Final Episode ~最終評価~
メーカー横断履き比べ企画『スパイク・ウォーズ』
金子 達仁
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2016/06/21
Final Episode ~最終評価~
【登場人物】
聞き手(編集部)
マスターナガイ(永井秀樹=東京ヴェルディ1969=)
キッキングパートナー(澤井直人=東京ヴェルディ1969=)
◆6スパイクの感触をグラウンドで確かめる。キッキングパートナーは澤井選手。
ひとまずクラブハウスでの試着を終えたマスター・ナガイ。やっぱりスパイクは実際にボールを蹴ってみなければ、ということでグラウンドへと移動。
ここでサッカー・ダイジェストのJリーグ年間に「永井門下生の番頭役として、周囲に目を光らせる」と紹介されている澤井直人選手(4月3日で21歳!)がキッキング・パートナーとして加わる。ちなみに昨年までナイキを使用していた澤井選手、今年からアシックスを使うことになった。クラブハウスからグラウンドへ移動する道すがら、敬愛する親分から「アシックス、いいじゃねえかよ」と言われ、ちょっと嬉しそうだった。
◆前代未聞の試みに、ボールを蹴る永井の目は少年のようだった。
で、芝生の上での試着も無事終了。
──どうですか、マスター・ナガイ。芝生の上でボールを蹴ってみると、印象って変わるものですか?
マスター永井 「ちょっとね、びっくりしてる」
──といいますと?
マスター永井 「こんなに印象が変わるとは思わなかった。というか、やっぱりスパイクってこうやってボールを蹴ってみないとわかんないわ」
──とはいえ、一般のユーザーはショップで実際に手をとってみるのが精一杯で、誰が履いてるか、であったり、価格やスペックだけで決めてしまっているケースも多いと思います。
マスター永井 「だろうね。だから、たとえばお店の中に人工芝でもいいからちょっとしたスペースを作って、そこで蹴ったりストップ&ゴーができるようなショップができてくると、スパイクの選び方が根本的に変わるんじゃないかなって気がする。各メーカーのスパイクを試し履きできるイベントみたいなのやってのみても、面白いんじゃないの。ま、今日の結論その一としては、スパイクは蹴ってみないとわからない(笑)」
◆蹴ってみての印象に変化は・・・?」
──では、実際に履いてみての、各スパイクにインプレッションをお願いしたいと思います。まずは、クラブハウスでの評価では50点で最下位だったナイキのティエンポ・レジェンド4 HG-E。
マスター永井 「スパイクの中で足の指が泳ぐ感じがある。正直、違和感は凄かった。俺がこれを試合で使うとなると、中敷きから全部変えて作り直さないとダメかも」
──中敷き。いずれ取り上げようとは思っているのですが、だいぶ変わるものですか?
マスター永井 「相当変わるよ。ここをいじるだけで、スパイクによっては別物みたいに生まれ変わることもある。俺なんかも、昔はメーカーに頼んでヒールのところを改良してホールド感をアップしてもらったりしたけど、そこまで大がかりなことをしなくても、一気にフィット感はよくなるね」
──ヒールのホールド感ですか。マスター・ナガイはそこにこだわりますね。
マスター永井 「そういう意味では、このナイキのスパイク、そこの部分はあんまり悪くないんだ。ちゃんとホールドしてくれてる感じはする。だけど、逆にそのことがフロント部分のルーズな感じを際立たせちゃってるのかもしれない。何度もいうように、スパイクの好き嫌いっていうのは個人差によるところも大きいんだけど、これだけヒールのホールド感を大切にしてるスパイクなのに、どうしてフロントは‥‥って思っちゃうよね」
──採点はいかがでしょうか。
マスター永井 「10点プラスして60点。足を入れただけだとガッカリだったけど、実際にボールを蹴って走ってみたら案外悪くなかったって感じかな」
◆NIKE「TIEMPO LEGEND Ⅵ HG-E」/60点
──では続いて60点だったミズノのウェーブイグニタス4についてお願いします。
マスター永井 「これはね、ナイキとは逆だった」
──といいますと?
