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サッカー界が生んだ異端児・井筒陸也が証明するスポーツの価値(後編)

2019年1月。先鋭的な視点を持つアスリート・井筒陸也が突如、プロサッカー選手からの引退を発表した。井筒の思考の中に、スポーツ界の持つ価値が隠れていることを確信した筆者は、元フットサル日本代表キャプテンの北原亘氏を通じてコンタクトをとり、井筒にインタビュー取材を試みた。前編では幼少期からどのようにサッカーに関わり、どのような考えでプロサッカー選手になったのかを訊きながら、井筒陸也という人間がどのようにして作られたのかのヒントを求めた。後編では、井筒がスポーツを通じて何を感じ、何を学んできたのか、そしていま、どんなことに取り組んでいるのかについて切り込んでみた。このインタビュー取材を通じ、いま一度、アスリートの価値やスポーツの価値を再考するきっかけにしてもらいたい。

Icon segawa.taisuke1 瀬川 泰祐 | 2019/04/21

スポーツにおける最上位概念を考える


 ――サッカー選手としての井筒陸也と、人間としての井筒陸也の2面性がある中で、サッカー選手としてのモチベーションはどこにあったのでしょうか?

サッカーが上手くなりたいという気持ちはさほどありませんでした。もともと、サッカーをやっていることと、サッカー選手になりたいという動機と紐づいていない選手でした。また、キャプテンをやってきたことについても、色んな状況から、そうせざるを得なかっただけで、僕自身はリーダー人材ではないと思っています。でも、いざキャプテンを引き受けても、サッカーの実力がないとみんな言うことを聞いてくれないので、そのために練習をしていた感じです。ただ、全日本選抜大学選抜には、2回ほど選出していただいたんですけど、将来Jリーグに行くかどうかはさておき、選抜チームに選ばれていた方が、自分のキャリアにも繋がるし、リスペクトしてもらえるとか、そう言うところは考えてやっていました。

――多くのサッカー選手は、ライバルとの差別化を図る時、プレースタイルに特徴をだしていこうとすると思うんですが、井筒さんはそうは思わなかったのでしょうか?

僕はプロになってからもポジションをコンバートされましたが、それを嫌がる人もいれば、嫌がらない人もいます。僕はあまり嫌がらないタイプですね。なぜかというと、サッカーの面白いところって、自分がどこのポジションでプレーするかというところではなく、この相手に対して自分たち11人がどう戦うのかというところにあると思っているからです。もちろんピッチ内外を含めての話です。ピッチ外でいえばチームビルディングみたいな話になりますし。そういうところが面白いと思っているので、自分自身のプレースタイルや、どこのポジションでプレーするかなどには、あまりこだわりはなかったですね。


外からの評価と内からの評価

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――小さい頃から組織に意識がいっている選手というのはあまり聞いたことがなかったので、ずっとそういった思考でサッカーをやってきたことに驚きました。でも、逆にいうと評価されづらいなどの悩みはなかったのでしょうか?

プロスポーツの世界に入って感じたのは、評価の基準がすごく曖昧だということです。選手への評価が定量化しづらいんです。例えば、僕がプロの世界で活躍できるかどうかという評価は、スカウトの人の感覚に頼るところが大きいですよね。また、1年間試合に出続けたからといって、明確に数値化できる要素が少ないため感覚で評価されることになってしまう。プロスポーツの世界はビジネス界よりも定量化が難しいにも関わらず、その評価が持つ重みはスポーツ界の方が大きいんですよね。クビになったりとか、給料が上がったり下がったり。逆に、ビジネス界の方は、定量化できる部分が多く評価がしやすいのに、あまりその評価が処遇に影響しない。良くも悪くも、スポーツ界とビジネス界の評価基準は大きな差があるなと思います。

――ビジネスの世界では行動評価のような基準も存在しますが、スポーツの世界では、選手としての評価軸しかないですからね。

ピッチ内だけで完結する評価も重要ですけど、ピッチ外での選手の働きも組織にとっては、かなり重要だなと思います。でもそこを評価する仕組みは今の所ないんですよね。チームにいい雰囲気を作ったり、若手の模範になるようないい味を出しているベテラン選手がクビを切られていったりしますからね。このまま、曖昧な評価基準で、自分の人生が曖昧に決められていくのって結構しんどいなと思っていました。自分がJリーガーになれたのも、いろんな縁があってのことですし、自分が試合に出られるようになったのも、本当にたまたまです。その曖昧さがいいという人もいるとは思うんですけどね。もちろん、選手は常に評価される側なんですけど、僕はどちらかというと、外から内に向かって評価されるより、内から外に何かを発していきたいというか、自分で自己評価をしたいっていう感情が芽生えてきました。今は、関東リーグ2部でプレーしていて、メディアの人も一切いないし、そこでプレーしても給料は1円も出ていません。つまり外からの自分への評価はゼロです。でも、いま自分がこういう思いを持ってサッカーをしているとか、自分はこういう人間なんだということを、外に向かって表現しているっていうのは、精神衛生的には非常に豊かなことをしているなと思っています。 



井筒が考えるスポーツの価値


――サッカーをしている人にとって、日本国内における最上位概念はJリーガーになることだという考えが支配的な中、必ずしもそうではないということを自らの行動で表現したことは非常に意義があることだと思います。引退してみて、改めてアスリートの価値をどう捉えていますか?

