「日本サッカー界に伝えたい世界挑戦のビジョン」~シント=トロイデンVVの経営を通して~ 後編
いよいよ開幕したベルギーリーグ。シント=トロイデンVVにはシュミット・ダニエルや鈴木優磨などの新戦力が加入し、今年も楽しみなチームである。そのシント=トロイデンVVは、若い世代の挑戦の場を提供するという理念を掲げており、それは選手にとどまらず、スポーツスタッフ、ビジネススタッフも同様である。日本サッカー界から生まれた人材を受け入れ育てることで、いつかその経験や人材を日本に還元したい。シント=トロイデンVVの経営を通して、日本サッカー界に伝えたい世界挑戦のビジョンを聞かせて頂いた。
菊池 康平
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2019/07/30
前編はこちらから
続けて立石CEOに約1年ぶりに話を聞いた。クラブ経営において、この1年でどのような経験値を積んだのだろうか。
「日本のクラブ経営とベルギーのクラブ経営の中身は正直驚くような違いはないということです。そうは言うものの、取り巻く環境や言語や文化、歴史、宗教観というのはそれぞれ違う。ただ、そこを学べさえすれば、日本人の経営者やビジネススタッフが来ても十分通用するだろうと感じています。
またスポーツサイドに関しても、同じサッカーチームなので、こちらの方がさらに驚くことが少ないですね。契約も、書式はかなり違いますが、基本的なこと(監督、コーチ、選手、トレーナーの組織体など)は全て一緒です。
しっかりと準備をして、コミュニケーションをとってチームを作っていけば、日本と変わらないと思いますよ。
日本人のビジネススタッフや指導者も、もっと世界に出る必要があると感じています。やはり日本にいると、ヨーロッパって『憧れの地』なんですよ。
Jリーグに外国人選手が来ると必要以上に尊敬する傾向がありますよね。リスペクトはもちろん大事ですが、必要以上のものはいらないと思うんです。
逆にJリーグで働いている日本人、プレーしている選手、指導しているコーチなどもしっかりとしたベースさえあれば、ヨーロッパでも通用するということをこのプロジェクトで見せたかったんです。
こちらに来て成長することもたくさんあると思いますし、自信を持って日本に帰らせることも大事です。ゆくゆくは間違いなく日本サッカー界に還元してくれると信じています」
日本人選手はヨーロッパに沢山いるが、飯塚のような日本人の海外クラブスタッフはまだ非常に少ない状況だ。
今後、シント=トロイデンVVを経由して、選手と同様にクラブスタッフが海外クラブで活躍する場を作り、それが結果として日本サッカーの強化に繋がればと考えているのだろう。
「日本に帰って力を発揮することもすごく重要なことだと思いますし、横の移籍(ヨーロッパ間での移籍)があれば、それは選手の移籍以上に面白いと思います」(立石)
「今の日本人選手は海外移籍が珍しいことではなくなってきている。そういった中で、Jリーグが欧州のトップリーグに追いつくにはどうしたら良いかということが、議論になりますよね。ただ、そういった議論の場にいる人たちの中に、実際にヨーロッパで戦ってきた方が少ないのが現状です。
選手だけでなく、スタッフも海外で戦えるような人材になることが大切だと思っていますし、そういった人たちがどんどん増えていくことが、日本サッカー界にとって非常に重要なことかなと思っています」(飯塚)
確かに自身の周りにも海外でプレー経験のある選手は沢山いるが、スタッフとなるとほとんどいない。
「『海外の○○というチームで働いたことがあります』という人はいる。もちろん海外のクラブで働いた経験は大事です。ただ、僕が感じている大事なポイントは、『Jリーグでしっかりと勉強して経験を積んだ人材がヨーロッパでリーダーとして働けるかどうか』
海外のチームで働いている方も、多くは『一担当』の方が多い。それも貴重な経験ですが、リーダーとして部下を何人も束ねられるかが重要だと思っています。
そもそもの話ですが、スポーツ界だけでなく、日本人が海外の企業のリーダーになるケース自体が決して多くはない。
海外で社長やマネジメント職として一つの部署の責任を担う日本人の人材が増えると面白いと考えています。
巨人の原監督が日本国内で連覇を続けて、それが評価されて、メジャーリーグのチームの監督に招聘されるようなことがあると面白いと思いますけれど、なかなかそういうわけにはいかないですよね。やはり文化や国のプライドなどがありますからね。でも、サッカーではそういうことが起こってもいいんじゃないかと思っています。
