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黒崎優香がアメリカの大学サッカーを選択した理由 【前編】

女子サッカー界における世界最高峰の舞台、アメリカ。そのアメリカの大学リーグに所属するチームに、アメリカでプロサッカー選手を目指す日本人女性がいる。黒崎優香(21)だ。福岡県北九州市の黒崎は、4歳の時に兄の影響でサッカーを始め、中学時代は、地元ニューウェーブ北九州レディースで活躍。ナショナルトレセンにも選抜され、その才能は早くから注目されていた。その後、女子サッカーの名門、そしてパスサッカーの代名詞とも言われる静岡県の藤枝順心高校に進学し、技術を磨いた。3年生の時には、キャプテンとしてチームを率い、全国大会で優勝を果たす。 そんな彼女がなぜ、日本の大学や、なでしこリーグでプレーすることを選択せず、アメリカの大学でのプレーを選択したのだろうか。2年目のシーズンを終え、日本に帰国していた彼女よりメッセージをもらった筆者は、すぐに、彼女と会って話を訊くことにした。

Icon segawa.taisuke1 瀬川 泰祐 | 2019/01/17

スカラシップ(奨学金)制度の違い 


日本はちょうど、NCAAの日本版である「UNIVAS(ユニバス)」が動き始めて、大学スポーツには注目が集まり始めています。今日は、日本とアメリカの大学スポーツの現場の違いのことを中心に、お話できたらと思います。
 

黒崎:はい、よろしくお願いします。

黒崎さんは、女子サッカー選手としてNCAA傘下の大学でプレーしていますが、これまでアメリカの大学にサッカー留学した選手ってどのくらいいるんですか?

黒崎:アメリカの大学に行った人は結構いますね。ただ、アメリカの大学サッカーにもカテゴリーがいくつかあって、ディヴィジョン1に行った選手となると、本当に数人しかいないんです。

突然ですが、いま、黒崎さんは、スカラシップ(奨学金)は全額支給ですよね?

黒崎:はい。そうです。

黒崎さんは、なぜアメリカの大学でプレーすることを選んだのですか?

黒崎:実は、私が日本の大学を選ばなかった一つの理由がスカラシップです。男子の場合は、将来、働いていけばいつかは返済できるじゃないですか。でも、女子の場合、男性に比べたらやっぱり返済は難しくなるし、もし女子サッカーを続けていたら、なおさら収入なんて期待できません。親からも、サッカーだけをしに大学に行くくらいなら、なでしこリーグに行ってプレーして欲しいとも言われていましたし、借金をしてまで、日本の大学で学びたいことってあるのかなって思っていました。かといって、自分の中では、なでしこリーグで働きながらサッカーをするっていうのが、高校の時の想像できなかったんです。そこで、海外に行こうって決めて。スペインやドイツのクラブチームでプレーすることも検討はしたんですけど、両国共にクラブチームだから、正直どうなるかわからない。アメリカの大学の場合は、英語がクリアできれば、奨学金をもらえて、しかも返さなくていい。それはやっぱり、魅力じゃないですか。それに、今後、英語が重要視されてくるって思っていましたので、アメリカに行くことに決めました。

アメリカ留学に必要な語学力

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でも、みんながそこ(アメリカの大学への留学)にチャレンジできない理由って、競技力はもちろんですが、語学力っていうのが大きなハードルじゃないですか?

黒崎:そうなんです。自分も英語ができたわけじゃないので、1年間は向こうの語学学校で勉強してから、大学に入学しました。

語学学校で勉強するのは、本当に語学だけ?

黒崎英語のスピーキング、ライティング、リーディング、グラマー、リスニングです。ただし、大学に入学するためには、TOEFL(アメリカの非営利教育団体が実施する英語能力測定試験)で、大学ごとに決められた基準点をクリアしないと入学許可はおりないんです。学校によって、入学するまでに特有のルールがあるんですけど、私の場合、ケンタッキー大学付属の語学学校に通って、レベルが6段階あるプログラムを全部クリアして自動的に入学許可をもらいました。それぞれの段階で、約2ヶ月ごとにテストがあって、それをクリアしたら次のレベルのプログラムに行けるっていう感じで。それを全てクリアして、やっとケンタッキー大学に入学しました。

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※2017・2018シーズンまでケンタッキー大学に所属。2019シーズンからはオクラホマ大学へ移籍。

なるほど。今後、同じ道を目指す人の参考になるかもしれませんね。もし、高校生に戻れるとしたら、高校生の自分に、何をアドバイスしますか?


