「日本サッカー界に伝えたい世界挑戦のビジョン」~シント=トロイデンVVの経営を通して~ 前編
いよいよ開幕したベルギーリーグ。シント=トロイデンVVにはシュミット・ダニエルや鈴木優磨などの新戦力が加入し、今年も楽しみなチームである。そのシント=トロイデンVVは、若い世代の挑戦の場を提供するという理念を掲げており、それは選手にとどまらず、スポーツスタッフ、ビジネススタッフも同様である。日本サッカー界から生まれた人材を受け入れ育てることで、いつかその経験や人材を日本に還元したい。シント=トロイデンVVの経営を通して、日本サッカー界に伝えたい世界挑戦のビジョンを聞かせて頂いた。
菊池 康平
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2019/07/29
昨季のベルギーリーグはプレーオフの結果、伊東純也が所属するゲンクが優勝しチャンピオンズリーグ出場の権利を勝ち取った。
シント=トロイデンVVはレギュラーシーズンを7位で終え、上位6チームで争われるプレーオフ1には惜しくも進出できず、プレーオフ2の優勝を目指して戦っていたが、グループAの2位に終わった。
しかしながら最大で日本人選手が6人在籍した昨季の戦いは現地では好意的に評価されていたようだ。
日本人選手の獲得でも話題を振りまいたが、スタッフやトレーナーなども日本人を採用している。シント=トロイデンVVの立石CEOは日本人選手のみならず、スタッフやトレーナーもこの地から世界へステップアップさせていきたいと考えているのだ。
ベルギーの地で昨年の12月からシント=トロイデンVVのスタッフとなった飯塚晃央に話を聞いた。
飯塚はベルギーに来る前は楽天株式会社からの赴任という形で、Jリーグのヴィッセル神戸で『財務・経理・人事・総務』といったコーポレートまわりの業務を担当していた。
自らも学生時代から社会人に至るまでサッカーをプレーしていたという。日本での経験を持ってベルギーに来たが、当然ながら違いがあるだろう。
「サッカークラブ経営における管理部門の中で感じている課題は、実は日本とそんなに変わりません。財務面では資金管理や予算管理です。人事面では、いわゆる大企業に比べ、人事管理や評価制度などの組織の作り方といった機能面が非常に弱いなと思っていました。実際にそれはこちらでも共通の課題と感じています」
ヴィッセル神戸では、具体的にどんな仕事をしていたのだろうか。
「ヴィッセルでは、買収初年度(グループ企業化する初年度)でしたので、まずは本社の経理基準や予算管理方法の導入から着手しました。
その他にも、連結決算への組み込みや、グループの規定を導入するといった基盤の「整理」がメインでした。
導入後の実際の運用と、人事・総務面も見ることになったので、勤怠管理や給与計算、契約書管理などといった総務まわりの全般を担当していました。シント=トロイデンVVでも同じような業務を担当しています。」
飯塚が入る前はどのような体制だったのだろうか。立石敬之CEOに聞いた。
「その前は、DMMから出向でスタッフが来ていました。優秀な人材ではありましたが、実際のスポーツクラブの運営における財務や人事管理というよりは、どちらかと言うとM&Aのスペシャリストでした。
このクラブを買収するにあたってすごく活躍してくれて、買収後も引き続き1年間やってくれていたのですが、会社の人事で戻ったのをきっかけに、より具体的なクラブ経営を目指していて、サッカークラブの経営知識が豊富な人材を探したんです。そこで飯塚がヒットしたという流れです」
人事機能や財務面も日本式にしようということだろうか。
「私が目指しているのは日本式というよりも、人が変わってもきちんと会社機能として継続していけるような『仕組み』を作っていくことが大切だと思っています。
属人的なルールではなく、人が変わってもそれが会社の機能として残るようにしていきたいと思って働いています」(飯塚)
ヴィッセル神戸は、イニエスタをはじめとする大物外国人選手を積極的に補強するなどかなりダイナミックな動きをしていた。
「Jリーグの中ではそういったダイナミックな動きができる唯一のクラブだったかなと思っています。ご存知の通り、会長 兼 社長の三木谷さんがオーナーシップを発揮し、ダイナミックな動きを感じていました」(飯塚)
ヴィッセルで働いている際は、ベルギーリーグの知識は多くはなく、漠然と「ヨーロッパの1部リーグ」というイメージを抱いていた程度だった。
いざ来てみてどう感じているのだろうか。
「スポーツクラブ運営における管理部門という視点で見ると、実はそんなに大きな違いはないのではないかとこの数ヶ月で感じています」
その上で、このシント=トロイデンVVを今後、どのように変えていきたいのだろうか。
「予算配分をしっかりと作り上げたいです。サッカークラブにおける予算配分の大部分は、やはりトップチームやスポーティブ面に大きく割かれます。
残った予算の中で、次により費用が割かれるところは、スポンサー営業やプロモーションなど、利益を生む分野に大半が割かれます。
さらに残った限られた部分が、管理部門への配分になるのが、サッカークラブの一般的な予算構造だと思います。
