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パリ五輪で日本フェンシングの歴史を動かした、宮脇花綸ー“私”をつくる、ささやかな瞬間

フェンシングにおける日本女子初の五輪メダルを獲得したチームの中に、宮脇花綸はいた。挫折を乗り越え、27歳にして初めて立った大舞台で掴んだ銅メダル。その物語はすでに多くの人に知られている。しかし、今回は——。宮脇花綸の“私らしさ”は、勝利の瞬間だけでなく、日常の何気ない瞬間に静かに宿っている。勝負の世界で磨かれる強さと、日常を彩るささやかな幸せ。宮脇花綸が語る「私をつくるものたち」の物語が、今ここに。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

Icon       池田 鉄平 | 2025/02/21

私らしさを彩る、オレンジとパリの日常

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

──好きな色は?

オレンジですね。黒とか白がベースの服が多いんですけど、色物を選ぶときはオレンジや黄色っぽいものをよく着ます。だから「好きな色は?」と聞かれたら、それかなって思います。


──普段の服の好みは?

最近は会社に行くことが多いので、私服を着る機会の半分以上が仕事用ですね。なので、会社に着ていけるような、ちょっときれいめな服が好きです。


──ファッションの情報はどうやって取り入れてる?

友達と会ったときに、働いてる人の服装を見て「こういう感じなんだ」って参考にすることが多いですね。でも、日本ではあまり服を買わなくて、海外に行ったときにまとめて買うことが多いです。


──よく買い物をする海外の都市は?

パリですね。コーチがフランス人ということもあって、フランスに行く機会が多いです。明日からもフランスで合宿なんですけど、パリにはブランドもたくさんあるし、セールの時期は安く買えるので、そこで買い物することが多いですね。


──ヨーロッパではどの国によく行く?

フランスが多いですが、イタリアやジョージア(元グルジア)、ポーランド、ドイツにも行きます。

海外で見つけた、新しい自分と小さな発見

──海外で「これいいな」と思った習慣はありますか?

野菜の量り売りですね。スーパーで買うときに、自分で重さを測って袋に入れるので、包装が少なくてエコだなって思います。エコバッグにどんどん詰めるスタイルとか、そういう文化はすごくいいなと感じます。


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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

──合宿などで海外にいることが多いと思いますが、競技生活の中で変わったことはありますか?

もともと日本のスクールで育ってきたので、コーチに言われたことは「はい!」と従うタイプだったんですけど、海外のコーチの指導を受けるようになってから、自分の意見も伝えることも大切だと学びました。海外では選手が意見を言うのが当たり前なので、そういう文化は自然と取り入れるようになりましたね。


──逆に海外生活が多いからこそ気をつけていることは?

例えば「小麦粉を控えたほうが体にいい」とか聞きますけど、海外の試合が多いとそういう食生活の制限は難しいんですよね。なので、あえて「小麦粉を1日1回は食べる」と決めて、無理に制限しないようにしています。


──海外にいると、日本が恋しくなる瞬間ってありますか?

洗濯機がないときですね(笑)。最近はコインランドリーも増えてきましたけど、ジュニアの頃なんかは、そもそもコインランドリーの概念すらなくて。洗濯機もない、浴槽もない、そんな環境で手洗いしていると、「ああ、日本の設備が恋しいな…」って思いますね。

30分の昼寝がくれる、小さな幸せ

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

──好きな習慣や、大切にしていることはありますか?

「昼寝は好きです」(笑)。平日は毎日30分から1時間くらい昼寝をするようにしています。夜だけでは疲れが取れないこともあるので、昼寝をするとすごくスッキリしますし、幸せだなって思いますね。


──宮脇さん流の昼寝のこだわりは?

昼はすぐ寝れるんですよね。夜はたまに寝つけないこともありますけど、社会人になってからは短時間でもスッキリ起きられるようになりました。


──仕事とのバランスはどう取っていますか?

今は週に1回程度出社しています。その日は午前中だけ勤務して、帰ってきてご飯を食べて、それから少し昼寝をして、練習に行くという流れですね。なので、仕事中に眠くなることはあまりないです。


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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

──移動は電車が多いですか?

結構電車移動が多いです。アスリートだけの時代は電車に乗る機会が少なかったので、最初は人混みがストレスに感じることもありました。でも、音楽を聴くようになってからは、だいぶ気にならなくなりましたね。


──今は電車に乗っていて、気づかれることはありますか?

意外と気づかれないと思っています(笑)。気づかれていないと思えば大丈夫な気がするので、特に気にせず普通に生活しています。

心に火を灯す、勝負前の一曲

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 撮影/松川李香(ヒゲ企画)

──普段どんな音楽を聴いていますか?

特定のアーティストをずっと聴くというより、その時に「いいな」と思った曲を聴く感じですね。例えばフランスに行ったとき、ホテルで流れていた「フランスのトップ10」みたいな番組で気になった曲を調べたり。歌詞が分からなくても、メロディがいいなと思ったらチェックするので、本当に偶然出会った曲を取り入れている感じです。


──音楽を「浴びる」ような感覚ですか?

そうですね。意識的に聴くというより、自然と耳に入ってきたものの中で気に入った曲を取り入れている感じです。


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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

──試合前に東京事変の『閃光少女』を聴くと聞きました。

はい。試合の時に必ず聴く5曲が決まっているんですが、『閃光少女』はその中でも一番最初から入っている曲です。高校生の頃からずっと聴いているので、もう10年以上になります。


──『閃光少女』を勝負曲に選んだ理由は?

歌詞の「とにかく試合の日、この一瞬を全力で頑張る」という気持ちと、自分の試合に向かう心境がすごくリンクしているんです。試合の日は「今日という1日を最強でいたい」と思っているので、その想いとぴったり合う曲ですね。


──高校生の頃から聴いているとのことですが、最初に聴いたときに「これだ!」と思ったんですか?

思いましたね。試合の日って「いつも通りの自分でいよう」と思う部分もあるんですけど、それと同時に「今日しかない特別な1日」だと感じるんです。その感覚が曲とすごく合っているなと思って、ずっと聴き続けています。



宮脇花綸(みやわき・かりん)
1997年2月4日生まれ、東京都出身。三菱電機株式会社所属。姉の影響で5歳からフェンシングを始め、東洋英和中から慶應義塾女子高校に進学。高校1年の時に、太田雄貴選手から具体的目標を立てることの重要性を学び、オリンピックを目指すことを決意した。2013年にはシニアの日本代表チーム入りを果たす。2014年IOC南京ユース五輪で代表に選出され、女子フルーレ個人で銀メダルを獲得。2016年リオデジャネイロ五輪、2024年パリ五輪に出場し、パリ五輪ではフェンシング女子フルーレ団体で銅メダルを獲得した。


Photo:Rika Matsukawa