
英雄たちが愛した歴史的スパイクVOL.8『アディスーパーソールのワールドカップ編』
1978年W杯アルゼンチン大会が開催された頃デビューしたアディダスの取替え式2色ソールスパイクは、当時かなりのインパクトがあったようです。私はサッカー部に入部した80年代前半にようやくこのソールのことを知りました。このソールは様々なモデルに用いられましたが、トップレベルの選手が使っていたのはやはり「ワールドカップ」という名前のモデルでした。一番よく使われた時期は多分78年から82年ですが、86年大会でも使っていた選手がいたようです。

(スパイクブログ始めました。https://maradonaboots.com/)あと約1カ月でワールドカップが始まります。きっと各国代表選手たちの足元にも注目が集まることでしょう。昔のスパイクで「ワールドカップ」というベタな名前のモデルは高級品の代名詞でした。
今回は2色ソールのアディダス・ワールドカップについてです。 このソールはアディスーパーソールと言うそうですが、このソール誕生とともに発売されたモデルはワールドカップ78です(図1左上)。
このモデルには、つま先がバックスキンの物(図2左)、シュータンのマークデザインが異なる物(図2右)があったようです。
その後、つま先のステッチの数が増え、78の表示がなくなり、ワールドカップ(図1左下)になりました。
つま先ステッチの違いは巻頭の写真をご覧いただくとお分かりかと思います(一番左が78)。非常に細かい違いとしては、78ではなかったソールのかかと部分のとめ具が、その後のモデルにはあります(図1矢印)。
ただ、78でもステッチが多い物やとめ具付きもあるようで、いつ改良されたかは不明です。 同時期にはラインやヒール部分が銀色のワールドカップシルバーも発売されました(図1右上)。このモデルからソールのとめ具が黒くなったようです(それまでは銀)。
また、他のモデルには見られないスタッドとソールの間に黒いプラスチック製のワッシャーのような物があります。モデル番号は、白は1106(当時定価25000円)でシルバーは1108(26000円)でした(図1右下)。
図1 ワールドカップ78(左上)。見にくいですが、側面に「WORLD CUP 78」の表示があります(挿入写真)。
内張りは劣化しています。
ワールドカップ(左下)、ワールドカップシルバー(右上)、白とシルバーではモデル番号が違います(右下)。
これらのモデルのシュータン裏は白く、かかとのマークはトレフォイル+adidas文字のパターンです。
アディダスの西ドイツ製表示はシュータン裏のマーク最上部に小さく記されています。(シルバーの挿入写真) 。
アディダスの古いスパイク情報はこちらのサイト(http://www.adidas-world.com/)が大変充実しており、とてもレアなモデルをお持ちの方の投稿がたくさんあります。
また、貴重な情報も得られ、ワールドカップシルバーは80年後期から81年までの短い期間しか生産されなかったモデルで、ヨーロッパの一部とアジア地域にしか供給されなかったそうです。
図2 ワールドカップ78の広告。左はつま先部分に裏革を使っており、右はシュータンのマークに古いパターンが使われています。
ワールドカップ78とそれから78が取れたモデルは、基本的構造はどちらもほぼ同じと思っていました。
しかし、図3-1(上)のワールドカップは少し変わっており、かかとの革が別体で、外側から取り付けられています(3-2は拡大図)。 図1及び3-1(下)のかかと部分はアッパーと一体式です。
以前ご紹介した3マテリアルソールモデルのかかとの革は別体タイプなので、1(上)のスパイクは新型デビューの直前に作られたのかもしれません。
また、同じ別体タイプでも中敷きのデザインが異なる物があります。図3-3(右)が古いタイプで、左は3マテリアルソールモデルにもよく見られる新しいタイプですが、しばらく並行して作られていたのかもしれません。
古いタイプはドイツ語で何か書かれていてかっこいいのですが、「抗菌加工」と記されているだけで、日本語だったら妙ですね。 図3-4はオーストリア製のワールドカップです。
かかとの革も別体ですし、シュータンマークの色や、かかとのトレフォイルマークは80年代中盤の3マテリアルソールのワールドカップで使われていたタイプですので、それぐらいの時期でも一世代前のモデルが作られ続けていたようです。
図3 1:かかと部分の作りが異なる旧型ワールドカップ。かかとの革が別体(1上)、一体(1下)。
2:別体拡大図。
3:同じ別体タイプでも中敷きデザインのみが異なるモデルがあり、左が新しいタイプ。
4:オーストリア製旧タイプのワールドカップ。
5:シュータン裏は黒。
6:かかとのマークの違い。上がオーストリア製。
アディスーパーソール使用モデルはワールドカップ以外にもたくさんあり、図4にその一例を紹介します。
アディ(左上)は創始者のサイン入りモデルです。アディのシュータンパターンは複数あり、写真のタイプは日本でも売られていたミュンヘン(取替え式)やフランクフルト(固定式)と同じです。