あくまでたとえ話ですが、森保監督がいつかシント=トロイデンVVの監督になって良い成績を収めて、そこからビッククラブに引き抜かれるようなステップアップのストーリーがあってもいいんじゃないか。そういったことも夢ではなくなってきているんじゃないかなと感じています」(立石)
ベルギーで数多くのレストランに行ったが、オランダ語のメニューしかない店も多々あった。オランダ語しか通じないという場面ではどうしているのだろうか。そんな疑問を投げかけたところ2人が反応してくれた。
「オランダ語しか喋れない方々もいます。そういった時はボディランゲージというか、気持ちで伝えるだけです(笑)」(飯塚)
「そこが日本人にないんですよ。選手でも同じことが言えると思っていて、通じないからへこんで内に引きこもってしまうとそこでコミュニケーションが終了してしまう。何とかして伝えよう、聞き出してやろうという姿勢が大事なんです。
僕たちが掲げる『ここから世界へ』というビジョンを達成するために一番肝心なことはそこだと思います。日本人がどう自信を持つか。
もちろん、日本人全員がすごいわけではありませんが、しっかりと経験を積んできた日本人ならヨーロッパで通用するんだよ、ローカルの人と戦っても十分勝ち抜けるんだよ、ということを証明したいと思っていますし、日本の皆さんにもそれを伝えたいですね」(立石)
別れ際に立石CEOに「2018年5月に訪れた時は日本人選手は冨安選手1人でしたが、6人に増えたので、来シーズンは更に増えるんですか?」と聞いてみた。 苦笑いをしながらこう答えてくれた。
「みんな次のチャンスをうかがっているし、むしろそういうチャンスがあればチャレンジさせてあげたいと思っています。既に何人かの選手からそういう希望は出てます。
もちろんチームに残ってくれれば助かりますが、ここからさらに上の舞台を目指してステップアップさせていくクラブであることは選手にも伝えてきているので、チャンスがあれば行かせてあげたい。
どちらかというと日本人選手は減るかもしれませんね。もちろん、こればっかりはわからないけれど」
その言葉通り冨安健洋がセリエAのボローニャに移籍を果たした。一方で、新戦力として日本代表GKのシュミット・ダニエルや鈴木優磨が加入。
また、新たな動きとしてベトナム代表のグエン・コン・フォンを獲得した。
シント=トロイデンVVは、日本人選手やスタッフのみならず、アジアの若い優秀な人材の挑戦の場を目指しているのだろう。
(了)
写真:菊池康平
取材協力:シント=トロイデンVV
https://stvv.jp/
続けて立石CEOに約1年ぶりに話を聞いた。クラブ経営において、この1年でどのような経験値を積んだのだろうか。
「日本のクラブ経営とベルギーのクラブ経営の中身は正直驚くような違いはないということです。そうは言うものの、取り巻く環境や言語や文化、歴史、宗教観というのはそれぞれ違う。ただ、そこを学べさえすれば、日本人の経営者やビジネススタッフが来ても十分通用するだろうと感じています。
またスポーツサイドに関しても、同じサッカーチームなので、こちらの方がさらに驚くことが少ないですね。契約も、書式はかなり違いますが、基本的なこと(監督、コーチ、選手、トレーナーの組織体など)は全て一緒です。
しっかりと準備をして、コミュニケーションをとってチームを作っていけば、日本と変わらないと思いますよ。
日本人のビジネススタッフや指導者も、もっと世界に出る必要があると感じています。やはり日本にいると、ヨーロッパって『憧れの地』なんですよ。
Jリーグに外国人選手が来ると必要以上に尊敬する傾向がありますよね。リスペクトはもちろん大事ですが、必要以上のものはいらないと思うんです。
逆にJリーグで働いている日本人、プレーしている選手、指導しているコーチなどもしっかりとしたベースさえあれば、ヨーロッパでも通用するということをこのプロジェクトで見せたかったんです。
こちらに来て成長することもたくさんあると思いますし、自信を持って日本に帰らせることも大事です。ゆくゆくは間違いなく日本サッカー界に還元してくれると信じています」
日本人選手はヨーロッパに沢山いるが、飯塚のような日本人の海外クラブスタッフはまだ非常に少ない状況だ。
今後、シント=トロイデンVVを経由して、選手と同様にクラブスタッフが海外クラブで活躍する場を作り、それが結果として日本サッカーの強化に繋がればと考えているのだろう。
