苦悩のその先へ。2度の五輪を経験した西岡詩穂の新たなる挑戦Vol.2「何かを捨ててでもやらないといけないのがオリンピック」
若い世代の台頭が著しい日本のフェンシング界において、過去2大会連続で五輪に出場し豊富な経験を持つ女子フルーレのエース、西岡詩穂。第一話ではフェンシングを始めたきっかけやその魅力を伺った。第二話では、フェンシングという競技の特性や、ご自身のフェンシングの特徴を語ってもらった。
瀬川 泰祐(せがわたいすけ)
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2018/05/14
先ほど防具をお借りして着用させてもらったのですが、相手の顔もうっすらと見えるんですね。戦略の話がありましたが、試合中はどんなところを見てゲームを組み立てるのでしょうか?
私の場合、試合中に相手の表情は見ないですね。相手の動きは見るんですけどね。よく知っている選手の場合は、あらかじめ相手を分析して、自分が持っている知識や技術を掛け合わせながら戦略を立てます。はじめて対戦する選手の場合は、試合の序盤に、相手の出方を探っていくことが多いですね。ちょっと動いてみて相手を動かしながら「この人はこうやって動くんだ」っていう情報をたくさん集めるんです。
他の格闘技と同じように、駆け引きがとても大切なスポーツなんですね。やはり相性の良し悪しもあるんでしょうか?
ありますね。抜群に相性の悪い相手もいたりします(笑)。特に海外選手は背が高いし、リーチのある選手が多いですからね。国際大会では、距離感とかタイミングが自分の好みではない選手もいます。私は日本人の女子の中では一番背が高いので、国内では自分より大きい選手と試合することはまずないんです。だから、自分より小さい相手との試合には慣れているんですけど、自分より背が大きい選手とは、なかなか試合をする機会がないので、やりにくさを感じることはありますね。
海外遠征に行く機会も多いと思いますが、今の話を聞くと、海外に出ることによって得るものは相当大きいのでは?
はい、大きいですね。この前もフランス合宿に行ってきたのですが、フランス人との試合をする上では、やっぱりメンタル的にも技術的にも準備することが全く違いますね。身長が大きな相手とも戦えますし、左利きの選手も多いですし。
左利きの選手と戦う時は、やはりやりづらいものなのでしょうか?
左利きの選手が相手だと、手と手が近くなるので、距離感が全く違ってくるんです。だから、右利きの選手と同じ感覚で攻撃しちゃうとポイントがうまく付かなかったりします。左利きの選手と対戦する機会を得るという意味でも、海外遠征は重要ですね。
今の日本代表チームは若い選手が多いですが、その中で西岡選手が意識されている役割はありますか?
年齢も一番上ですからね。リオ五輪が終わるまでは、自分のことだけに集中してやってきたんですけど、リオ五輪以降は、大きく意識を変えました。2020年の東京オリンピックでは、女子フルーレの団体戦も競技種目に入っていて、自分がキャプテンという立場に立つことになっています。どういうキャプテンにならないといけないのか、どういう行動をとるべきなのか、といったことを考えすぎてしまって、悩んだ時期もありました。今までロンドン五輪の時は、私は一番年下で、先輩たちについていくだけでしたが、その時は、ピリッとした雰囲気で緊張感のあるチームでした。そういったチームを作ったほうがいいのか、それとも今の若い子達に合わせて仲の良い雰囲気のチームを作っていったほうがいいのか、といったチーム作りは、実は今も悩んでいるんですけどね。
練習を見ている限りでは、和気藹々とした雰囲気で仲が良さそうに見えました。
そうなんです。みんな若いので、今の時期は、あんまりピリピリした空気を求めても難しいかなと感じています。ただ、オリンピックに向かっていく過程で、緊張感というのは絶対に必要です。それはオリンピックに一回行ってみないとわからないことでもあります。私がこれまで経験をしてきたことを、どうやってみんなに伝えたらいいのかなっていう課題はありますが、言葉で伝えるのも難しいので、態度で示していくしかないんだろうなって思っています。
西岡さんは、ロンドン五輪、リオ五輪に出場されていますが、今振り返ってみていかがですか?
ロンドン五輪は、勝ちに行くというよりは、初めてのオリンピックを体験して終わってしまったような感じでした。リオ五輪は本気で勝ちに行った大会でしたが、そこに至るまでの4年間がものすごく苦しかったですね。2016年4月に行われたアジア最終予選で出場を決めることができたんですけど、その直前の1月・2月の試合では、本当に穴があったら入りたいって思うくらい恥ずかしい試合をしてしまって、部屋で一人で泣いていたりもしました。リオ五輪の本大会はベスト16という結果でしたが、リオが終わってからは、もっと気持ちの面で強くならないといけないと感じました。オリンピックって何かを捨ててでもやらないといけないし、それぐらい覚悟を決めてやらないとその場に立つことができないものなんですよね。
オリンピックというのは、苦しみ抜いたその先にあるものなんですね。では、次に、西岡選手のフェンサーとしての特徴をお聞かせください。ご自身の強みはどこにあるとお考えですか?
