発起人Kの独り言VOL7「陸上男子400mリレー。銀メダルを獲得した4人が履いていた、画期的なスパイクとは?」
おそらくは100年がすぎても日本スポーツ史にさん然と輝き続けるである今回の偉業。ここで選手を支えたギアにスポットライトをあてなければ、キングギアを立ち上げた意味もありません。というわけで、簡単ではありますが、歴史に名を刻んだ4足のスパイクの紹介を──。
金子 達仁
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2016/08/29
金メダルの数でも、獲得総数でも堂々の世界6位に躍進したリオ五輪での日本。
日本人として、こんなにも興奮させられたオリンピックはちょっとありませんでした。
どの選手にとっても、どの競技にとってもオリンピックでのメダルは特別なもの。
先日取材をさせてもらった重量挙げの三宅宏美選手は「3位と4位とでは天と地ほど違う。なんとしても3位を取るんだというつもりでやりました」と銅メダル獲得につながった最後の試技について振り返っていました。
ただ、そんな中でも、日本にとって、日本人にとって、歴史的に最も重い意味合いがあるのでは‥‥そう感じたのが、陸上男子400メートルリレーでの銀メダルです。
サッカーに限らず、オリンピックで、ワールドカップで敗北を喫するたび、必ずといっていいほど敗因の一つとして「運動能力の差」をあげてきた日本です。日本人であるがゆえに、陸上の短距離では勝てない──そんな思い込み、刷り込みが、少なくともわたしの中にはありました。
それが、全部塗り替えられました。
あの銀メダルを目の当たりにした子供たちは、日本の短距離選手がアメリカに勝つのを当たり前と考えるようになるでしょう。届かなかった金メダルを、自分の力で奪い取るんだと誓った少年がいたかもしれない。その思考回路から、「日本人だからダメ」という無意味な思い込みは相当に除去されます。
ハナから頂点に立つのを諦めてやるトレーニングと、遠くはあってもそこに届くことをイメージしながらやるトレーニング。短期的には再び世界から遠ざかることもあるでしょうが、長い目で見れば、確実に距離は縮まっていくはずです。
というわけで、おそらくは100年がすぎても日本スポーツ史にさん然と輝き続けるである今回の偉業。ここで選手を支えたギアにスポットライトをあてなければ、キングギアを立ち上げた意味もありません。
というわけで、簡単ではありますが、歴史に名を刻んだ4足のスパイクの紹介を──。
〔1走・山縣亮太/ナイキ・ズーム スーパーフライ エリート〕
ナイキからのプレスリリースにはこうあります。
「最初に目を向けたのは短距離の科学的な面についてです。100mの世界チャンピオンの座を3度勝ち取り、金メダルを2つ保持するシェリー=アン・フレーザー=プライスのような短距離選手をより速くするには、硬いシューズを作ることが求められます。それは野球バットが長くなればボールを強く打てるようになるのと同じ、力の伝達の仕組みです。スパイクプレートを固くするのは、スピードの重要な要素となる足の推進力を地面によりよく伝えられるようにするためです。
しかし、硬さだけでなく、シューズには軽さも求められます。先端のコンピューター設計機器や、時間の節約につながる3Dプリントの試作品制作によって、必要な要素を理想的なバランスで取り込んだナイキ スーパーフライ エリート スパイクが生まれました。このスパイクはフレーザー・プライスが0.013秒速く走る力になりますが、この違いは1位と4位の差にもなり得るのです」
〔2走・飯塚翔太/ミズノ・モデル名なし〕
続いてはメイド・イン・ジャパン。ミズノと飯塚選手が共同開発した、言ってみれば“飯塚モデル”のスパイクです。
ミズノからのプレスリリースによれば、足裏全体を使って効率的に走る飯塚選手の走法にあわせ、さらにスタート時には高い柔軟性を、中間疾走時には高い反発力(つまり硬さ)を求める飯塚選手の要望に応じるため、横方向の動きには柔らかく、縦方向の動きには硬いという独創的なソールを開発。
アッパー部分には軽さに加えて強度もある三軸織物を使用。それにより、従来の人工皮革に比べて3分の1程度の軽量化が図られたという。ちなみに、飯塚選手の足のサイズは28・5センチで、スパイクの重量は130グラム程度だとか。
