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『北島康介x伊調馨』JATO基調講演取材レポート!-後編-「もっと日本発のトレーニング文化があっても良いと思う」

続いてトークショー後編。世界で通用する日本人の資質や、日本と海外でのトレーニングの違いなど、トップアスリートとして最前線で活躍した彼らならではの視点で紐解く。

Icon 16442758 1382702521799890 1774501613 o 西村 真 | 2017/03/27
前編はこちらから

Q. 試合に勝つ人と負ける人の違いや、結果を出せる人の共通項はある?

北島
僕はそれ聞きたいですね、僕は大したことないんで(笑)。だって4連覇ですよ?

伊調いやー、難しいですね。さっきも言いましたが、自信を持って上がりたいんですよ、本当に。準備を万全にしてきたという気持ちがあれば、負けるはずがないというか。

逆にプレッシャーを感じていては準備不足なのかなと思います。この大会に出ると決めたら、その大会までにちゃんと準備を終えていないといけません。じゃないと、「どうしよう負けたら…」とか考えてしまいます。

プレッシャーを感じるということは、そういうことだと思います。ほぼほぼ最近は試合でプレッシャーを感じることはないですね。

北島伊調さんの言うように、きちんと準備すること、自分が苦手なことや出来なかったことをできるようにすることが自信になると思います。そういうところで小さい自信を積み重ねて自信を作ることで、大きい舞台で結果を残したり、目標にしていた結果を落とさないことを僕はコーチから学びました。

金メダルを取りに行くのであれば、たとえ試合直前になって怪我をしても「銅メダルでいいか」ではなく、「金メダルなら金メダル」ときちんと狙いに行くこと。それはジュニアの人達にも言えますね。

目標を落とさない。自分がどんな状態であろうとも、試合前怪我をしても、目標を落とさないで試合に臨んでいくこと。僕はそういう風に意識していました。

Q. 何事も結果は「自分に原因がある」と考える?それをどう次に繋げるかを考えるタイプ?

Thumb icho kitajima

伊調レスリングだけだと思います。レスリングだけは完璧主義というか。完璧に勝ちたいです。完璧に自分のペースで勝ちたいと思います。他のことはもうどうでも良いと思います、はい(笑)。

北島相手二人でも勝てます?

伊調あははは(笑)。勝てません(笑)。
(司会者に向け)なんか凄く怪物みたいに言うんですよ(笑)。
(男性や相手二人でも)勝てるんじゃないか?とか。

北島
対レスリング素人なら(相手二人でも)勝てる?

伊調勝てません(笑)。勝てません、もう玩具のように遊ばれます。

北島でも男子選手と一緒に練習したりもするわけでしょ?

伊調はい、します。遊ばれます(笑)。

北島わざと?わざと(男子の練習に)飛び込むの?

伊調男子はレベルが高いので。やっぱり女子とやるとある程度自分がもう殆ど勝ってしまうというか、自分で出来る部分も多いので。対戦して負ける選手とやった方が強くなります。

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北島それが秘訣じゃないですか?強さの。

伊調レベルの高いものがあるんですよ?目の前に。ねじ伏せられるんですけど、1ポイントでも取ったり、少しでも男性の方に「やべ!」っていう顔をされるだけでも嬉しいです(笑)。「女性相手に本気になっているな、この男性」って思うと、嬉しいです。

(何か男性から言われることは?)いや、男性はプライドが高いので言いません。私が1ポイントでも取ると、次は本気で来ます。もっとグシャグシャにやられます(笑)。なので、怪我が増えます。

北島10年以上も世界のトップレベルにいる中で、対戦したことがない選手はいる?

伊調います。逆によく当たる選手もいます。

北島当たっていない選手と対戦してみたいと思う?

伊調思います。やったことある選手とやるよりかは、やったことない選手と対戦して、新しいことを取り入れたいというのはあります。

北島相手の状態ってどうやって知るの?例えば、サッカーとかだと試合のビデオがあったりするけど。

伊調レスリングも映像があります。

北島無い選手は?

伊調1試合しか映像が無いこともあります。

北島見ても仕方がない?