また、ライン等がシルバーのアディシルバーや、数年後にアディIIも発売されたと思います。 左下はヨーロッパカップで、1980年の欧州選手権時に発売されたモデルです。写真のスパイクはオーストリア製で、西ドイツ製もあり 、モデル名に80が付き、表記が1行や2行の物が存在します(挿入写真参照)。
おそらく白ラインモデルもあり、リオ五輪ドイツ代表監督だったルベッシュ選手が使っていたと思います(右下)。右上は日本製のブンデスリーガシリーズの一つです。
図4 西ドイツ製アディ(左上)。日本製ブンデスリーガXL(右上)。ヨーロッパカップ(左下)。
80がつくモデルもあります。80年代前半の西ドイツ代表(右下)。
左から5番目がルベッシュ選手。おそらくヨーロッパカップを履いています(挿入図は拡大したもの)。
時代は進み、図5上は登場20年後の98年に、図5下は08年に登場30周年記念モデルとして発売された旧型ワールドカップの復刻版です。
今年は旧型発売40周年です。最近は90年、00年代の復刻スパイクが多いアディダスですが、さらに古いモデルにも再注目していただきたいものです。
図5 上は98年頃復刻された旧型ワールドカップ(20周年モデル?)。
下は08年に1978足製造された復刻モデル。専用のカバンやメンテナンス用品が付属しました。上と下のモデルでは、かかとの縫い方が微妙に違います。
さて、 78、82年のW杯で今回ご紹介したアディダス・ワールドカップを使用した英雄は数知れずいると思います。
いずれご紹介する予定ですが、86年W杯ではアディダスの3マテリアルソールのニューモデル(ストラトス、ワールドクラス)と新しいスタッドシステムを採用したFX1などを履く選手が多くいました。
しかし、時期的には既に廃盤になっていた86年W杯でもアディスーパーソールの旧型ワールドカップにこだわった(と思われる)名選手の一人はフランスのジレス選手です。
W杯に出場した最も小柄な選手はどなたかわかりませんが、もしかしたら候補に挙がるかもしれません(163センチ)。84年の欧州選手権では3マテリアルソールでしたが、86年は時代を逆行したように旧型モデルをお使いでした(図6)。
図6 ジレス選手のスパイク変遷。
82年W杯(左)では、緑のラインとソールの取替え式ですが、モデル名は不明です。
84年欧州選手権(中央)では3マテリアルソールのワールドカップですが、86年W杯ではアディスーパーソールのモデルです。
なんと対戦相手のガラバ選手(ハンガリー)も同タイプです(オーストリア製?)。ちなみにジレス選手は固定式のコパムンもよく履かれていたようです。
番外編として、メキシコ代表のアギーレ選手(元日本代表監督)や、W杯史上でも屈指の美しいゴールを決めたネグレテ選手も86年W杯でお使いでした(図7上)。
さらにマニアック(?)なところでは、日本を破って32年ぶりに出場した韓国代表は、スパイクはアディダスユーザーが多かったのですが、アジア予選では自国ブランド(プロスペックス?プロウェルキック?ユニフォームは「ウィークエンド」というブランドらしい)を履いている選手もいたと思います。
その一人がキャプテンの朴昌善選手ですが、本戦は旧型アディダス・ワールドカップでプレーしていたようです(図7下)。
図7 アギーレ選手(左上)、ネグレテ選手(右上)、朴昌善選手(左下の右)、プロウェルキックのスパイク(下中央)。
ソールがどこかのモデルと似ている?86年メキシコ大会の朴昌善選手のスパイク(右下)
アディダスとプーマが全盛だった80年代前半までのサッカースパイク事情ですが、当時珍しいメーカーのモデルを使っているチームの一つが、残念ながら今回は出場しないアズーリでした。
次回はそれについて書きたいと思います。 (写真は当時のサッカーマガジン、イレブン及びゲッティイメージズより引用)
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『神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。
今回は2色ソールのアディダス・ワールドカップについてです。 このソールはアディスーパーソールと言うそうですが、このソール誕生とともに発売されたモデルはワールドカップ78です(図1左上)。
このモデルには、つま先がバックスキンの物(図2左)、シュータンのマークデザインが異なる物(図2右)があったようです。
その後、つま先のステッチの数が増え、78の表示がなくなり、ワールドカップ(図1左下)になりました。
つま先ステッチの違いは巻頭の写真をご覧いただくとお分かりかと思います(一番左が78)。非常に細かい違いとしては、78ではなかったソールのかかと部分のとめ具が、その後のモデルにはあります(図1矢印)。
ただ、78でもステッチが多い物やとめ具付きもあるようで、いつ改良されたかは不明です。 同時期にはラインやヒール部分が銀色のワールドカップシルバーも発売されました(図1右上)。このモデルからソールのとめ具が黒くなったようです(それまでは銀)。
また、他のモデルには見られないスタッドとソールの間に黒いプラスチック製のワッシャーのような物があります。モデル番号は、白は1106(当時定価25000円)でシルバーは1108(26000円)でした(図1右下)。