身長の高さやリーチの長さを生かした戦いというのが一番わかりやすいですかね。迫力がある攻撃というよりは、伸びのあるアタックをみてもらいたいです。突く時のその一瞬に発するパワーやスピード、そこから生まれる距離感というのは、他の日本人フェンサーにはない特徴かなって思います。とはいっても、力任せではなくて、繊細な技術も使っているので、そういった細かいところも注目して見てもらえると嬉しいですね。
もう少し詳しく聞かせてください。伸びのあるアタックを見て欲しいということですが、それを生み出す秘訣はなんでしょうか。
うーん、もちろん身長を優位に使うということもあるんですが、自分のリーチの長さをどう使いこなせるかということだと思います。そのためには身体の柔らかさやしなやかさはもちろんですし、後ろ足の蹴る力とか、身体全体の使い方とか、攻撃を繰り出すタイミングとか、いろんな要素が重要になってくると思います。
第三話へ
取材・文・写真:瀬川泰祐
私の場合、試合中に相手の表情は見ないですね。相手の動きは見るんですけどね。よく知っている選手の場合は、あらかじめ相手を分析して、自分が持っている知識や技術を掛け合わせながら戦略を立てます。はじめて対戦する選手の場合は、試合の序盤に、相手の出方を探っていくことが多いですね。ちょっと動いてみて相手を動かしながら「この人はこうやって動くんだ」っていう情報をたくさん集めるんです。
他の格闘技と同じように、駆け引きがとても大切なスポーツなんですね。やはり相性の良し悪しもあるんでしょうか?
ありますね。抜群に相性の悪い相手もいたりします(笑)。特に海外選手は背が高いし、リーチのある選手が多いですからね。国際大会では、距離感とかタイミングが自分の好みではない選手もいます。私は日本人の女子の中では一番背が高いので、国内では自分より大きい選手と試合することはまずないんです。だから、自分より小さい相手との試合には慣れているんですけど、自分より背が大きい選手とは、なかなか試合をする機会がないので、やりにくさを感じることはありますね。
海外遠征に行く機会も多いと思いますが、今の話を聞くと、海外に出ることによって得るものは相当大きいのでは?
はい、大きいですね。この前もフランス合宿に行ってきたのですが、フランス人との試合をする上では、やっぱりメンタル的にも技術的にも準備することが全く違いますね。身長が大きな相手とも戦えますし、左利きの選手も多いですし。
左利きの選手と戦う時は、やはりやりづらいものなのでしょうか?
左利きの選手が相手だと、手と手が近くなるので、距離感が全く違ってくるんです。だから、右利きの選手と同じ感覚で攻撃しちゃうとポイントがうまく付かなかったりします。左利きの選手と対戦する機会を得るという意味でも、海外遠征は重要ですね。
今の日本代表チームは若い選手が多いですが、その中で西岡選手が意識されている役割はありますか?
年齢も一番上ですからね。リオ五輪が終わるまでは、自分のことだけに集中してやってきたんですけど、リオ五輪以降は、大きく意識を変えました。2020年の東京オリンピックでは、女子フルーレの団体戦も競技種目に入っていて、自分がキャプテンという立場に立つことになっています。どういうキャプテンにならないといけないのか、どういう行動をとるべきなのか、といったことを考えすぎてしまって、悩んだ時期もありました。今までロンドン五輪の時は、私は一番年下で、先輩たちについていくだけでしたが、その時は、ピリッとした雰囲気で緊張感のあるチームでした。そういったチームを作ったほうがいいのか、それとも今の若い子達に合わせて仲の良い雰囲気のチームを作っていったほうがいいのか、といったチーム作りは、実は今も悩んでいるんですけどね。
練習を見ている限りでは、和気藹々とした雰囲気で仲が良さそうに見えました。
そうなんです。みんな若いので、今の時期は、あんまりピリピリした空気を求めても難しいかなと感じています。ただ、オリンピックに向かっていく過程で、緊張感というのは絶対に必要です。それはオリンピックに一回行ってみないとわからないことでもあります。私がこれまで経験をしてきたことを、どうやってみんなに伝えたらいいのかなっていう課題はありますが、言葉で伝えるのも難しいので、態度で示していくしかないんだろうなって思っています。
西岡さんは、ロンドン五輪、リオ五輪に出場されていますが、今振り返ってみていかがですか?
ロンドン五輪は、勝ちに行くというよりは、初めてのオリンピックを体験して終わってしまったような感じでした。リオ五輪は本気で勝ちに行った大会でしたが、そこに至るまでの4年間がものすごく苦しかったですね。2016年4月に行われたアジア最終予選で出場を決めることができたんですけど、その直前の1月・2月の試合では、本当に穴があったら入りたいって思うくらい恥ずかしい試合をしてしまって、部屋で一人で泣いていたりもしました。リオ五輪の本大会はベスト16という結果でしたが、リオが終わってからは、もっと気持ちの面で強くならないといけないと感じました。オリンピックって何かを捨ててでもやらないといけないし、それぐらい覚悟を決めてやらないとその場に立つことができないものなんですよね。
オリンピックというのは、苦しみ抜いたその先にあるものなんですね。では、次に、西岡選手のフェンサーとしての特徴をお聞かせください。ご自身の強みはどこにあるとお考えですか?
身長の高さやリーチの長さを生かした戦いというのが一番わかりやすいですかね。迫力がある攻撃というよりは、伸びのあるアタックをみてもらいたいです。突く時のその一瞬に発するパワーやスピード、そこから生まれる距離感というのは、他の日本人フェンサーにはない特徴かなって思います。とはいっても、力任せではなくて、繊細な技術も使っているので、そういった細かいところも注目して見てもらえると嬉しいですね。
もう少し詳しく聞かせてください。伸びのあるアタックを見て欲しいということですが、それを生み出す秘訣はなんでしょうか。
うーん、もちろん身長を優位に使うということもあるんですが、自分のリーチの長さをどう使いこなせるかということだと思います。そのためには身体の柔らかさやしなやかさはもちろんですし、後ろ足の蹴る力とか、身体全体の使い方とか、攻撃を繰り出すタイミングとか、いろんな要素が重要になってくると思います。
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取材・文・写真:瀬川泰祐