伊調いや、1試合でもあればその試合のビデオを観ますけど、やはり映像は映像で限界があって、やっぱり肌で感じないと分からないことの方が多いです。ただ、相手が右利きか左利きか、という簡単なことは分かります、1試合でもあれば。

北島水泳は、年間ランキングという記録でのランキングが出ます。他の選手の泳ぎを分析したところで、真似をすることはできないですし。分析というか、相手のどこが強いのかとか、ラスト10mが強いとか、自分と比較してどう違うのかは確認します。

僕が北京五輪の100mで勝った時は、ノルウエーの選手を他の人に分析してもらって、自分と比較して「相手はこう出てくるから、前半余裕をもった泳ぎができたらいいね」とか、そういう戦略は立てました。

Q. ビデオ等で分析を始めたのはいつ頃から?

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北島僕は中学生ぐらいの時から自分の映像を観て、高校生に上がった時くらいから水中映像を観て、自分の泳ぎを分析してもらいました。当時、映像分析する選手は殆どいなかったと思います。僕が最初の方だったと思います。

伊調ロンドン五輪前くらいだと思います。そうですね、北京五輪が終わって、東京に拠点を移してJISSでのサポートを受けるようになってからですね。それまでは拠点としていた名古屋の方で大学の中で練習していて、練習環境はもちろん整っているし、練習時間になれば自然と仲間がきて、という感じだったんですが、東京に出てきてからは自分で練習場所を探していました。

出稽古という形を取っていたので、「何時に練習がありますか?」と自分で聞いて、自分で足を運んで練習に出ていました。そこで新しい出会いがあり、色んな人の話を聞くようになって、「こういうこともできるんだよ」「ああいうこともできるんだよ」と教えてもらいました。

サポートしてもらってからは、「あ、映像貰えるんだな」と知って「映像をください」と言って、そこから研究が始まり、「研究って面白いんだな」と思いました。風邪を引いたり、怪我をしたりでJISSに足を運ぶ回数も増えましたし、そういうのは名古屋では出来なかったことかなと。

Q. トレーナーは選手にとって必要?

北島もちろん選手にとっては無くてはならない存在だと思っていますし、トレーナーさんを通して、自分自身のことを知る・学ぶことをもう10年以上やってきて、「より競技について知ろう」「もっと身体について知ろう」と知識を与えてくれたのはトレーナーさんのお陰だと僕は思っています。

コーチや監督らもいますが、トレーナーの人達が前に出ることで、もっともっとスポーツ界は大きく変わっていくと思っています。ここまでアジア、日本のスポーツが強くなってきたのは間違いなくトレーナーの方々のお陰だと思っています。

多くの人達のサポートがあって、日本の選手が世界で戦えるようになっていると思うので、もっともっと僕は協力して、サポートしていけたらいいなと思っています。アメリカかヨーロッパからかは分からないですが、本当に日本の選手に合ったものを提供して欲しいなと、僕は心からそのように思っています。

Q. 日本人に合ったトレーニングがある?

Thumb kitajima 2北島あって欲しいなと思います。「日本発信でも良いんじゃないか?」と思うものは絶対あるはずです。
必ずしも、アメリカ流を取り入れてそれが一番良いと選手に落とし込むのではなくて、日本には日本に合ったトレーニングのやり方があったり。

もちろんトレーナーの皆さんの方が詳しいので、僕が偉そうには言えないですが、日本が世界に発信していくトレーナー文化があっても良い、と心の中でずっと思っています。

今の日本のスポーツ界の流れとして、教育的な部分が凄く強いと思います。その中でも、トレーナーが知識を学びに行くことはあっても、選手が学びに行くことはあまり無いと思います。選手自らトレーナーに質問をしたり、選手同士から知識を得たりすることで、スポーツのレベルがどんどん上がっていくことを僕は信じたいなと。

伊調まったく同じです。本当に、コーチと同じようにトレーナーは必要な存在ですし、もっともっと前にというか、表舞台に出てきても良い存在というか。私もトレーナーさんに凄くお世話になったというか、メンタルの部分でも凄く沢山会話をして。あまりメンタルトレーニングをしたことがないのも、トレーナーさんと話をすることで発散できていたのかなと。

レスリングの場合、コーチと話をする選手って少ないですよね、特に日本の場合は。コミュニケーションという意味では、トレーナーさんと過ごす時間が凄く多かったので、もっともっとトレーナーさんにも表舞台に出てきて欲しいなと思います。

Q. 海外生活で何か感じたことや、日本との違いは?

北島もちろんあります。スポーツが一般社会に馴染んでいるなと。本当に自分のライフスタイルの一部なんだなと、アメリカに行って最初に感じましたね。

その中で、先程の話にもあったように、若いうちから色んな種類の競技をする環境であったり、自分に合ったジムを選べる環境であったり、非常に違うなと感じました。色んなところでトレーニングをさせて貰いましたが、本当に色んな意味で日本よりも整っているなという印象を受けました。

でも、もちろんそれ以外で日本は沢山良いところがありますよ。食事の面もそうですし、国立科学スポーツセンター等日本のトップ選手たちへのバックアップ・サポート体制というのも凄く手厚くなりました。

Thumb icho 2伊調海外の選手はよく話すな、と思います。コーチと選手が、トレーナーさんと選手が。よくそんな話すことがあるな、というぐらい話をしている時間が凄く長いです(笑)。