いまのところ、スパイクのモデル名は発表されていないが、17年春夏モデルとしての商品化が予定されている。
〔3走・桐生祥秀/アシックス・短距離用スパイクシューズ・タイプ1〕
続く3走もメイド・イン・ジャパン。すごいぞニッポン。ただし、こちらもモデル名はなし。んー、なんかちょっともったいない。
ただ、アシックスからのプレスリリースには、いまになってみれば「おお!」と思わされる一文があった。
「スパイクのピンとピンの間を一部くり抜くなど軽量化をはかりながら、前部の側面を巻き上げてホールド性を高めた、独自のプレートを採用しています。蹴り出し時はもとより、コーナー走行時のブレを抑える効果もあります」
当然のことながら、100メートル走にコーナーを走るシチュエーションはないわけで、ということは、アシックスとしてはハナからリレーの3走を念頭においてこのスパイクを開発したということになる。
でもって、本番では桐生選手のごぼう抜き。わたしが開発者だったら嬉しすぎて号泣してます。
〔4走・ケンブリッジ飛鳥/アンダーアーマー・スピードフォーム スプリント プロ〕
最終のアンカーはアンダーアーマー。ちゃんとモデル名があるところなんざ、実にしっかりしている。カラフルなスパイクが全盛の中、あえてモノトーンで勝負してくるあたり、わかってるというか渋いというか。
本番時のデザインはケンブリッジ飛鳥をイメージして作られたスペシャルメイクアップ。
アンダーアーマーからのプレスリリースによると、このスパイク、陸上競技スパイク初のシームレス(つなぎ目なし)ヒールカップを搭載したモデルなんだとか。
はたしてシームがないとどんなメリットがあるのか、陸上競技では初というからには、他の競技ではすでに採用されているのか。現在のところ不明ですので、今度聞いてきます。
ちなみに、目下のところこのモデルは日本未発売だそうですが、ここまでの快挙がなしとげられた以上、ぜひとも発売にこぎつけてほしいもの。
これって、陸上競技をやっているやっていないにかかわらず、コレクターズ・アイテムになりそうな予感がします。なにせ、銀メダルのテープを切ったシューズなわけですし。
最後はおまけ。日本を抑えて金メダルを獲得したジャマイカはウサイン・ボルト先生のゴールデン・プーマ。
これはほしい。マジでほしい。家に飾りたい。
てか、オークションに出たら中国人の富裕層あたりがとんでもない値段をつけるんだろうなあ。去年の年末、格闘技イベントのRIZINでヒョードルが使用したグローブも、とんでもない値段で買い手がついたそうだし。
日本人として、こんなにも興奮させられたオリンピックはちょっとありませんでした。
どの選手にとっても、どの競技にとってもオリンピックでのメダルは特別なもの。
先日取材をさせてもらった重量挙げの三宅宏美選手は「3位と4位とでは天と地ほど違う。なんとしても3位を取るんだというつもりでやりました」と銅メダル獲得につながった最後の試技について振り返っていました。
ただ、そんな中でも、日本にとって、日本人にとって、歴史的に最も重い意味合いがあるのでは‥‥そう感じたのが、陸上男子400メートルリレーでの銀メダルです。
サッカーに限らず、オリンピックで、ワールドカップで敗北を喫するたび、必ずといっていいほど敗因の一つとして「運動能力の差」をあげてきた日本です。日本人であるがゆえに、陸上の短距離では勝てない──そんな思い込み、刷り込みが、少なくともわたしの中にはありました。
それが、全部塗り替えられました。
あの銀メダルを目の当たりにした子供たちは、日本の短距離選手がアメリカに勝つのを当たり前と考えるようになるでしょう。届かなかった金メダルを、自分の力で奪い取るんだと誓った少年がいたかもしれない。その思考回路から、「日本人だからダメ」という無意味な思い込みは相当に除去されます。
ハナから頂点に立つのを諦めてやるトレーニングと、遠くはあってもそこに届くことをイメージしながらやるトレーニング。短期的には再び世界から遠ざかることもあるでしょうが、長い目で見れば、確実に距離は縮まっていくはずです。
というわけで、おそらくは100年がすぎても日本スポーツ史にさん然と輝き続けるである今回の偉業。ここで選手を支えたギアにスポットライトをあてなければ、キングギアを立ち上げた意味もありません。
というわけで、簡単ではありますが、歴史に名を刻んだ4足のスパイクの紹介を──。
