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元ハンドボール日本代表主将・東俊介 〜スポーツ界が評価の目に晒される時を見据えて〜

最近、アスリートの力を社会に役立てていこうとする動きが盛んになってきていることをご存知だろうか。様々な課題が横たわる現代社会において、アスリートの活躍の場は、競技場の中だけではなくなってきているのだ。 それを象徴するようなイベントが11月9日(土)・10日(日)の2日間に渡って行われた。スポーツ、ミュージック、アートを通して若者が献血・骨髄バンクの必要性を知り行動するきっかけを作ろうとする「SNOWBANK」と、日本財団がアスリートの社会貢献活動を促進する目的で立ち上げた「HEROs」がタッグを組み、「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD×HEROs FESTA2019」が開催されたのである。今回、キングギアでは、このイベントの中でも、興味深かったセッションについて、4回にわたって連載する。第4回目は、元ハンドボール日本代表キャプテン・東俊介氏によるトークセッションの様子から、「ゆるスポーツ」を立ち上げた経緯や、東京オリンピック、そしてその先を見据えたスポーツ界の価値について紹介する。

Icon segawa.taisuke1 瀬川 泰祐 | 2019/11/15
(東)今日は短い時間ではありますが、どうぞよろしくお願いします。

ーー東さんは、元ハンドボール日本代表キャプテンということですが、日本には、野球やサッカーなどメジャーなスポーツがある中で、なぜハンドボールを選んだのでしょうか?

(東)僕は、もともと運動がとても苦手で、周りから馬鹿にされていたんですね。そこで一番レギュラーになれそうだという理由で、ハンドボールを選びました。

ーーそれはいつ頃のことですか?

(東)中学1年生の時ですね。僕は石川県の金沢市出身なのですが、僕が通っていた中学校は、必ず部活動に入らないといけないというルールがあって。僕は運動音痴で、どちらかというと、絵を描いたり本を読んだりする方が得意な、文化系だったんですね。
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ーーえ〜、絶対ウソでしょ?

(東)いや、ホントだって! 文学少年だったんですよ。だけど、身長が大きかったんですよ。小学6年生で170cmもあったんです。

ーーそれはかなり大きいですね。

(東)小学6年生にして、すでにナガトモさんよりデカかったわけですね。

ーー間違いなく大きいですね。

(東)それだけ大きいのに、運動部に入らなかったら、女の子にモテないんじゃないかと思って。

ーーやっぱりそこですか。

(東)他にも原因があることは、大人になった今ならわかるんですよ。でも、思春期の時はわからないんですよ。

ーーそうですよね、一生懸命ですからね。

(東)そうそう。そんな理由で入ったのがきっかけです。

ーーハンドボール部に入ってみて、これは楽しかった、これは辛かったというところを教えてもらえますか?

(東)ハンドボールって、走って飛んで投げるというスポーツだから、練習は厳しいんですよ。だけど、サッカーでシュートを決めるのって難しいじゃないですか。野球であんなに細い棒で丸いボールを打つのも難しいじゃないですか。でも、ハンドボールを手でゴールに入れるのなら出来るでしょ。だから、成功体験を積むことができるという意味では、ハンドボールはすごいオススメ。

ーー自信を持てるスポーツなんですね。バスケットボールとも似ていますけど。

(東)バスケって、ゴールを決めるのは難しいでしょ。あんなに小さくて丸いところに入れるんだから。ここに集まっている人だって、ゴールを決めたことがないという人はいっぱいいるでしょ。でもね、ハンドボールなら、すぐに決まりますから。

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ーーそういう快感がハンドボールにはあるんですね。楽しい経験も辛い経験もあったと思いますが、オリンピックには出場されたということで……。

(東)出てねぇわ! 出てないんですよ。恥をかかすなよ(笑)

ーーえっ。僕は、昔から東さんのことを知っていますが、出ているものだと思っていました。

(東)ハンドボールって、男子は1988年のソウルオリンピックから、女子は1976年のモントリオールから、1回もオリンピックに出ていないんですよ。だから、俺も出ていなくて当たり前でしょ。俺だけ出ていたらおかしいでしょ!?

ーー勉強不足でした。ただ、オリンピック、来年には日本にやってきますよ。東さんからみたオリンピックとは?