マスター永井 「履いてみたら評価が下がった。これ、アッパーの素材が内側と外側で違うでしょ。そもそもそのことによる違和感がイヤだったんだけど、実際に走ってみると、明らかにヒールのホールド感が低い。俺の場合、このスパイクで走るのにはストレスがあるし、たぶん、疲労度も大きくなるんじゃないかって気がする」
──ただ、このスパイクは走るということより、あくまでも蹴ることを重視したスパイクではないかと。その点はいかがでしょうか。
マスター永井 「蹴ってみるとね、確かにボールをつかまえてるっていうか、このスパイクならではの感覚っていうのはある。好きか嫌いかは別にして。だから、アシックスのスパイクが誰にでも履きやすい万人受けするスパイクだとすると、これはあくまでも本田選手のためのスパイクなんだろうね。ものすごくストライクゾーンは狭いんだけど、いいって思う人はこれじゃなきゃダメだって思うぐらい」
──なるほど。では採点を。
マスター永井 「5点減点して55点。俺、本田選手じゃないからさ」
◆MIZUNO「WAVE IGNITUS 4 JAPAN」/55点
──続いては同着3位の70点だったアディダスX15・1 HG LEとプーマ・エヴォパワーFGについて。
マスター永井 「まずはアディダスの方ね。びっくりしたのは、“マジかっ!”て思うぐらい、幅広で緩かったこと。クラブハウスで履いた時はそこまでとは感じなかったんだけど、やっぱり蹴ってみて初めて見えてくることってあるんだね」
──それは減点材料ですか?
マスター永井 「いや、そういうことじゃない。緩いことは緩いんだけど、足幅が広い人にはちょうどいいんだろうし、ボールを蹴った時の感覚や芝を踏みしめた時にソールから伝わってくる感触はさすがって感じがする。こういう表現をしていいのかわかんないけど、クルマにたとえると、上質な国産車って感じかな。ドイツのメーカーが作ったものなのにね」
──ほめ言葉ですよね?
マスター永井 「もちろん。ただ、クルマでいうとポルシェとかBMWのMやメルセデスのAMGって、バランスは取れつつ、どこか突出したところもあるでしょ。このスパイクに関していうと、そういうところがないんだよね。欠点がない代わりに、うわ、こりゃすげえやってところもない。そういう意味でも、国産車っぽいかなと」
──ソールから伝わってくる感触っていうのは、ちょっと新鮮なスパイクの見方ですね。
マスター永井 「そう? でも大事なことだと思うよ。固すぎてもダメだし柔らかすぎてもダメ。疲労度がまるで違ってくる。誰にでも自分にあったソールっていうのはあるはずだし、このアディダスを履いてみて思うのは、ああ、やっぱり老舗ってわかってるよなってこと(笑)」
──採点は?
マスター永井 「5点プラスで75点。さすがのアベレージでした」
◆ADIDAS「X15.1HG LE」/75点
──ではプーマの方を。
マスター永井 「アディダスに比べると、幾分フィット感はシャープなんだけど、基本、割と似てるなって印象がある。これも幅広だし、上質な国産車って感じだし」
──大昔はプーマというと、とにかく足型が細くて、それがイヤでプーマは履かないという選手も少なくなかったと聞いていますが。
マスター永井 「このスパイクに関しては全然違うよね。パラ・メヒコあたりから、日本人の足型にあったスパイクを作るようになってるから、俺に関していうと、プーマ=細いってイメージはあんまりない」
──ちなみにマスター・ナガイが過去履いてきた最高のプーマは?
マスター永井 「Jが開幕したころに履いてたスフィーダかな。ヒールの部分を改良してもらってたっていうのもあるんだけど、フィット感といい蹴り心地といい、とにかく最高だった」
──カンガルー・アッパー。定価18000円。カーフ・アッパーのベルトマイスターと並ぶプーマのトップモデルでした。
マスター永井 「懐かしいねえ、ベルトマイスター。ヴェルディでもあれが好きな選手多かったし」
──では、採点の方をお願いします。
マスター永井 「80点はあげられるかな。俺の中ではパラ・メヒコなら90点なんだけど」
◆PUMA「EVOPOWER1.3FG」/80点
──同着だったアディダスとプーマの兄弟対決はプーマがリードを奪いました。続いてはクラブハウスでの採点では85点だった、アンダーアーマー・クラッチフィットについてお願いします。
マスター永井 「やっぱいいわ、これ」
──どのあたりが。
マスター永井 「まず評価したいのはこのフィット感だよね。スパイクの中で指が遊ぶようなことはまったくない。天然皮革と違って馴らしをする必要もないから、明日公式戦でもすぐ行けるって感じ。正直、新興メーカーだろ、サッカーナメんなよって思ってた部分もあったんだけど、いやあ、参りました。万人受けするし、どんなタイプの選手でも大丈夫なスパイクだね」
──このメーカーが、過去サッカーの世界に参入してはすぐに消えていったメーカーと違うのはどんなところでしょう。
マスター永井 「サッカー選手の声をずいぶん拾ったんだろうなって思えるとこかな。そういう意味では、あくまでも本田選手のために作られたミズノのウェーブイグニタス4とは対局にあるスパイクかもしれないね。当然、ストライクゾーンに入ってくる人数も違う」
──絶賛ですね。気になるところはなかったですか?