「日本に帰って力を発揮することもすごく重要なことだと思いますし、横の移籍(ヨーロッパ間での移籍)があれば、それは選手の移籍以上に面白いと思います」(立石)
「今の日本人選手は海外移籍が珍しいことではなくなってきている。そういった中で、Jリーグが欧州のトップリーグに追いつくにはどうしたら良いかということが、議論になりますよね。ただ、そういった議論の場にいる人たちの中に、実際にヨーロッパで戦ってきた方が少ないのが現状です。
選手だけでなく、スタッフも海外で戦えるような人材になることが大切だと思っていますし、そういった人たちがどんどん増えていくことが、日本サッカー界にとって非常に重要なことかなと思っています」(飯塚)
確かに自身の周りにも海外でプレー経験のある選手は沢山いるが、スタッフとなるとほとんどいない。
「『海外の○○というチームで働いたことがあります』という人はいる。もちろん海外のクラブで働いた経験は大事です。ただ、僕が感じている大事なポイントは、『Jリーグでしっかりと勉強して経験を積んだ人材がヨーロッパでリーダーとして働けるかどうか』
海外のチームで働いている方も、多くは『一担当』の方が多い。それも貴重な経験ですが、リーダーとして部下を何人も束ねられるかが重要だと思っています。
そもそもの話ですが、スポーツ界だけでなく、日本人が海外の企業のリーダーになるケース自体が決して多くはない。
海外で社長やマネジメント職として一つの部署の責任を担う日本人の人材が増えると面白いと考えています。
巨人の原監督が日本国内で連覇を続けて、それが評価されて、メジャーリーグのチームの監督に招聘されるようなことがあると面白いと思いますけれど、なかなかそういうわけにはいかないですよね。やはり文化や国のプライドなどがありますからね。でも、サッカーではそういうことが起こってもいいんじゃないかと思っています。
あくまでたとえ話ですが、森保監督がいつかシント=トロイデンVVの監督になって良い成績を収めて、そこからビッククラブに引き抜かれるようなステップアップのストーリーがあってもいいんじゃないか。そういったことも夢ではなくなってきているんじゃないかなと感じています」(立石)
ベルギーで数多くのレストランに行ったが、オランダ語のメニューしかない店も多々あった。オランダ語しか通じないという場面ではどうしているのだろうか。そんな疑問を投げかけたところ2人が反応してくれた。
「オランダ語しか喋れない方々もいます。そういった時はボディランゲージというか、気持ちで伝えるだけです(笑)」(飯塚)
「そこが日本人にないんですよ。選手でも同じことが言えると思っていて、通じないからへこんで内に引きこもってしまうとそこでコミュニケーションが終了してしまう。何とかして伝えよう、聞き出してやろうという姿勢が大事なんです。
僕たちが掲げる『ここから世界へ』というビジョンを達成するために一番肝心なことはそこだと思います。日本人がどう自信を持つか。
もちろん、日本人全員がすごいわけではありませんが、しっかりと経験を積んできた日本人ならヨーロッパで通用するんだよ、ローカルの人と戦っても十分勝ち抜けるんだよ、ということを証明したいと思っていますし、日本の皆さんにもそれを伝えたいですね」(立石)
別れ際に立石CEOに「2018年5月に訪れた時は日本人選手は冨安選手1人でしたが、6人に増えたので、来シーズンは更に増えるんですか?」と聞いてみた。 苦笑いをしながらこう答えてくれた。
「みんな次のチャンスをうかがっているし、むしろそういうチャンスがあればチャレンジさせてあげたいと思っています。既に何人かの選手からそういう希望は出てます。
もちろんチームに残ってくれれば助かりますが、ここからさらに上の舞台を目指してステップアップさせていくクラブであることは選手にも伝えてきているので、チャンスがあれば行かせてあげたい。
どちらかというと日本人選手は減るかもしれませんね。もちろん、こればっかりはわからないけれど」
その言葉通り冨安健洋がセリエAのボローニャに移籍を果たした。一方で、新戦力として日本代表GKのシュミット・ダニエルや鈴木優磨が加入。
また、新たな動きとしてベトナム代表のグエン・コン・フォンを獲得した。
シント=トロイデンVVは、日本人選手やスタッフのみならず、アジアの若い優秀な人材の挑戦の場を目指しているのだろう。
(了)
写真:菊池康平
取材協力:シント=トロイデンVV
https://stvv.jp/