(東)そうですね。「オリパラ」という言葉って、日本で初めて使われた言葉なんですよね。オリンピックとパラリンピックを一緒に行うということなんですけど。オリンピックとパラリンピックというのは、単なるスポーツの大会じゃないんです。アスリートが「より高く、より速く、より強く」というのを目指す大会ではなくて、平和の祭典なんですよ。オリンピックという世界最大のイベントがあるから、世界中からいろんな人たちが日本に訪れて、日本の良いところを知ってもらったり、パラスポーツの選手たちが来ることによってバリアフリーが進んだり、様々な言葉を話そうとするきっかけになったりする。だから、単なるスポーツ大会じゃなくて、国自体を前に推し進めるものなんです。

ーーなるほど。いい話ですね。

(東)いい話だよ。今日はいい話をしに来たらから(笑)。

ーーじゃあ、カットで。

(東)なんでだよ! 一番大事にしろ(笑)。

ーーオリンピックって、これまで勝ち負けだったり、メダルを何個獲得したかに注目が集まってきたじゃないですか。でも、スポーツは勝ち負けだけじゃないと言えるのは大きいですよね。

(東)だってね、僕はハンドボールでたくさん勝ったこともありますけど、ここに集まっている人、僕のことを誰も知らないじゃないですか。

ーーまあ、知らない人が、ほぼ全員……。

(東)おい! もうちょっと軽く言え。深刻な雰囲気にするな、マジで(笑)。アスリートって、いくらコートの中で輝いても、社会には貢献しないわけですよ。ハンドボールがうまいとか、バトミントンがうまいとか、水泳がうまいだけでは、世の中の人にとっては、全く必要ないじゃないですか。そうじゃなくて、アスリートというパーソナリティを活かして、どんな活動ができるかということがとても大切です。

ーー東さんが現役を退かれた後の活動は、特に幅広いですよね。いろいろな活動をしている。そんな中で、ここに集まっている皆さんに知ってもらいたい活動があれば、ぜひ紹介してもらいたいのですが。

(東)HEROsって、毎年12月にアワードといって、表彰式をやっているんですね。今から2年前に、第一回のアワードで表彰された「ゆるスポーツ」っていうものがあるのをご存知ですか。

ーー聞いたことない人は? 結構いますね。

(東)おい! 聞いたことがない人の手をあげさせるな! 何回も恥をかかせるな(笑)。ゆるスポーツって老若男女、健常者も障害者も一緒にできるスポーツで、例えば、みんなでハンドボールをやりましょうと言っても、なかなか出来ないじゃないですか。キーパーはやりたくないとか、怖いとか。そこで、「ハンドソープボール」といって、手にヌルヌルのハンドソープをつけてプレーするんですよ。そうすると、ミスが当たり前になって、ミスが笑いになるんですよ。僕は昔からスポーツが得意じゃなかったからよくわかるんですけど、スポーツをやっていると、ミスをした時って嫌じゃないですか。ミスすると叱られるから、スポーツを嫌いになってしまう。だから、ヌルヌルして、ボールが滑ったりミスすることを笑いに変えられるというのが大切なんです。

ーーそれは楽しそうですね。

(東)スポーツって、勝ち負けだけじゃなくて、やっていて楽しいとか、ルールが一緒だから、言葉が通じなくてもコミュニケーションが取れるとか、そういう良いところがありますよね。勝ち負けだけにこだわってしまうと、ミスが怖くなってしまう。それをなくそうというのが、「ゆるスポーツ」なんです。

ーーお子さんが、ミスをすると自信をなくしてしまうケースは多いですよね。それがトラウマになってしまったりする。

(東)僕は、いつも思うんですけど、スポーツの指導者って、スポーツができる人がなるじゃないですか。そういう人には、スポーツが下手な人の気持ちがわからないんですよ。だから「なんで出来ないの?」とか言っちゃうわけです。これは勉強でも一緒のことだと思うんですけど、出来ない人のことをどのようにして思いやるかというのはすごい大事なことで。

ーー教育的な発想なんですね。東さんは、ハンドボールはもちろん、HEROsのアンバサダー、そしてゆるスポーツと、社会貢献活動にも積極的で、この前も少年院に行って喋られたということですが。

(東)HEROsアクションの活動の一環で、金沢市にある少年院で講話させてもらったんです。僕が住んでいた金沢市は治安の悪い地域だったし、いま僕は44歳なのですが、若い頃は、ビーバップ・ハイスクールとかが流行っていてね。

ーーここに集まっているお父さんたちの若い頃の時代ですね。

(東)そうですね。だから、僕も同級生のことなんかを思い出しながら話をしたんですけど、少年院って、実は刑務所とは違って、服役するところではないんですよね。また何か作業をするところでもない。少年たちを矯正させるための施設なんですよ。みなさんも勘違いしていませんか? だから、少年院では、教養を教えたり、社会に出た時に役立つ資格を取得させたりと、そのようなことをやっていることを知ることができたというのはすごいプラスでした。