黒崎私は高校を3月に卒業して、6月くらいに渡米したんですけど、アメリカに行って、初めて、「あぁ、これだけ勉強しないといけないんだ」っていうことに気づいたんです。語学学校のテストは、主に習った授業からの出題だったので、TOEFLとは別で、そのための勉強しないと点が取れなかったのですが、やはり勉強の重要性をわかっていなかったので、苦労しました。もっと早くから対策が取れていたらよかったですね。

入学後の学生アスリートの生活


では次に、入学後の状況について少し話しできればと思います。アメリカでは文武両道が基本だと思いますが、NCAAの環境下で学生アスリートがどんな生活を送っているのか、とても気になります。その実情を詳しく聞かせてください。

黒崎:例えば、午前中に練習したら、午後には授業を取らないといけないって決められていますし、さらに、補習で先生と1対1で勉強しないといけない時間も決められています。

じゃあ、あまり自主練とかやる時間はなさそうですね。

黒崎:そうですね。正直、めっちゃ自主練をやったっていう記憶はなくて。日本にいるときは、時間もあるし、練習終わった後に自主練っていうイメージだったんですけど、今は練習後に学校の授業が入っています。しかも、授業は1分でも遅れるなって言われているので、練習を切り上げて、すぐに準備して授業に行くという生活です。時間も結構、切羽詰まっていて。しかも、シーズン中だと、中2日とか3日で試合をやっているんですよ。だから自主練なんてできないですね。疲労の回復もしないまま、火・水曜で練習して、木曜に試合して、金曜日は軽めにやってリカバリーして、土曜は移動してみたいな。

ちなみに、女子サッカーのシーズンはいつから?

黒崎:8月1日からチーム練習がスタートして、8月中旬から試合がスタートします。9月中旬からはリーグ戦がスタートして10月終わりまでがレギュラーシーズンになりますが、そこで勝ち上がったチームは、その後も全米のトーナメントがあるんですけど、長くても12月頭までですね。

シーズン前の練習試合なんかはいつやるんですか?

黒崎:8月の半ばから試合が始まるって言いましたが、そこから9月頭くらいまでが、練習試合ではないんですけど、自分のカンファレンス(地域リーグ)外のチームと試合ができる期間なんです。その後のレギュラーシーズンが10月で終わってしまったら、11月・12月はオフというわけではないんですけど、すごく軽い活動になります。1月からは走りとウェイトが週3くらいで始まって、5月まで続くんですけど、その期間、試合ができるのはMAXで5試合だけと決められていて、その後5月から夏休みに入る感じです。NCAAでは、そのようにルールが決められていて、オフシーズンは週に何時間までしか練習ができないとか、シーズン中は何時間っていうのが全部決められているので、そのルールに違反しないように、この日は練習して、この日とこの日はウェイトと走りとかっていうふうにコーチたちがマネージメントしてくれています。 

なるほど。そういったNCAAからのルールは、コーチたちから通達されるんですか? NCAAではどのようにして末端まで浸透させているのかが気になります。

黒崎:ケンタッキー大学の場合、50枚近くの紙に全部ルールが書かれていて、入学する前に、契約にサインをしないといけないんです。(ちなみに、後日談では、今回オクラホマ大学へ移籍する際は、30枚ほどだったそう。)それを読めばある程度はわかります。1年目は実際にどのように生活するかはわからないことも多かったんですが、シーズンを通して経験すれば、こういう感じなんだなというのはわかります。また、コーチたちからの通達もありますし、大学のアスレチックデパートメント(スポーツを統括する部門)が、アスリート全員を集めてミーティングをやることもあります。ドラッグテストなんかもありますし、その目的もしっかり説明されますね。
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それは、驚きですね。NCAAから各大学のアスレチックデパートメントに伝達し、さらに、各大学はそれを各部のアスリートに対して、指導しないとならないようにしっかり流れができているんですね。

黒崎:もちろん、チーム単位で行われる指導もあります。その場合は、各部活にラウンジというかロッカーもあるので、そこで、コーチたちが喋るのではなく、カウンセラーや組織の上の人たちが、ルールを説明したり、メディアトレーニングをしたり。そういうのがシーズンの最初に行われますね。

選手は学生アスリートだから、経済活動をすることは基本的に禁止されていると思いますが、例外はありますか?

黒崎:基本的には、入学前に、自分に個人スポンサーが付いているかどうかなどを、全部書いて提出しないといけないのですが、バスケとかは、一部特例はあると思います。バスケの選手って、もともと、入学時点で大学を卒業する気が全く無くて、1年目の活躍の場として大学に来ています。だから、1年目が終わったら、プロとの交渉に入るんですよ。その時点で、いろんなメーカーからオファーも来ているんだと思います。

大学側は1年だけでも在学させるメリットがあるってことですよね。商業主義がそこまで浸透していることがすごいですが、学生スポーツとお金の関係に馴染みのない日本人には、なかなか理解しにくい部分かもしれません。

黒崎:そうですね。アメリカの大学は、卒業しなくても、キャリアが終わった後に戻ってくることもあるし、コーチたちもいい選手を取らないと勝てないし、人も集まらないから、優秀な選手を獲得するんです。そして、その選手が活躍できれば、気持ちよくプロに送り出しています。もちろん、中にはトラブってしまう人もいるみたいですけど、バスケはそれが当たり前になっている感じですね。毎年チームのメンバーも変わりますので、日本の大学スポーツに比べても、コーチたちは大変だと思います。

勉強をしなければならないとか、競技に関わる時間の制約がある以外は、プロスポーツの世界と同じですね。コーチもコロコロ変わるでしょ?

黒崎:はい、コーチも成績を残せなかったらクビですからね。

プロフェッショナリズムとアマチュアリズムの中間かと思っていたけど、ほぼプロですね。

黒崎:はい、そうですね。プラスアルファで、勉強があるというだけで。


後編へ続く

取材・文・写真:瀬川泰祐
試合中写真:本人提供