〔1走・山縣亮太/ナイキ・ズーム スーパーフライ エリート〕
ナイキからのプレスリリースにはこうあります。
「最初に目を向けたのは短距離の科学的な面についてです。100mの世界チャンピオンの座を3度勝ち取り、金メダルを2つ保持するシェリー=アン・フレーザー=プライスのような短距離選手をより速くするには、硬いシューズを作ることが求められます。それは野球バットが長くなればボールを強く打てるようになるのと同じ、力の伝達の仕組みです。スパイクプレートを固くするのは、スピードの重要な要素となる足の推進力を地面によりよく伝えられるようにするためです。
しかし、硬さだけでなく、シューズには軽さも求められます。先端のコンピューター設計機器や、時間の節約につながる3Dプリントの試作品制作によって、必要な要素を理想的なバランスで取り込んだナイキ スーパーフライ エリート スパイクが生まれました。このスパイクはフレーザー・プライスが0.013秒速く走る力になりますが、この違いは1位と4位の差にもなり得るのです」
〔2走・飯塚翔太/ミズノ・モデル名なし〕
続いてはメイド・イン・ジャパン。ミズノと飯塚選手が共同開発した、言ってみれば“飯塚モデル”のスパイクです。
ミズノからのプレスリリースによれば、足裏全体を使って効率的に走る飯塚選手の走法にあわせ、さらにスタート時には高い柔軟性を、中間疾走時には高い反発力(つまり硬さ)を求める飯塚選手の要望に応じるため、横方向の動きには柔らかく、縦方向の動きには硬いという独創的なソールを開発。
アッパー部分には軽さに加えて強度もある三軸織物を使用。それにより、従来の人工皮革に比べて3分の1程度の軽量化が図られたという。ちなみに、飯塚選手の足のサイズは28・5センチで、スパイクの重量は130グラム程度だとか。
いまのところ、スパイクのモデル名は発表されていないが、17年春夏モデルとしての商品化が予定されている。
〔3走・桐生祥秀/アシックス・短距離用スパイクシューズ・タイプ1〕
続く3走もメイド・イン・ジャパン。すごいぞニッポン。ただし、こちらもモデル名はなし。んー、なんかちょっともったいない。
ただ、アシックスからのプレスリリースには、いまになってみれば「おお!」と思わされる一文があった。
「スパイクのピンとピンの間を一部くり抜くなど軽量化をはかりながら、前部の側面を巻き上げてホールド性を高めた、独自のプレートを採用しています。蹴り出し時はもとより、コーナー走行時のブレを抑える効果もあります」
当然のことながら、100メートル走にコーナーを走るシチュエーションはないわけで、ということは、アシックスとしてはハナからリレーの3走を念頭においてこのスパイクを開発したということになる。
でもって、本番では桐生選手のごぼう抜き。わたしが開発者だったら嬉しすぎて号泣してます。
〔4走・ケンブリッジ飛鳥/アンダーアーマー・スピードフォーム スプリント プロ〕
最終のアンカーはアンダーアーマー。ちゃんとモデル名があるところなんざ、実にしっかりしている。カラフルなスパイクが全盛の中、あえてモノトーンで勝負してくるあたり、わかってるというか渋いというか。
本番時のデザインはケンブリッジ飛鳥をイメージして作られたスペシャルメイクアップ。
アンダーアーマーからのプレスリリースによると、このスパイク、陸上競技スパイク初のシームレス(つなぎ目なし)ヒールカップを搭載したモデルなんだとか。
はたしてシームがないとどんなメリットがあるのか、陸上競技では初というからには、他の競技ではすでに採用されているのか。現在のところ不明ですので、今度聞いてきます。
ちなみに、目下のところこのモデルは日本未発売だそうですが、ここまでの快挙がなしとげられた以上、ぜひとも発売にこぎつけてほしいもの。
これって、陸上競技をやっているやっていないにかかわらず、コレクターズ・アイテムになりそうな予感がします。なにせ、銀メダルのテープを切ったシューズなわけですし。
最後はおまけ。日本を抑えて金メダルを獲得したジャマイカはウサイン・ボルト先生のゴールデン・プーマ。
これはほしい。マジでほしい。家に飾りたい。
てか、オークションに出たら中国人の富裕層あたりがとんでもない値段をつけるんだろうなあ。去年の年末、格闘技イベントのRIZINでヒョードルが使用したグローブも、とんでもない値段で買い手がついたそうだし。