内張りは劣化しています。
ワールドカップ(左下)、ワールドカップシルバー(右上)、白とシルバーではモデル番号が違います(右下)。
これらのモデルのシュータン裏は白く、かかとのマークはトレフォイル+adidas文字のパターンです。
アディダスの西ドイツ製表示はシュータン裏のマーク最上部に小さく記されています。(シルバーの挿入写真) 。
アディダスの古いスパイク情報はこちらのサイト(http://www.adidas-world.com/)が大変充実しており、とてもレアなモデルをお持ちの方の投稿がたくさんあります。
また、貴重な情報も得られ、ワールドカップシルバーは80年後期から81年までの短い期間しか生産されなかったモデルで、ヨーロッパの一部とアジア地域にしか供給されなかったそうです。

ワールドカップ78とそれから78が取れたモデルは、基本的構造はどちらもほぼ同じと思っていました。
しかし、図3-1(上)のワールドカップは少し変わっており、かかとの革が別体で、外側から取り付けられています(3-2は拡大図)。 図1及び3-1(下)のかかと部分はアッパーと一体式です。
以前ご紹介した3マテリアルソールモデルのかかとの革は別体タイプなので、1(上)のスパイクは新型デビューの直前に作られたのかもしれません。
また、同じ別体タイプでも中敷きのデザインが異なる物があります。図3-3(右)が古いタイプで、左は3マテリアルソールモデルにもよく見られる新しいタイプですが、しばらく並行して作られていたのかもしれません。
古いタイプはドイツ語で何か書かれていてかっこいいのですが、「抗菌加工」と記されているだけで、日本語だったら妙ですね。 図3-4はオーストリア製のワールドカップです。
かかとの革も別体ですし、シュータンマークの色や、かかとのトレフォイルマークは80年代中盤の3マテリアルソールのワールドカップで使われていたタイプですので、それぐらいの時期でも一世代前のモデルが作られ続けていたようです。