まず今日の調子はどうだ、というところから始まり、今後どうしていこう、ああしていこうという話をざっくばらんにしているなと。

日本ではそこまでコミュニケーションを取りません。コーチを目の前にしてピリッとなるのが日本人じゃないですか?怖いというか、そこまで自分の思っていることを言えない存在というのが日本にいる頃はずっとあったので、カナダに行って一番ビックリしたことはよく話す、ということです。

練習でも人によっては休んでいたり、人によっては追い込んでいたり、人によってトレーナーさんが接し方を変えているのかなと思いました。

北島コーチを振り向かせてやろう、という気持ちがないとアメリカではちょっとやっていけなかったですね。

あと、競い合いが凄かったです。社会人チームと練習をやらせてもらっていたんですけど、海外から受け入れた選手と一緒に練習する楽しさであったり、「もうちょっとやろうぜ!」といった言葉は、中々日本には無いですね。新しい水泳感を持つことになったと思います。

Q. 選手へのサポートの面で他の国と比べて日本が異なる部分は?

北島水泳の場合だと、水泳が強い国、例えばアメリカやヨーロッパやオーストラリアの選手が新しいものを練習に取り入れているのをみると、日本はどうしても後追いなんだなと感じます。

レースした後、海外の選手がすぐに身体を冷やせる状況を作ってあるのを見て、日本は次の年から導入したりとか。そういうのをみると、日本は結果が付いて来るものしかアプローチしないのかなって思うこともあります。

新しいことにどんどんチャレンジしていく為に、もっと協会が色んな人の意見を聞いて取り入れていく必要があるのかなと。もっともっと選手の皆さんがサポートについての声を大きくしていっても良いんじゃないかなと思います。

伊調 選手がもっと声をあげないと、コーチの方に伝わらないというのはありますね。だから私達選手が「こういう人が欲しいです」とか「こういうサポートが欲しいです」など、自らもっと声を上げていかないとダメなんじゃないかと思いますね。

Q. 東京五輪が2020年にあるが、それがゴールではなく、スポーツがもっと日本の文化として根付いていく為に、もっと長期的に繁栄させていく為に何が必要か? どんなことに挑戦したい?

伊調もっと日常的にレスリングを取り入れて欲しいというのが私の野望です(笑)。いつかは水泳のようにメジャースポーツになるように。

北島:凄いメジャーになったよ。

伊調いやいやいや(笑)。まだ、すぐ泳げるけど、すぐレスリングはできないじゃないですか?いつかメジャースポーツになれるように、普及・発展の部分でも貢献できたらと思います。頑張ります。

北島もちろん2020年以降は大事だと思っていますし、五輪だけじゃないと僕は思っているので、日本のスポーツを発展させる上で力になれればなと。

Q. 日本人が世界に誇れるところは?

伊調やっぱり日本人は真面目だと思います。練習に対してもそうですし、食事の面でも、ケアの面でも、すべてにおいて真面目だし、妥協しないと思います。練習で最後までやり切るというか、妥協しないのが日本人かなと思います。

女子レスリングは今日本が世界で一番強いので、自分達が出て行くというよりかは、外国の方を招くことの方が多いので、世界合宿とかをやった時はそれを実感するんですけど、やはり外国の方は最後まで練習できないです。

座り込んでしまったり、もう疲れたから帰るとか、そういう人が多いですけど、やっぱり日本人は練習時間が終わっても居残って練習したり、コーチと一緒にその日の練習を反省してから帰るとか。オーバートレーニングの部分は気を付けないといけない点ですが、そこがなければ勝つことは難しいのかなと思います。

北島僕は海外の選手に何を考えているかバレたくなかったので、わざと壁を作っていました。それが島国特有の侍魂かなって(笑)。

アメリカやヨーロッパは陸続きでオープンな感じですが、あえて僕は何を考えているか分からないようなオーラを出しながら世界で勝負してきて、そういう所が日本の良さだと思います。

もちろん伊調さんが言ってくれた我慢強さもそうですし、繊細さがあるのも日本人で、治療を受けていても一番しっくり来るのは日本人のトレーナーやドクターかなと。

あんまり「海外がこうだから」とか「日本がこうだから」とか、という比較はアメリカにいる時はしなかったです。それをしてしまうと自分が弱いことを認めているみたいで、凄く嫌でした。

でも、日本は凄く良い所がいっぱいあります。食事もそうですし、トレーニングの面でも良いところが沢山あるので、良いところをピックアップして取り入れていって欲しいなと思います。(了)


■取材協力/ジャパン・アスレティック トレーナーズ機構
■文・写真/西村 真