これがサッカーやスポーツではない一般の企業であれば、予算の大半をチームに配分することは稀なはずで、よりバランスのとれた費用配分のポートフォリオが組めると思うのですが、サッカークラブにおいては、管理部門へのお金の回し方やリソース配分が、極めて小さくなっていることが構造上の問題だと思っています。
そこの構造上の問題をなんとかクリアできるような道筋を模索していきたいです」(飯塚)
後編へ続く
写真:菊池康平
取材協力:シント=トロイデンVV
https://stvv.jp/
シント=トロイデンVVはレギュラーシーズンを7位で終え、上位6チームで争われるプレーオフ1には惜しくも進出できず、プレーオフ2の優勝を目指して戦っていたが、グループAの2位に終わった。
しかしながら最大で日本人選手が6人在籍した昨季の戦いは現地では好意的に評価されていたようだ。
日本人選手の獲得でも話題を振りまいたが、スタッフやトレーナーなども日本人を採用している。シント=トロイデンVVの立石CEOは日本人選手のみならず、スタッフやトレーナーもこの地から世界へステップアップさせていきたいと考えているのだ。
ベルギーの地で昨年の12月からシント=トロイデンVVのスタッフとなった飯塚晃央に話を聞いた。
飯塚はベルギーに来る前は楽天株式会社からの赴任という形で、Jリーグのヴィッセル神戸で『財務・経理・人事・総務』といったコーポレートまわりの業務を担当していた。
自らも学生時代から社会人に至るまでサッカーをプレーしていたという。日本での経験を持ってベルギーに来たが、当然ながら違いがあるだろう。
「サッカークラブ経営における管理部門の中で感じている課題は、実は日本とそんなに変わりません。財務面では資金管理や予算管理です。人事面では、いわゆる大企業に比べ、人事管理や評価制度などの組織の作り方といった機能面が非常に弱いなと思っていました。実際にそれはこちらでも共通の課題と感じています」
ヴィッセル神戸では、具体的にどんな仕事をしていたのだろうか。
「ヴィッセルでは、買収初年度(グループ企業化する初年度)でしたので、まずは本社の経理基準や予算管理方法の導入から着手しました。
その他にも、連結決算への組み込みや、グループの規定を導入するといった基盤の「整理」がメインでした。
導入後の実際の運用と、人事・総務面も見ることになったので、勤怠管理や給与計算、契約書管理などといった総務まわりの全般を担当していました。シント=トロイデンVVでも同じような業務を担当しています。」
飯塚が入る前はどのような体制だったのだろうか。立石敬之CEOに聞いた。
「その前は、DMMから出向でスタッフが来ていました。優秀な人材ではありましたが、実際のスポーツクラブの運営における財務や人事管理というよりは、どちらかと言うとM&Aのスペシャリストでした。
このクラブを買収するにあたってすごく活躍してくれて、買収後も引き続き1年間やってくれていたのですが、会社の人事で戻ったのをきっかけに、より具体的なクラブ経営を目指していて、サッカークラブの経営知識が豊富な人材を探したんです。そこで飯塚がヒットしたという流れです」
人事機能や財務面も日本式にしようということだろうか。
「私が目指しているのは日本式というよりも、人が変わってもきちんと会社機能として継続していけるような『仕組み』を作っていくことが大切だと思っています。
属人的なルールではなく、人が変わってもそれが会社の機能として残るようにしていきたいと思って働いています」(飯塚)
ヴィッセル神戸は、イニエスタをはじめとする大物外国人選手を積極的に補強するなどかなりダイナミックな動きをしていた。
「Jリーグの中ではそういったダイナミックな動きができる唯一のクラブだったかなと思っています。ご存知の通り、会長 兼 社長の三木谷さんがオーナーシップを発揮し、ダイナミックな動きを感じていました」(飯塚)
ヴィッセルで働いている際は、ベルギーリーグの知識は多くはなく、漠然と「ヨーロッパの1部リーグ」というイメージを抱いていた程度だった。
いざ来てみてどう感じているのだろうか。
「スポーツクラブ運営における管理部門という視点で見ると、実はそんなに大きな違いはないのではないかとこの数ヶ月で感じています」
その上で、このシント=トロイデンVVを今後、どのように変えていきたいのだろうか。
「予算配分をしっかりと作り上げたいです。サッカークラブにおける予算配分の大部分は、やはりトップチームやスポーティブ面に大きく割かれます。
残った予算の中で、次により費用が割かれるところは、スポンサー営業やプロモーションなど、利益を生む分野に大半が割かれます。
さらに残った限られた部分が、管理部門への配分になるのが、サッカークラブの一般的な予算構造だと思います。
これがサッカーやスポーツではない一般の企業であれば、予算の大半をチームに配分することは稀なはずで、よりバランスのとれた費用配分のポートフォリオが組めると思うのですが、サッカークラブにおいては、管理部門へのお金の回し方やリソース配分が、極めて小さくなっていることが構造上の問題だと思っています。
そこの構造上の問題をなんとかクリアできるような道筋を模索していきたいです」(飯塚)
後編へ続く
写真:菊池康平
取材協力:シント=トロイデンVV
https://stvv.jp/