへの誘導といった仕組みを整えていくことが求められるだろう。

フェンシング自体の魅力がまだまだ伝わっていない
パリ五輪から早くも半年が経ち、日本代表勢はすでに2028年に控えるロス五輪に向け走り出している。国際大会でメダルを量産し、その強さを証明し続けているが、正直なところ、メディアの反応は今ひとつといったところだ。フェンシングを取り扱う記事を見ていても、そのほとんどがメダリストの五輪後の活躍やキャラクターの深掘りといった部分に集中している。選手たちが持つ技術のすごさが伝わりきっていないと感じる場面が多い。どのように考え、相手と駆け引きを行い、高度な技を繰り出しているのか。それらが一瞬で発生する競技性ゆえに本質的な魅力が伝わりきっていないことが新規ファン獲得を妨げているように思えて仕方ないのだ。

私も各種体験イベントを行う際はインスタントリプレイを使用しプレーを見返す時間を設けたりしているものの、まだまだ競技性の可視化や言語化が競技界全体で進んでいない。エンターテイメントの有識者やデジタルクリエイターをはじめ、多くの人から意見や技術を提供してもらえるオープンな場を用意し、新しい魅せ方を検討していかなければならない。例えば、競技の戦術や瞬時の判断力を視覚化するAR技術の活用、試合映像のAI分析、視点カメラを用いた没入型コンテンツなど、フェンシングの魅力をより直感的に伝える方法を考え、活用していきたいものだ。