2:別体拡大図。
3:同じ別体タイプでも中敷きデザインのみが異なるモデルがあり、左が新しいタイプ。
4:オーストリア製旧タイプのワールドカップ。
5:シュータン裏は黒。
6:かかとのマークの違い。上がオーストリア製。
アディスーパーソール使用モデルはワールドカップ以外にもたくさんあり、図4にその一例を紹介します。
アディ(左上)は創始者のサイン入りモデルです。アディのシュータンパターンは複数あり、写真のタイプは日本でも売られていたミュンヘン(取替え式)やフランクフルト(固定式)と同じです。
また、ライン等がシルバーのアディシルバーや、数年後にアディIIも発売されたと思います。 左下はヨーロッパカップで、1980年の欧州選手権時に発売されたモデルです。写真のスパイクはオーストリア製で、西ドイツ製もあり 、モデル名に80が付き、表記が1行や2行の物が存在します(挿入写真参照)。
おそらく白ラインモデルもあり、リオ五輪ドイツ代表監督だったルベッシュ選手が使っていたと思います(右下)。右上は日本製のブンデスリーガシリーズの一つです。

80がつくモデルもあります。80年代前半の西ドイツ代表(右下)。
左から5番目がルベッシュ選手。おそらくヨーロッパカップを履いています(挿入図は拡大したもの)。
時代は進み、図5上は登場20年後の98年に、図5下は08年に登場30周年記念モデルとして発売された旧型ワールドカップの復刻版です。
今年は旧型発売40周年です。最近は90年、00年代の復刻スパイクが多いアディダスですが、さらに古いモデルにも再注目していただきたいものです。

下は08年に1978足製造された復刻モデル。専用のカバンやメンテナンス用品が付属しました。上と下のモデルでは、かかとの縫い方が微妙に違います。
さて、 78、82年のW杯で今回ご紹介したアディダス・ワールドカップを使用した英雄は数知れずいると思います。
いずれご紹介する予定ですが、86年W杯ではアディダスの3マテリアルソールのニューモデル(ストラトス、ワールドクラス)と新しいスタッドシステムを採用したFX1などを履く選手が多くいました。
しかし、時期的には既に廃盤になっていた86年W杯でもアディスーパーソールの旧型ワールドカップにこだわった(と思われる)名選手の一人はフランスのジレス選手です。
W杯に出場した最も小柄な選手はどなたかわかりませんが、もしかしたら候補に挙がるかもしれません(163センチ)。84年の欧州選手権では3マテリアルソールでしたが、86年は時代を逆行したように旧型モデルをお使いでした(図6)。

82年W杯(左)では、緑のラインとソールの取替え式ですが、モデル名は不明です。
84年欧州選手権(中央)では3マテリアルソールのワールドカップですが、86年W杯ではアディスーパーソールのモデルです。
なんと対戦相手のガラバ選手(ハンガリー)も同タイプです(オーストリア製?)。ちなみにジレス選手は固定式のコパムンもよく履かれていたようです。
番外編として、メキシコ代表のアギーレ選手(元日本代表監督)や、W杯史上でも屈指の美しいゴールを決めたネグレテ選手も86年W杯でお使いでした(図7上)。
さらにマニアック(?)なところでは、日本を破って32年ぶりに出場した韓国代表は、スパイクはアディダスユーザーが多かったのですが、アジア予選では自国ブランド(プロスペックス?プロウェルキック?ユニフォームは「ウィークエンド」というブランドらしい)を履いている選手もいたと思います。
その一人がキャプテンの朴昌善選手ですが、本戦は旧型アディダス・ワールドカップでプレーしていたようです(図7下)。

ソールがどこかのモデルと似ている?86年メキシコ大会の朴昌善選手のスパイク(右下)
アディダスとプーマが全盛だった80年代前半までのサッカースパイク事情ですが、当時珍しいメーカーのモデルを使っているチームの一つが、残念ながら今回は出場しないアズーリでした。
次回はそれについて書きたいと思います。 (写真は当時のサッカーマガジン、イレブン及びゲッティイメージズより引用)
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80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。