マスター永井 「全然ないのよ、これが。それでも、どうしてもマイナス・ポイントをあげろって言われたら、耐久性ぐらいかな。いろんな意味で文句のつけようのないスパイクなんだけど、普段土のグラウンドでプレーする高校生が使ったら、果たしてどれぐらいもつのかな、と。ま、それはどのメーカーのトップモデルについても言えることなんだけどね」
──では採点を。
マスター永井 「変わらず。85点。なので、今回履いたスパイクの中では2位です。あ、全然関係ないんだけど、このアンダーアーマーのスパイクに、ミズノのスパイクのフロント部分を装着したら面白いかも、なんて思った。そうしたら、あの違和感もだいぶ軽減されるんじゃないかなって」
◆UNDER ARMOUR「CLUTCHFIT FORCE HG JP」/85点
──なるほど。ということで、アンダーアーマーが2位確定ということは、クラブハウスで1位だったアシックスDSライトX-FLY2が1位ということでよろしいのでしょうか。
マスター永井 「文句なし。ダントツだね。さっきも思ったんだけど、100点満点で120点をつけてもいいぐらい。これぞメイド・イン・ジャパンのクオリティ。違うわー」
──100点満点で120点ということは、今回履いていただいたすべてのモデルはもちろん、マスター・ナガイが長年愛用なさってきたパラ・メヒコよりも上ということになりますが。
マスター永井 「んー、ちょっとショックではあるけど、でも、そう感じちゃったんだから仕方ない(笑)」
──アシックスのいいところは?
マスター永井 「すべてにおいて非の打ち所がないというのが本当のところだね。ホールド感は絶妙、ソールの感触も文句なし、で、ボールを蹴った感覚も抜群。アッパーはカンガルーだと思うんだけど、その革と足との間にあるクッション材みたいなのの感触が最高なのよ。THIS IS THE SPIKEと言ってもいいよ、これ」
──最近は日本代表選手の使用率もずいぶん低くなってしまったアシックスですが、いやいやどうして、スパイク自体の出来はまったくヒケを取らないどころか、他を圧する次元にあるということですか‥‥。
マスター永井 「あくまでも今回履いたスパイクの中では、だけどね。とはいえ、俺が履いてきた歴代のスパイクの中でも、間違いなくトップクラスのモデルではあるよ、このアシックス」
◆ASICS「DS LIGHT X-FLY 2」/100点(120点)
──さて、マスター・ナガイには今回、おそらくは世界で初めて公式の場所で各メーカーのスパイクを履き比べるプロ・サッカー選手という役割をしていただいたのですが、試着を終えられてのご感想は?
マスター永井 「面白いね、ものすごく面白い。あと、最近のスパイクは進化してるから何を履いたって変わらない‥‥なんてことはまるでないってことがよくわかった。メーカーによってスパイクは全然違うし、モデルによってもまるで違う。どれぐらい違うかっていうと、こりゃ自分のパフォーマンスに明らかな影響が出るなって確信できちゃうぐらい、違ってた」
──もちろん、マスター・ナガイとは違ったものをスパイクに求める選手もたくさんいるでしょうから、将来的にはこういう企画に参加してくださる選手を増やしていきたいですね。
マスター永井 「だね。ウチの高木大輔みたいに天然皮革のスパイクはイヤだ、なんて選手も出てきてるわけだし。お、そうだ、(キックングパートナーの)澤井、お前今年はアシックスだそうだけど、何がいいのよ」
「え、あ、その、ターンした時の踏ん張りです」
マスター永井 「ほらね、まるで違う。そんなの、俺どうでもいいもの(笑)」
──スパイクはこちらで用意いたします。参加をご希望するJリーガーのみなさん、お問い合わせをお待ちしております(笑)。
(取材協力/東京ヴェルディ1969・澤井直人)