スパイク・ウォーズ/エピソードⅥ・カンガルーの逆襲①「マスターはカンガルーがお好き」
東京ヴェルディの永井秀樹選手が「スパイクの履き比べ」をする「スパイク・ウォーズ」。今回は天然皮革の中から、カンガルー革のスパイクのみを履き比べ。はたして、マスター永井の評価とは...?
金子 達仁
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2016/10/05
──すっかりご無沙汰してしまいました、マスター・ナガイ。
マスター永井「ホントだよ。もっとじゃんじゃんやる予定だったんじゃないの?」
──はい、ごもっともではございますが、その点につきましては、マスターの側にも幾分‥‥と申しますか、かなりの、いえ、ほぼすべての原因が(笑)。
マスター永井「(苦笑)‥‥」
──ようやく復活して途中出場。数分で故障して退場。あれにはヴェルディの選手やサポーターもショックを受けたでしょうし、わたくしどもも、正直、顎がハズレそうになりました。こうやって笑い話にできるようになったのが幸いといえば幸いですが。
マスター永井「ま、今度こそ大丈夫だから。みんなに迷惑かけちゃった分、死に物狂いで取り戻すよ」
──J1でプレーする史上最年長のオトコになる。それがマスターの目標でございますものね。
マスター永井「うん」
──で、今回はマスターのテンションが一気に上がりそうなシューズをご用意させていただきました。ずばり、全モデル・オール・カンガルー革です。
マスター永井「おお~、こりゃマジでテンションあがるわ。なんか思い出すよね、初めてカンガルー革のスパイクに足を通した時のドキドキとか感激とか。俺らの世代にとって、カンガルーっていうのはやっぱり特別だったから」
──実はですね、いまキングギアではフタバ・スポーツさんと手を組んでいろいろやっていこうとしているのですが、先日、先方のスタッフから面白い話を聞きまして。
マスター永井「ほう、どんな?」
──いまメーカーから発売されているモデル、割合で言うと完全に人工皮革の方が多数派の時代になってきてるんですが、ある一定以上のレベルの選手といいますか、技術的に優れたタイプの選手の間では、依然として天然皮革、特にカンガルーに対する信仰が健在だというのです。
マスター永井「へえ、なんでだろ」
──フタバ・スポーツの方がおっしゃるには、親に原因があるんじゃないか、と。
マスター永井「親?」
──はい。いまの中学生や高校生ですと、父親が昔サッカーをやっていた、というケースが珍しくないようで、家で言われるらしいんです。上手いヤツは天然皮革だぞ、カンガルーだぞって。つまり、親からパラメヒコやコパ・ムンディアル、モレリアの素晴らしさを刷り込まれてるのが、メーカーがあまりマーケティングに力を入れていないにも関わらず、一定の割合売れている理由ではないか、と。
マスター永井「ありえるかもなあ。もし自分の子供がサッカーやるってなったら、俺も天然皮革履かせたいって思うだろうから」
──ただ、ちょっとひっかかるところもありまして。
マスター永井「なにが?」
──Jリーグでサッカー人気に火がついた日本ならいざ知らず、ヨーロッパや南米でははるか昔から「お父さんがサッカーをやっていた」という時代は到来していたはずですよね。だったらどうして、ヨーロッパや南米で人工皮革のスパイクを履く若い選手が増殖中なのかなあと。
マスター永井「う~ん、わかんないけど、スパイクを単なる消耗品と見るか、自分の相棒と見るかの違いみたいなところもあるんじゃないかな。野球にしても、どちらかというと道具に対して無頓着な選手は外国人の方が多いって聞くし」
──確かに、使い込んでいく、自分の足に馴染ませていくという考え方は、道具に無頓着だと出てきませんものね。もちろん、こだわって最新の人工皮革の中から探していく、というタイプの選手もいるでしょうけれど。
マスター永井「うん。で、俺もこの企画の中で感じるんだけど、人工皮革って、昔に比べると間違いなくよくなってきてるからね」
──でも、マスターはカンガルーがお好き。
マスター永井「そりゃもう変えられないし(笑)。あと、間違いなくいえるのは、良くなってきたとはいえ、まだ人工皮革のスパイクには“おいおい”って突っ込みたくなるようなモデルがあるけど、カンガルーのスパイクにはまずないからね。そもそもが高価な素材だし、依然、かなりのメーカーにとってはフラッグシップ・モデルなわけでしょ。作り手の側からしても、いい加減なものは出せないって思いもあるんじゃないかな」(以下次号)
取材協力/東京ヴェルディ1969
写真/㈱カルーテ菅優樹