僕の大好きな先輩で、現在もサガン鳥栖でプレーしている小林祐三選手は、プロスポーツの世界を「変数がめちゃくちゃ多い」という言い方をしています。どんなに努力しても、監督が変わったり、同じポジションに凄い外国人が入ってくれば試合に出られなくなりしますし、怪我をしてしまうことだってあります。さらに試合では、敵も味方が同じピッチ上にたくさんいて、90分っていう長い時間プレーします。そんな環境の中で、点数が入るか入らないか、プレーが成功するかしないかが決まって行く。自分の力だけではどうしようもないことだらけですよね。Jリーガーって、そんな中で生き残っていかないとならない職業なんですけど、祐三さんは「変数が多い世界で勝つからこそ意味がある」と言っていました。偉そうなことは言えないんですけど、変数が多い中で長く活躍している人たちは、何かがうまくいかない時の機微とか、自然と身についた生存する術は、社会に出て十分に活かせるんじゃないかと思っています。

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スポーツの価値を高めるために必要なこと

――具体的にビジネスの世界に入ってみて、これまでスポーツを通じて身につけた能力が活かせたことはありますか?

いま、僕はスポーツをドメインとする株式会社クリアソンという会社の中で、アスリート研修や人材育成などの事業に携わっています。その中で、通用する部分は多いなと感じています。人事部門の方や、社内の組織開発・人材開発をしている方々と一緒に研修プログラムを考えるところから、実際に研修を実施するところまでを横断的に行なっているんですが、この研修の感触がとても良いんです。「そのまま仕事に使えます」って言ってもらえることがすごい多い。その点ではスポーツで身につけた力は、汎用性が高いなと感じています。

――スポーツの価値を高めるために何が必要だと考えていますか?

いまは、企業研修以外にも大学の体育会生に向けた研修を行なっているんですが、スポーツの価値をさらに豊かにしていくためには、スポーツに真剣に取り組んだ人たちが、スポーツを通じて学びを得たり、それを社会に還元していくことが必要です。例えば、「大学の体育会生は使えないな」っていう社会の認識が出来上がってしまうと、それは「スポーツ使えないな」っていうことと直結してしまいます。だからこそ、大学の体育会生に対して、自分たちがソリューションを提供していく価値があるのだと思っています。

――具体的には学生にはどんな研修をしているのでしょうか?

スポーツの価値って何だろうとか、どうしたら部活が強くなるのかとか、自分たちがやってきたことって何だろうとか、就職活動の時に自分たちがやってきたことをどう伝えるべきかとか。そんなことを考える機会を提供させてもらっています。僕も大学でスポーツをやってきた人間として、愛着もありますし、やりがいを感じています。

――井筒さんは、契約延長のオファーを蹴ってまで、アマチュア選手としてプレーするという選択をしましました。そこには何かを証明したいという想いがあるように感じます。

6部とかでやっていると、「お前のチームは所詮6部じゃないか、何がチームビルディングだ」って思う人もいるはずですよね。だから僕たちは死ぬほど頑張らないといけないと思っています。チームを勝たせられれば面白いなという部分もありますし、常に自分たちがエビデンスになるっていう自覚を持ってやっています。

――最後になりますが、今後、井筒さんは何を目標として行くのでしょうか?

僕はあと5年で30歳になるんですけど、その時に、Criacao Shinjukuが少しでも上のカテゴリに行けるようにすることは目標の一つです。そこでプレーしながら、「誰もがスポーツの価値を通じて豊かになれる」ということを発信していきたいですね。特にこの「誰もが」っていうのがキモだと思っています。僕はいつも、歌舞伎町の前を通って練習に行くんですけど、何年か後には、歌舞伎町にいる様々な人たちが、スポーツを観にくるようになればいいなと思いますね。あそこにスタジアムができて、そこにいる人たちがスポーツを通じて感動を得るっていうことに対しては、人生をかける価値があるなと思っています。

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取材後記

25歳の若者がJリーガーの肩書きを捨てる選択をしたそのウラ側には、スポーツの持つチカラが社会に活かせることを自ら証明する、という強い意志があった。いつか井筒が「サポーターの声援って、勝利に貢献出来ていますか?」という問いに対する明確な解を得たら、改めてスポーツの価値を世の中に問うてみたい。


取材・文・写真:瀬川泰祐