Dsc 4940

東京五輪に出るだけでは満足できない。日本フェンシング界の若きエースが抱く、メダル獲得への強い想い。松山恭助インタビューVol.3

2008年の北京五輪で太田雄貴が銀メダルを獲得し、フェンシングが日の目を浴びるようになってから10年が経つ。日本フェンシング界を常に牽引してきた太田は現在、公益社団法人日本フェンシング協会の会長として、競技発展に向けてさまざまな取り組みを進めている。そんな中、同じ男子フルーレで太田に続く逸材として期待されている選手がいる。現在21歳の若武者、松山恭助(まつやま・きょうすけ)だ。彼は高校時代にインターハイ3連覇を果たして頭角を現すと、2016年には全日本選手権を制し、ナショナルチームのキャプテンに就任。その後も2017年アジア選手権団体で3位、ユニバーシアード個人で準優勝・団体優勝、高円宮杯W杯団体で3位と、世界の強敵を相手にして常に上位に名を残してきた。インタビュー最後となる今回は、日の丸を背負う若きエースのギアに対するこだわりと、2020年東京五輪でのメダル獲得へ向けた強い想いを語ってもらった。

Icon 1482131451808 佐藤 主祥 | 2018/06/07
<インタビューVol.1はこちら>
<インタビューVol.2はこちら>

ー松山選手のギアについてお聞きしたいのですが、何か道具にこだわりがあれば教えてください。


松山
:やはり剣はフェンサーにとって商売道具なので、硬さだったり曲がりという部分はしっかりチェックして、神経質になって選んでいます。


剣以外の靴や防具に関しては、あまりこだわりはありません。

ーそもそもフェンシングの道具というのは、各選手オーダーメイドで作ってもらうものなのでしょうか?

松山:いえ、剣はフェンシング用品の専門店に行って、市販で売っているものを自分で選んで購入しています。

同じ種類の剣でも1本1本硬さや重さが若干違うので、慎重に見極めていますね。

ー剣の硬さや重さにこだわりはありますか?

Thumb dsc 4943

松山:僕は軽くて柔らかい方がいいですね。

剣が柔らかいと“振り込み(剣をしならせて相手の背中などを突く技)”がやりやすくなるので、アクロバティックな技を決めやすくなります。

逆にデメリットな点は軽い分、剣先がブレやすいことが挙げられます。要するに、真っ直ぐ突く際にポイントがブレて、狙った箇所を正確に突けなくなってしまうんです。

なので安定性を求めるのであれば、ブレの少ない硬くて重い剣がいいとされています。

ーなるほど。私たちのように見ている側だと、剣の特徴というのは分からないので勉強になります。

松山:確かにテレビで観てるだけでは分からないですよね。選手である僕たちでも、剣を見てすぐにどの種類か見極めるのは難しいですから。

ーそうなんですね。ちなみに剣ってどれくらいの期間もつものなんですか?

松山
:持ち手の部分はそんなに変えないのですが、ブレード(剣針)は1本使い続けたら1ヶ月もたないですね。


なので僕は予備含めて常に4本持ち歩いています。それに1本1本折れるまで使い続けるのではなく、4本をうまくローテーションして使っているので、1本だいたい2~3ヶ月もちますね。

ーすぐに折れないよう上手く使い分けているんですね。では、2020年の東京五輪に向けて、現在ある課題と、それを克服するために取り組んでいることがあれば教えてください。

Thumb dsc 5028

松山:はい。まず1つ目は、僕は剣をグッと力強く握ってしまう癖があって、よく腕が張ってしまうことが課題としてあるんです。

それに剣を強く握ってしまうと、突く際に動きを妨げてしまうこともあります。

なので力みを克服するために、鏡を見て腕の位置を確認しながらリラックスして握る練習を取り入れています。

それともう1つ。これは少し抽象的な話ではあるのですが、世界のトップフェンサーと試合をしたときに、あと一歩というところで勝つことができないんです。このあと一歩の“差”を埋めることも大きな課題としてあります。

実際、実力的にはあまり差は感じないのですが、選手としてさらにステップアップするためには、このあと一歩が大きな差だなと感じているんです。

ただ、自分の中ではそれほど悲観していません。

課題というのは、克服しようと意識的に取り組めば修正できるものなので、むしろ早くこの課題に取り組みたいと思う気持ちが強いです。

そういう意味では、やりたいことが自分の中で明確にあるので、練習は毎日充実していますね。

ーやるべきことが明確化されているからこそ、焦ることなく、そして何の迷いもなく練習に取り組むことができるのですね。

Thumb dsc 5022

松山:その通りです。

課題は山積みなんですけど、課題の多さをマイナスと捉えず、伸びしろの大きいチャンスと捉えることが重要だと、僕は思います。

あと付け加えることとしては、自分が感覚的に捉えている課題やその改善策を具体的に言葉にしたり、ノートに書き記したりして、より分かりやすく整理するようにすることも大切です。

フェンシングは1つの動作でいろんなことにつながっていきます。

なので自分の感覚を可視化してコーチと共有することで、次は「こうした方がいいよね」と、客観的な意見も加えながら実践に取り入れる具体的な動作へ導くことができる。今はそれができているのかなと思います。

ーこれはフェンシングだけでなく、全競技のアスリートにとって大切なことなのではないかと思います。では最後に、東京五輪に向けての意気込みを聞かせてください。

松山:僕は今21歳なので、2年後の2020年はまだ23歳です。なので、選手として肉体的に旬なタイミングで東京五輪を迎えられるというのは、ものすごく大きいチャンスだと思っていますし、何か縁を感じます。

ただ、僕は大会に出るだけでは全く満足できません。

今もこれからも変わりませんが、僕は東京五輪に出場するための練習ではなくて、メダルを取るための練習をしています。

最近、練習をしていて「本当に時間がないな」というのをすごく感じているので、一つひとつの練習に集中して取り組み、試合も一戦一戦全力で臨んでいきます。

メダルへの想いはものすごく強いので、今から表彰台に上がるための準備をしっかりしていきたいと思います。(了)


写真:佐藤主祥

取材協力/日本フェンシング協会