世界トップレベルの女子選手たちの熱い戦いー予想外の展開と圧巻のプレーに沸いた「東レパンパシフィック オープン」
2024年10月に東京・有明コロシアムで開催された「東レ パン パシフィック オープン」。世界のトップ選手たちが集い、熱戦を繰り広げた。なかでも、予選からの大躍進を果たした選手の活躍や力強いプレーが繰り広げられ、その多くの試合が観客の心を掴んだようだ。「これぞテニス!」と唸るような、誰もが驚くような逆転劇や圧巻のプレーの連続…そんな魅力あふれる当日の様子と特に注目だった選手をご紹介したい。※トップ画像/筆者撮影
2024年10月にWTA500「東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント 2024」が東京・有明コロシアム、有明テニスの森公園テニスコートにて開催され、世界中の女子プロ選手が東京に集結した。試合の選手入場の際、選手がブーケを持って入場するのだが、これが華やかさもあって目を惹くのだ。
当日は試合だけでなく、イベントも充実。実際に私もメーカーが主催するイベントに参加したり、展示されているラケットや各種ギアの説明を聞いたりと、個人的に楽しんでいた。
ツアー初勝利から息をのむほどの逆転劇を見せてくれた、石井さやか選手
予選から勝ち上がり、本戦出場を果たした世界ランキング279位の石井さやか選手。1回戦では齋藤咲良選手(世界ランク156位)との日本人対決を6-1, 6-1で制し、ツアー初勝利を挙げた。試合の初めから主導権を握り圧倒的だった。
2回戦では、同じく予選から勝ち上がってきたゼイネプ・ソンメズ選手(世界ランク89位)に対し、4-6, 6-2, 6-3で逆転勝利を収め、ベスト8入りを果たした。試合中にはメディカルタイムアウトを取る場面があり、心配になった瞬間もあったが、最後は気力で乗り切り逆転勝利を掴んだ。試合後には「疲れて死にそうです」と話しており、疲労感が伝わってきたが、彼女のメンタルの強靭さを感じた(3回戦では腹筋の怪我により棄権)。
今大会で初めて石井選手の試合観戦をして特に印象に残っているのは、後ろのベースラインから攻撃的にプレーする力強いストローク。オートテニスならものすごい打球音が聞けそうな、そんな力強さだった。
シングルス優勝はパリ五輪覇者!ジェン・チンウェン選手
決勝はジェン・チンウェン選手(世界ランク7位)vs S・ケニン選手(世界ランク155位)。7-6,6-3でジェン・チンウェン選手の勝利となり、同大会初優勝を飾った。実はこの試合、雨による中断が二度も入り、リズムを作りにくい試合となった。
第1セットは、両選手ともサービスゲームのキープが続き、6-6に。タイブレークの末、ジェン選手が第1セット目を奪った。両選手ともストロークの威力がすさまじく、どのラリーもどちらがポイントを取るのか最後まで予想できないセットだった。
試合を通して特に印象的だったのはジェン選手の強烈なサーブ。ジェン選手のファーストサーブは約180km/h。ジェン選手とケニン選手のファーストサーブを比べると、成功率はジェン選手が59%、ケニン選手は73%。得点率はジェン選手は93%、ケニン選手は64%。ケニン選手の成功率も悪くないが、ジェン選手はファーストサーブが入ればほぼポイントを取っていたほどの成功率だ。高身長を生かしたあのサーブ、いま思い出しても惚れ惚れしてしまう。
ジェン選手といえば、その冷静沈着な様子もまた印象的だ。その様子は2024年の活躍からわかる通り、特に顕著に感じた。全豪オープン準優勝に始まり、パリ五輪で金メダル獲得、そう、とにかく波に乗っている選手なのだ。テニスの技術はもちろん、己のメンタルコントロールも申し分ない。
母国・中国からの応援にきていた観客も多く、その声援が彼女の励みになっているんだろうなと思うほど会場は盛り上がっていた。
出典/Getty Images
日本勢6年ぶりの快挙!青山/穂積ペア優勝
この決勝の組み合わせが決まってから、この試合を見るのが非常に楽しみだった。青山修子選手(世界ランク49位)/穂積絵莉選手(世界ランク58位)vs柴原瑛菜選手(世界ランク37位)/ラウラ・シゲムンド選手(世界ランク14位)のダブルス決勝。青山選手と柴原選手は元ダブルスペアを組んでいた。元ペア同士の戦いであった。結果は6-4,7-6の接戦の末、青山修子選手/穂積絵莉選手ペアが勝利、日本勢としてはなんと6年ぶりの優勝という快挙だ。
出典/Getty Images
この試合の見どころは、なんといっても青山選手のネットプレー。前衛でプレー中、後衛同士がラリーしている途中で、タイミングをみてポーチボレー(割り込んでボレーを打つ)を繰り出す。どうやったらできるのか、彼女のプレーは何回も見ているのにいつまで経ってもわからない(個人的な見解だけど、大縄のタイミングを伺うような感覚に似ている気がするのだ)。穂積選手がコートの後ろからストロークでチャンスを作り、青山選手が前でネットプレーでポイントを取る。彼女たちのリズムのいいプレーに観ているこちらが気持ち良さを感じた。
筆者撮影
シングルス決勝戦が雨で中断し、開いていた有明コロシアムの屋根を閉めることになった。屋根がゆっくりと静かに動き、空がどんどん小さくなっていくーそして屋根が閉まり切ったとき、会場が少し暗くなり、コートが浮かび上がって見える、あの感覚。あの場にいないと体感できない不思議な感じ、みなさんにもいつか体験してほしい。