今年のテーマは“歴史”。ヨコハマ・フットボール映画祭へ友だちを見つけに出かけよう。
8作品の上映が予定されている今年のヨコハマ・フットボール映画祭。開港記念会館という歴史ある場所にふさわしい作品が集められたが、開催までの準備過程ではテーマ以外にも考慮しなければならない問題があった。 そして今年は映画上映に加え、サッカー関連の作品や活動告知を行うためのブースコーナーも設置される。その根底にはサッカーを、映画祭を通して、友だちを作ってほしいと願う福島氏の想いがあった。
森 大樹
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2018/02/09
作品選定から翻訳まで。開催に向けての苦労。
今年のヨコハマ・フットボール映画祭は前回までの開催地だった映画館の閉館に伴い、新たに開港記念会館に場所を移して行われる。 今回は新たな開催地の確保も1つのハードルになったが、映画祭を開催する上で一番時間がかかるのはやはり作品の選定だという。作品の候補を出し、権利元に問い合わせをして、試写をした上で金銭的な交渉を行い、最終的に上映する映画を決定する。
そして作品選定の中でもう1つ考慮しなければならないのが日本語字幕の有無だ。日本未公開の作品には日本語字幕が付いていない。そうなると1から字幕を入れる必要がある。それにかかる時間と手間も考えて、作品選びを行わなければならない。
ヨコハマ・フットボール映画祭において、日本語字幕を付ける作業はあえてプロの翻訳家に依頼はせず、有志によって行われる。映画好きで翻訳について勉強したものの、活躍の場を得られていない人や、得意の英語を好きなサッカーのため活かす機会を提供するためだ。上映後のエンドロールにも名前が表示される。
ただ、翻訳担当者はサッカー好きであることが求められる。それはサッカー特有の用語や言い回しなどがある程度分からないと意味が伝わらない字幕になってしまう可能性があるからだ。実際に字幕を付けたらレビュー会を開催し、表現を吟味していく。
「今回の上映作品の1つ、『You’ll never walk alone』はドイツ人が日本語字幕を付けたものが届いたのですが、それだとどうしても言い回しがおかしい部分があったんですよね。
作品中にユルゲン・クロップ監督が出てきて、『特別な人』『普通な人』と話す字幕があったのですが、意味がよく分かりませんでした。どうやらそれはモウリーニョの『スペシャル・ワン』のことを『特別な人』と直訳してしまっていて、それと対比して自分は『ノーマル・ワン』、普通な人っと翻訳してしまったのです。」
紡がれるフットボールの歴史と映画の重なり
今年の開催地になっている開港記念会館は101年の歴史を持ち、国の重要文化財にも指定されている建物だ。それに合わせ、今回の作品にはアイルランド系カナダ人のセルティックサポーターが祖先の歴史を辿る旅を経て、セルティックパークを目指す「セルティック・ソウル」や、オペラがルーツのサッカーソングの世界中で歌われるに至る歴史を追いかけるドキュメンタリー「You’ll never walk alone」、日本代表がワールドカップ初出場を決めた“ジョホールバルの歓喜”を振り返る植田朝日監督の「ジョホールバル1997」といったサッカーの歴史にまつわるものを多く集めた。
「You’ll never walk alone」は先日の松本フットボール映画祭でも上映しました。 映画祭の会場の別のホールでは松本山雅の新体制発表会も行われて、そこで山雅のサポーターソング・勝利の街が歌われたんですよね。同じリーグのライバルクラブですが、感動しました。
You’ll never walk aloneが歌われ始めてから約50年たつのですが、その過程で、スタジアムだけでなく、リバプールの住民たちにとっても大切な歌になりました。
松本の「勝利の街」は今まさにその歴史になろうとしている最中なんだな、と。国歌や校歌のように、そのクラブのある地域で人々が集まると歌われるようになっていくような気がしました。」
“サッカーを通して友だちになれる”場所を作りたい。
今回の映画祭は映画の上映に加えて、フットボール文化祭と題して、サッカーにまつわる作品の販売や活動を広めるブースコーナーを設置する。世界の貧困地域にサッカーグランドを作るNPO法人love futbolや児童養護施設の支援を目的としたJリーガー3選手によるチャリティ活動・F-connectなども出展を予定している。
なぜ映画の上映だけでなく、そういったブースコーナーの設置に至ったのだろうか。
「以前イタリア人審判・コッリーナさんの本を読んだことがありました。現地の審判募集のポスターには “別の方法でプレーしよう”というキャッチフレーズが書かれていたそうです。ただジャッジするだけではなく、審判にはゲームを一緒に作る役割があるというメッセージですね。
それを見た時に、僕がトークショーや映画祭をやるというのも、別の方法でのプレーに含まれるんじゃないかなと考えるようになりました。 そうなると同じくサッカーに関するアパレルや同人誌などを作っている人たちもそれぞれの方法でプレーしているように見えたんですよね。
だからそういった人たちと映画祭に来たお客さんとの接点を設けたいと思いました。そうやってサッカーの横のつながりが増えることで、お客さんが自分も何かやってみようという気持ちになればいいですね。ただ楽しかったと帰るだけでなく、サッカーを通して新しい友だちが増えて、もし良いものがあれば購入してもらえればいいと思います。」
“サッカーを通して友だちになる”。これは福島氏が1999年のコパ・アメリカに日本代表の応援のためにパラグアイを訪れた時の体験が基になっている。 「街を歩いていたらある青年に声をかけられ、家に招かれました。行ってみるとすごく貧乏な家だったのですが、それでもサッカーを通してコミュニケーションを取り、友だちになれたのがすごく嬉しかったです。」
今日映画は映画館に足を運ぶ以外にもレンタルDVDや動画配信サービスの登場で場所を選ばず楽しむことができるようになった。 それでも映画祭をやるのはリアルに人と繫がれるという付加価値を提供できることに意味があるからだ。
最後に節目となる10回目の開催に向け、ヨコハマ・フットボール映画祭の組織化に着手していきたいという意気込みを語った福島氏。
ヨコハマ・フットボール映画祭2018は2月11日(日)〜12日(月・祝)の日程で8作品を集めて、横浜市開港記念会館で開催される。映画を通して国内外のフットボール文化に触れ、熱く語り合える仲間を探しに出かけてみてはいかがだろうか。
<完>
ヨコハマ・フットボール映画祭2018は2月11日(日)~12日(月・祝)で開催予定!
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