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OWS日本代表・南出大伸が明かす、東京五輪内定で感じた苦悩。日の丸背負い「ずっしりとした重圧と責任感がのしかかってきて……」

競泳からオープンウォータースイミング(OWS)へと、競技者としての主戦場を移した男子日本代表・南出大伸。約1ヶ月後に迫ったパリ五輪代表に内定しており、東京大会から自身2度目となる夏の大舞台へ足を踏み入れる。今回は、レースの“肝”とも言えるポジション取りやブイ周りでの戦い、日本代表として五輪に出場する上での苦悩について語ってもらった。(※トップ画像:木下グループ提供)

Icon 1482131451808 佐藤 主祥 | 2024/06/08

集団での「ポジション取り」がレースを制すカギ

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ーー南出選手は10キロというレースのなか、どのようなペース配分で泳いでいるのですか?
 
僕は前半はそれなりのスピードで泳いで、後半になるにつれてどんどんペースを上げていくタイプです。とくにラストスパート、ゴール手前だったら基本的に競り合いでは負けません。それぐらいの自信はありますね。

具体的に言うと、僕がずっと誰かの後ろにつき続けて最後に抜かす、という形ではなく、最後の周回に入った頃には自分が先頭に出てて、後ろから追い上げてきた選手たちと横並びになった状態で最後に競り勝つ。そういうレース展開が、とくに国内の大会だと多いです。

ーー1度追いつかれてもリードを守りきるスタミナと瞬発力が、南出選手の大きな武器なわけですね。レースの戦術としては、やはり陸上競技のマラソンのように人の後ろにつく方が泳ぎやすかったりするんですか?
 
はい。人の後ろの方が圧倒的に泳ぎやすいです。人が泳ぐとき、手で水をかいた後ろや頭の後方に渦が発生するので、その渦にうまく入り込むことで水の抵抗を抑えることができ、スピードの速さを維持しつつも体力を温存しながら泳ぐことが可能となります。

つまり、自分よりも速い選手の後ろで泳いでいると、その選手と同じぐらいのスピードで泳げる、みたいな現象が起こるんです。実際に「速くなる」わけではないんですけどね(笑)。

ただ、レース終盤になってくると、選手の後ろにいると泳ぎやすいのは間違いないのですが、体ひとつリードされている分、どうしても不利になってしまいます。なので、必然的にその差を埋めようと、ゴール前では横並びの展開になることが多いんです。

ーー中盤までは各々のペースでレースを運びながら、ゴール前では選手たちが密集して大接戦になる。
 
というより、中盤から後半にかけても散らばることなく、選手たちはずっと集団となって黙々と泳いでいる感じです。そのなかで、前半型や中盤型の選手が先頭を入れ替わりながらレースを引っ張っていく展開になっていきますね。


ブイ周りで起きる“格闘戦”が見どころ

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ーーさまざまな国の会場で泳がれていると思いますが、天候などの影響で1番大変だったレースはなんですか?
 
ドバイでのレースが1番キツかったです。波が高かったのもそうですが、「※ブイ(海に浮かんでいる“しるし”)」を回るときに集団に飲み込まれてしまって、水中で体を引っ張られたり、沈められたり……。それによって完全にペースが崩れ、3〜4番手に位置していたはずなのに、気づいたら30位ぐらいにまで落ちてしまっていました。

ただ、これは他の選手が故意にやったわけではありません。ブイ周りで内角などいいコースに行こうとすると、どうしても接触が避けられないケースが多いので、勝ちにいく上ではどうしても衝突や接触は発生してしまいます。なので、いかにブイをスムーズに回れるかもレースにおいては大きなポイントとなるわけです。

話を戻しますと、このレース当時の僕は今より前半型の選手だったので、30位になっても、どうにか遅れを取り戻そうとペースを上げて5番手付近まで戻っては、疲れてまた順位が下がってしまったり、またスピードを上げたり。これを繰り返していたら終盤には何もできないぐらい力尽きてしまったんです(笑)。いま思い返しても、本当にこのレースはキツかったですね。

※OWSでのレースはプールと異なり、コースロープ(プールをコースごとに区切る仕切り)や、水底にラインが引かれているわけではないため、海上に浮かぶブイを目印に自分の位置や周回の方向を確認する。

ーーまさに“水上の格闘技”ですね。
 
そうですね。これまでたくさん“接触”を経験しましたが、泳いで水をかいているときに肘が顔にぶつかったこともありました(笑)。激しく当てられるとけっこう後ろの順位に下がってしまうので、本当に注意が必要です。でも競技として言えば、接触が多いブイ周りは、熱く激しい戦いが繰り広げられるポイントなので、1番の見どころでもあるんですよ。


「外国人選手にも負けない」ラストスパートに手応え

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ーー2017年には日本代表に初選出され、全豪選手権に出場されました。初めて日の丸を背負ったときの気持ちはどうでしたか?
 
当時は日本代表であることを考えている余裕がなく、自分のことだけで精一杯でした。この全豪選手権は僕にとって初めての海外でのレースでもあったので、日の丸を背負って戦っていく、というより「自分の持てる力をすべて出していかないと」っていう意識が強かったです。

ーーこのレースが外国人選手との初の公式戦だったのですね。
 
はい。実際に競り合いをして感じたのは、とにかく「海外の選手はえー!!」という(笑)。いままで感じたことのないフィジカルの強さやスピードの速さを体感しましたね。そういう印象が強いレースでしたし、その後の自分にとっても大きな経験をできた時間になりました。

ーーそんな日本代表としてのスタートから、2021年6月開催のポルトガルでのレースでは6位に入り、自身初となる東京五輪出場権を獲得されるまでになりました。改めてその瞬間の心境を教えてください。
 
正直、五輪が決まってよかったという感情よりも、「あ〜負けた……」という気持ちの方が先に出ちゃいましたね。このレースでは個人的に優勝を目標に臨んでいましたし、最低でも3位以内には入りたかったので。

それに代表選考レースに参加していくにつれて、日本人選手がどんどんいなくなるわけじゃないですか。その度に日本代表になる責任感と言いますか、「この人に勝ったから、その分も頑張らなきゃ」という思いがレースごとに積み重なっていきました。

そして五輪出場が内定し、初めて日本代表になった頃と比べると、こんなに日の丸にはずっしりとした重圧と責任感がのしかかっているんだなと、日の丸を背負うということはこういうことなんだと、ものすごく感じたんです。なので五輪に対して、出場が決まった安心感はあったものの、素直に喜ぶことができませんでした。

ーー実際に日の丸を背負った選手にしかわからない、想像を絶する苦悩があったわけですね。そのなかで東京五輪に出られましたが、実際に4年に1度の大舞台を踏んでみてどうでしたか?
 
結果は13位で入賞することはできませんでしたけど、得られるものはありました。レースの最終局面、海外の速い選手と横並びになったんですけど、最後に競り勝つことができたんです。

やはりラストスパートだったら外国人選手と戦えるなと、自分の力を確認することができた。世界との差を埋めていくために、自分が得意な局面に持ち込んでいけるようなレース展開をしていけばチャンスはある。五輪という舞台で、そういう感覚を掴めたことは本当に大きかったなと思います。