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俳優が語るギア Vol.5 勝村政信「大竹しのぶさんと共演した時に感じた、マラドーナにおけるブルチャガの気持ち」

フットブレインの司会でお馴染みの俳優・勝村政信。53歳を迎えても現役でサッカーを続けるフットボーラーが語る、サッカーと芝居の共通点。勝村さんを嫉妬させる、二人の大御所とは?

菊池 康平 | 2017/01/04
菊池:舞台の合間に、出演者の方とボールを蹴ることもあるのですか?

勝村:あります。舞台のウォーミングアップの時には、先輩も後輩も含めて、やりたい人と一緒にボールを蹴ってアップをしています。劇場の広いロビーなどで、「いい舞台を作るためですと」無理やりやらせてもらってます。

菊池:やはり、サッカーが上手い人は舞台でのミザンセーヌ(注・ポジショニングのこと/Vol.4参照)も上手いんですか?

勝村:上手いですね。演劇でバランスをとる遊びがあるのですが、例えば平行四辺形が「やじろべえ」のように一点で立っていると想定します。

そこを5人とかで立って、バランスが保てるかと言うイメージの遊びです。1人が動くと、バランスが壊れるでしょ?それをどう立て直すか、瞬時に身体と頭を駆使する。楽しみながら訓練するゲームです。そういうのが上手いんです。

菊池:なるほど、その様な遊びというか練習があるんですね。今まで共演された中で、ポジショニング(ミザンセーヌ)の才能があった方はいますか?

勝村:女性でいうと、大竹しのぶさんです。20年以上前に初めて一緒に芝居をしたのですが、常に一番強いポジションに立つんです。そうすると「なんだこの人は! もう勝てない。先にいいところに行くんだもん(笑)」なんてずるい人だと。笑「あんたがそこへ行くんじゃなくて、いま俺が行くんじゃねえか」みたいな所でも、彼女は必ず強いところへ行くんです。

で、その対抗策を考えたんですよ。牛やライオンの周りには、ハエがプンプンしているじゃないですか。俺はハエで対抗するしかないなと。笑。周りでプンプンしてみようと。ライオンに邪魔だなと思われたら、ハエの勝ちかなと。笑。大竹しのぶさんと初めてやった時は、プライドを捨てて、そういう動きを意識しましたね。笑

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菊池:マラドーナになることを諦めて、ブルチャガに徹した感じですかね?

勝村:う〜ん。そんないいもんではないかもしれません(笑)

菊池:ポジショニングの話からは離れますが、サッカーの才能はどこに現れると思いますか? という質問をすると「トラップに現れる」「視野に現れる」など、様々な表現があると思います。勝村さんは、俳優の才能はどこに現れると思いますか?

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2010年「ファウストの悲劇」 Bunkamuraシアターコクーン 撮影:谷古宇正彦
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「ラヴ・レターズ」 撮影:加藤幸広 写真提供:株式会社パルコ

勝村
:芝居を始めた時に、まず「鳥の目と虫の目を持て」ということ、「崩壊と再生」を同時に行えというとを、師匠の蜷川幸雄さんに教えられました。様々な訓練で獲得して行くものなんですが、そういう能力を訓練もせずに持っている奴がいるんですよ。

鹿島の小笠原君は、高校時代にボールを持ったらほぼ360°見えたと言ってました。主観と客観を獲得してるんですね。それと、台本の読み方。ある匂いを持った人達って、台本へのアプローチが違うんですよ。その才能っていうのは、訓練ではなかなか獲得できなくて。それに近づく何かを、訓練で獲得しなきゃいけないですけどね。遠藤選手や中田ヒデ君ですね。

舞台でも、ついつい嫉妬してしまう瞬間があって、それをモチベーションにして、獲得すべく努力してきました。

菊池:現在過去問わず、勝村さんを嫉妬させるのは誰なんですか?

勝村:最初に芝居を始めたのが蜷川幸雄さんのところでして、蜷川幸雄さんと平(幹二朗)さんのコンビですね。平さんは、とにかくスケールの大きく緻密な芝居をされます。蜷川さんもとにかくスケールの大きく緻密な演出をします。

しかも平さんと蜷川さんが組むと計り知れないほどの、スーパーサイヤ人になってしまいます。笑。だから世界的な評価を獲得したんですね。突き抜けたんです。それを僕は見てしまったので、この人達は生涯越えられない。リスペクトを止めることができない二人ですね。

菊池:物凄いお二人だったのですね。

勝村:はい。この気持ちは生涯変わりません。神様たちです。神様たちがすごい事をやりすぎて、現在、演劇に新しいことなんて、ひとつもないんですよ。

菊池:ひとつもないんですか!

勝村:ないんです。動きも感情も、先達の能力の高い方達がやり尽くしていますから。だから、先達の方達のやったことを掛け合わせるしかないんです。掛け合わせることによって新しいものが生まれる。ハイブリッドです。

菊池:新しいことは何もないとは、物凄く面白い言葉だと思うのですが、勝村さんはサッカースパイクは進化してると思われますか? それとも、新しいものなどないと?

勝村:もちろん進化しています。これも、アイデアと技術の掛け合わせですよね。各メーカーはどこまで走り続けるのか楽しみですが、基本は靴じゃないですか。アディ・ダスラーが作ったスパイクを履いた西ドイツが、最強のハンガリーを倒した。歴史が動いた。スパイクの歴史も、色々なものを掛け合わせることによって、どこまでも新しくなって行くんだと思います。

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菊池
:例えば、勝村さんにお持ち頂いた『ワールドカップ』というスパイクは、紳士靴に例えるならばジョンロブの世界だと思うんです。ジョンロブはおそらく、あと100年経っても革靴を作り続けると思います。でも50年前、革でスキーブーツを作っていた職人さんは、廃業に追い込まれたわけじゃないですか。サッカーシューズはどちらに行くと思いますか?

勝村:必要が発明を生むのでしょう。演劇に答えがないように、技術の進歩は止まることはありません。技術者の矜持が、答えを許さないのでしょう。芝居もそうなんですよね。答えなんかないのに、答えを出そうとして失敗するんですよね。動きにしても、正解なんかひとつもないのに。

だから芝居を始めた時に教えていただいた、「鳥の目と虫の目」これを駆使して、常に次を。理想を高く。やっていることに疑問を抱く。もっといいものがあるんじゃないか?と自問自答する。その繰り返しです。

菊池:答えはないけれど、答えを探す努力を捨てたら進化はないわけですね。

勝村:そうですね。だから僕は、常に新しいことをやれたらいいなと思っています。いまでも、どんどん上手くなりたいと思っています。ひとつも理想に届きません。芝居もサッカーも、もっともっと上手くなりたいんです。

菊池:それがずっと続けられる秘訣なんですね。今回のインタビューは本当にたくさんの刺激を頂きました。ありがとうございました。

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取材協力/シス・カンパニー  

トップ写真提供/

2014年「冬眠する熊に添い寝してごらん」Bunkamuraシアターコクーン 撮影:谷古宇正彦  

写真提供/清水知良(マラドーナ)