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全豪オープン2025男子シングルス、数字だけでは見えないテニスの醍醐味
「全豪オープン」は、テニスの世界四大大会(グランドスラム)の一つで、毎年1月にオーストラリア・メルボルンで開催される大会である。全豪オープン2025は、テニスの奥深さを改めて感じる大会となった。試合の中で何度も訪れる「選択」の瞬間。どのショットを打つのか、どこに動くのか、その一つひとつが試合の流れを大きく左右する。瞬時の判断力、駆け引きの巧みさ、そして極限の集中力。勝敗を決めるのは、単なる技術の優劣だけではない。画面越しでは伝わらない緊張感、会場全体を包み込む高揚感。「テニス」という競技の持つドラマと魅力が、メルボルンのコートに詰まっていた。※トップ画像出典/Getty Images
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J・シナー、圧倒的な強さで2連覇達成
世界ランキング1位のJ・シナー(イタリア)が全豪オープン2025を制し、大会2連覇を達成した。これで四大大会では2大会連続 、通算3度目の優勝。さらに、昨年から続く連勝記録は21に伸びた。今大会で落としたセット数はわずか2。その圧倒的な強さを改めて証明する大会となった。
シナーといえば、ストロークのラリー戦からネットプレーに至るまで、そのプレースタイルに注目している。今大会でも予測不可能なショットを次々と繰り出し、驚異的な身体能力と、まるで未来からやってきたかのような予測力を披露した。決勝でのネットプレーはまさに“壁”のようであった。
この連載でも「サーブは有利なショット」と何度か語ってきたが、シナーの場合は圧倒的にストロークだと思う。ストローク戦となれば相手に左右に振られ、体勢を崩しながらも鋭いショットを放つ。普通ならミスをしそうな場面でも、彼は正確にショットを返し続ける。その戦術や身体の使い方には学ぶべき点が多く、彼自身に解説して欲しくなる場面がいくつもあった。特に印象に残ったのは、ルーネとの試合の第3セット・3ゲーム目での約1分間のラリーである。どちらも一歩も引かず、攻めの姿勢を貫いたこのポイント。決めにいった渾身のショットに対して、相手が食らいついて返し、そしてまた攻めるという応酬が続いた。
このラリーにはテニスの魅力と過酷さが凝縮されていた。体力や技術はもちろん、集中力やメンタルの強さが試される場面であり、これこそがトッププレイヤー同士の戦いの醍醐味である。シナーが今後どこまで進化するのか、彼のプレーを追い続けるのがますます楽しみになった大会であった。
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A・ズべレフ、3度目の決勝進出も惜しくも準優勝
世界ランキング2位のA・ズべレフ(ドイツ)は、今大会で決勝に進出し、四大大会の決勝はこれで3度目。過去2回は準優勝に終わっており、今回はまさに“3度目の正直”として悲願の初優勝が期待されたが、残念ながらその夢は果たせなかった。
今大会、ズべレフの1回戦を観戦することができ、彼のプレーを間近で見ることができた。驚いたのは、198cmという高身長から繰り出される圧倒的なショットである。打点の高さがまるで違い、特にサーブは上から叩き込むような強烈な一撃だった。その中でも、1回戦L・プイユ戦の第3セット・7ゲーム目のワンプレーは印象的だった。ラリーの最中、ズべレフはネット際にドロップショットを選び、相手を前に引き出した。次のボールを彼自身が前でボレーしたが、相手も粘り、返ってきたボールをロブ(高い球)で打ち返してきた。ここでズべレフはスマッシュを選択するかと思いきや、一瞬スマッシュの構えをしながらもすぐにバックハンドに切り替え、相手の横を鋭く抜いてポイントを取った。この瞬時の判断力こそがトッププレイヤーの強さだと感じた。
テニスは常に「選択」の連続だ。結果的にこの選択は成功に終わったが、こうした瞬間的な判断が試合の流れを大きく左右するのがテニスの奥深さである。身長161cmの自分は、コートでサーブがなかなか入らないことに悩むことがあるのだが、ズべレフのプレーを見て「そりゃ入るよな…」と納得せざるを得なかった。もちろん、身長の問題ではなく、技術力の問題であることは自覚している。また画面越しで観るのとは違い、会場で生観戦すると試合の緊張感がダイレクトに伝わってくる。選手がどんな状況で、どんな選択をするのか、その一つひとつを考えながら観るのが非常におもしろい。ズべレフのプレーを目の前で見て、改めてテニスの奥深さを実感することができた。次こそは、彼が四大大会で初優勝を果たす瞬間を見届けたいと強く思った。
N・ジョコビッチとマレー、夢のタッグが話題に
今季からノバク・ジョコビッチのコーチに就任した元世界ランキング1位のアンディ・マレー。かつて「ビッグ4」として切磋琢磨した2人が、今度はコーチと選手としてタッグを組むこととなった。
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今大会では新たな試みとして、コートサイドに「コーチングポッド」が設置された。最大4人まで座れるこのスペースでは、コーチがリアルタイムでデータを分析。これまでコーチは選手席の最前列に座っていたが、新システムによりコートレベルに着席し、ポイントごとに選手とコミュニケーションを取ることが可能になった。試合中、ジョコビッチとマレーが並んで会話をするシーンが映し出され、ネット上でも大きな話題に。この歴史的な2ショットを見て「本当にマレーがジョコビッチのコーチをしているんだ…」と、多くのテニスファンが感慨深く思ったことだろう。
テニスには試合結果の数字だけでは伝わらない深い魅力があると思う。一瞬の判断、ラリーの駆け引き、そして会場の空気。今大会を通じて、その奥深さと醍醐味を改めて実感した。今季は試合の表面的なプレーだけでなく、選手の戦略やメンタル面にも注目しながら、「テニス」という競技をより深く追っていきたい。