ーーその中で、笑いあり涙ありだったと伺っていますが。

(東)泣いてしまったのは僕の方だったんですけどね(笑)。

ーーえ〜。泣いたのはご自身だったんですか。泣かせてくださいよ。

(東)聞いているやつらは泣いていない(笑)。俺自身が感動して泣いちゃったんですよ。

ーーいまの東さんの活動は、本当に素晴らしく思います。

(東)僕が金沢出身だからといって、僕が金沢市の少年院に行って「講演をさせてください」と言ったところで、OKしてもらえないわけです。ところが、日本財団のHEROsという団体があるから、社会貢献のチャンスをもらうことができました。僕らも、自分が持っている力をなかなか活かせないわけですよ、個人単位では。だって、「ハンドボールの東」っていっても、誰も知らないわけじゃないですか。被災地の支援だって、一人だけではなかなか行けないですよね。どうやって自治体の人と連絡を取るのか、どこでボラディアの受け入れを行っているのかすらわからない。そこでHEROsという団体があって、色々とサポートしてくれる人たちがいるから、僕たちは現地に行くことができる。その代わりに、現地に行けば、我々アスリートにしか出来ないことがあるんですよ。例えば、笑顔を作ることや、コミュニケーションをとること。例えば、中田英寿さんとか、井上康生さんのような著名な方だと、行くだけで親御さんなんかは「キャー」って言うわけです。僕は知られていないですが、知られていないなりに、ちゃんと喋って盛り上げたりしてね。

ーー流石ですね。

(東)ホントにそう思っている?

ーーもちろんですよ。マイク・パフォーマンスを楽しみにしながら、今日も会場に来ましたから。

(東)嘘つけ! じゃあ、ちゃんと調べてこい(笑)。

ーー勉強不足でした(笑)。ただ、いま東さんが言った通り、昔とはかなり変わってきていますよね。昔のアスリートは、スポーツで活躍してメディアで取り上げられて、ただそれだけだったと思うんですよね。でも、今はそうではなくて、マイナースポーツも含めて、多くの競技の方達が、社会貢献活動に繋げているじゃないですか。そういうところは、HEROsの活動の素晴らしいところですよね。

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MCのムッチーこと鈴木理さん

(東)おっ! 今日初めて良いこと言ったじゃん(笑)。

ーーありがとうございます(笑)。アスリートがスポーツで感動を生むのは当たり前。その感動をセカンドキャリアに広げて行くことが出来る時代になって来ましたよね。一人では出来なくても、みんなで。

(東)そう。今までは、野球選手もサッカー選手もバトミントン選手も個別の活動はあったんですよ。でも、それをまとめたのがこのHEROsです。皆さん、HEROsのウェブサイトって見たことあります? ぜひ検索して見てもらいたいんですけど、「アスリートがスポーツマンシップを発揮できる場所は、競技場の中だけではない」というメッセージがあるんです。

ーーHEROsアワード、SNSですごい投稿されていたんですよ。みなさん、かっこいいじゃないですか、タキシードを着て。良い男でしたね。

(東)見てないだろ?

ーーだって、かっこいい人ばかりじゃないですか。その中で東さんには「えっ」って思いましたけど。

(東)おい!(笑)

ーーでも、それくらい東さんがいろんな場所で活躍しているということですよね。今後のスポーツ界、東京オリンピック・パラリンピックもやってきます。また、オリンピック後のスポーツ界をどのようにお考えですか?

(東)たぶん、2020年以降、日本のスポーツが最も試される時がくると思います。いまはオリンピック・パラリンピックが開催されるので、国や企業などからスポーツに予算が集まっていると思うんですけど、オリパラをやってみて、「これで良かったんだっけ?」という話が出るはずなんですよ。評価されるわけです。その時に、メダルをどれだけ取ったと言ったところで、世の中の人はあまり見向きもしないと思うんです。HEROsみたいに、スポーツが世の中にどれだけ貢献できたのか、アスリートがどれだけ貢献できたのかが試される。今回のイベントの主催者である、荒井daze善正さんが、骨髄バンクの必要性を訴えているじゃないですか。みなさんは登録していますか? 骨髄バンクっていうと少し怖い感じがするかもしれませんが、血液を2cc抜くだけで、誰かの大切な人を救えるわけです。いまは自分の家族に白血病の人がいないから、自分ごとになっていないかもしれませんが、もし自分がその身になった時には、必要だと思うわけじゃないですか。自分がそう思った時に、自分が登録していなかったら、遅かったりするんですよ。僕たちは今回のイベントをきっかけに、その大切さを知ったわけじゃないですか。それを活かさないともったいないですよね。誰かの大切な人のためになる活動をしている荒井さんは本当にすごいと思うし、僕ら自身もHEROsという団体を活用させてもらって、例えば僕だったら、ゆるスポーツや、アスリートのセカンドキャリアのようなことをやっていけたらと思っています。

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ーーいま東さんがおっしゃっていた「きっかけ」。On Your Marksという言葉が入っているんですけど、知ってもらうことは本当に大切ですよね。気づいた時には遅かったというのではなくて。さあ、そろそろ時間ですので、最後に一言お願いします。

(東)そうですね。今も言ったように、本当にせっかく知ったなら、何もしないのはもったいないから。自分にできることは皆さんそれぞれにあると思うので、「私なんか、僕なんか」と考えるのではなくて、「私でも、僕でもできることがある」というのがHEROsの考えです。自分自身をヒーローだと思って活動するというのがすごい大事だと思います。



取材・文:瀬川泰祐

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