発起人Kの独り言・番外編 vol.13『体脂肪29.9%からの大逆襲/イケてる身体に俺はなる! その6・便器に向かって転落していく下半身』
子供と一緒にプールに行ったときに、恥ずかしくない身体になる! お酒大好き、運動嫌いなキングギア発起人の金子達仁(50歳)は、パーソナル・トレーナーと出会い、イケてるボディを目指してトレーニングを始めた途端、すっかり衰えた肉体を目の当たりにすることに…。
金子 達仁
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2016/11/01
実に四半世紀もの間、運動らしい運動、トレーニングらしいトレーニングをまったくやってこなかったわたしである。たった20㎏のベンチプレスが5回しかできなかったのはさすがにショックだったものの、あながち予想していなかったわけでもない。
自分の肉体が相当衰えていることは、日常生活でも痛感し始めていたからである。
たとえばクルマに乗り込むとき。以前は「ドアを開けてシートに腰を下ろす」という作業が当たり前のようにできていたのだが、いつのまにか、「ドアを開けてシートに落っこちる」みたいなことになってしまっていた。腰が座面につくまで膝を曲げていく、という作業の途中で、下半身の筋力が力尽きてしまうのである。なので、途中でドスン。
たとえば階段を昇り降りするとき。若いころは当たり前のようにやっていた二段飛ばしを、いつのまにかやらなくなっていた。なので意識してやってみると、登る時にキツイのは当然として、降りるとき、着地の衝撃に下半身が耐えられなくなっていたのにはビックリした。
若いころに徹底していじめ抜いた下半身がこうなのだから、ほとんどおざなりにしていた上半身の惨状は言うに及ばずである。1回50分、週に2回のトレーニングを開始するにあたり、我がパーソナル・トレーナーのキム・ガンミョン君は「できるだけキツくないようにします」といけしゃあしゃあとのたまっていたが、ま、そんなはずはないだろうぐらいの覚悟はあった。
だから、基本1種目3セットのトレーニングが終わるたびに悶絶し、床を転げ回り、おかしな脂汗を流すことになったのは、ある意味、予想通りではあった。手を床について立ち上がろうとしたら、その手がカクッと折れて顔から床に突っ込んだのには驚いたが、なにせ、四半世紀のブランクである。「このクソ嘘つき野郎!」とガンミョン君を息も絶え絶えになって罵倒しつつ、心のどこかには、ダメダメな我が肉体を面白がっている自分もいた。
まったく想定外の事態が起きたのは、最初のトレーニングから一夜が開けた時だった。
う、動けん。
ベッドから起き上がろうとした瞬間、激しい痛みが全身を襲ってきた。寝起きの頭は昨日トレーニングをしたことなどすっかり忘れているから、ちょっとしたパニックにもなりかけた。
な、なんなんだ、この痛みは!?
中でも、エライことになっていたのは下半身だった。「あ、そうだった、昨日トレーニングしたんだった」とようやく思い出しながら立ち上がろうとしたのだが、まったく力が入らない。ベッドから床に足をおろし、立ち上がろうとしたらコキッと膝から折れた。
足が、自分の足でなくなっていた。 ベッドに手をついて立ち上がろうとしたら、いろんなところが悲鳴をあげた。筋肉や関節だけではなく、口からは本物の悲鳴が漏れた。寝ていたヨメがびっくりして「どうしたの?」と飛び起きたぐらいの悲鳴だった。
だが、本物の試練はこのあとに待っていた。
寝室からリビングに行くために、階段を降りようとした時だった。この日最大級の激痛が下半身に走った。踏み下ろそうとして空中にある右足も、それを支えている左足も、全身全霊を込めたぐらいの情熱で、階段を降りるという行為に抗議をしているようだった。普段はまったく意識をしないで行っている階段での歩行が、強い意志で下半身に指令を下さないと遂行できないようになっていた。
なので、一歩一歩、恐る恐る。でもって、そのたびに漏れるうめき声。あとでわかったのだが、辛いのは登る時よりも降りる時。手すりをしっかりつかんでいないと、突如として非随意筋になってしまった下半身が職務放棄をしでかし、主を階段からまっさかさまにしかねなかった。
ようやく階段を降り終えたら、朝のトイレである。悪夢のような出来事に見舞われたのはその時だった。
レジスタンス中の下半身をなだめすかしながら、便器に腰を下ろそうとした瞬間、いきなりスイッチが切れた。ストン。便器に向かって転落していく下半身。大丈夫。便座がある。走馬灯のように駆けめぐる意識の中でわたしはそう思った。
べちゃ。
人生において、ただの一度も味わったことのない感覚が臀部に走った。冷たくて、ねっとりしていて、とにかく、目茶苦茶に不快な感触。悲鳴をあげて飛び上がろうとしたわたしだったが、下半身はさらに深く沈み込み──。
ちゃぷん。
普段、わたしは小を足す時も便座に腰掛けてするようにしている。当然、ヨメも同じ。だから、完全に想定外だった。
我が家には4歳になったばかりの息子がいる。溺愛しているといってもいい。だが、この時だけはまだベッドでスヤスヤ寝ている息子のことを心の底から呪った。情けなくて気持ち悪くて泣きたくなりながら、呪った。
てめえ、なに夜のうちに便座を上げてんだよおおおおおお!。
便器にはまり込みながら、呪った。
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写真編集 榎本貴浩