DDTプロレスの“最後の砦”竹下幸之介。他団体に流失したベルト奪還に向け、ZERO1・田中将斗と一騎打ちへ(後編)【3・20 後楽園ホール】
「文化系プロレス」として、プロレスの概念を吹き飛ばす発想でファンを魅了し続ける団体「DDTプロレスリング」。昨年末、DDTではシングルマッチのリーグ戦「D王 GRAND PRIX」が行われ、ZERO1の田中将斗が優勝。続く1月26日の後楽園ホールではHARASHIMAを破り、DDT最高峰のベルトKO-D無差別級王座を獲得した。2月23日にはMAOが田中に挑んだが、善戦むなしく敗退。DDTの“最後の砦”として、3月20日の後楽園ホール、竹下幸之介がベルト奪還に臨む。その戦いを直前に控えた今、DDTの竹下幸之介に話を伺った。
大楽聡詞
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2020/03/18
竹下:僕は試合の時にマウスピースとテーピングを必ず付けているのですが、特にテーピングの使い方にはこだわっています。それには2つ目的があります。一つ目は、手首って受け身を取る時に全体重が掛かるので、すぐに折れてしまう。だから腕から手首まで一直線になるようにガチガチに固めて、折れないように固定するために使用しているんです。
もう一つは、僕は投げ技を多用する分、クラッチと言って自分の腕を掴むことが多く、試合が進むと相手も自分も汗をかいて滑ってしまう。なので滑らないようにキチンと掴めるようにテーピングをしているんです。
――さまざまな用途で使用されているんですね。ここからは昨年末のリーグ戦「D王 GRAND PRIX」を振り返って頂きたいのですが、あのリーグ戦で印象的な試合は何でしょう?
竹下:やはり、橋本千紘選手との試合ですかね。というのも僕は、女性をリスペクトしいていて、「プロレスのリングは男女平等」だと考えているので、女性でも思いっきり技をかけるし、思いっきり受けます。
それに男って、女には勝てないんですよ。女王アリ、女王蜂のシステムと同じで、男性は働きアリであり、働きバチです。だから男性は働くための体力はありますが、気持ちというか、精神面という部分においては女性には「勝てない」と、戦っていて思います。彼女たちの心を折るのには、本当に時間が掛かるので苦労しますね。
――それは昨年末、橋本選手と戦っている時にも感じましたか?
竹下:感じましたね。お互いジャーマンスープレックスが得意というテーマがある中で、いざ試合が始まると、そんなことも考えられないくらい必死になっている自分がいて。男vs女ではなく、完全にアスリートvsアスリートでしたね。とにかく「体力で負けないようにしよう」と思ったくらい、厳しい試合でした。
打撃vs打撃になった時は体重差は関係するので、僕くらい大きな選手と戦ったことのない橋本選手にはダメージが残ると思います。しかし、投げ技を掛け合うの展開になった時は、男性・女性は関係ありません。実際にジャーマンで何度投げても、橋本選手はずっと起き上がってきました。だから本当の意味で「男女の差はないんだ」と感じましたね。女性レスラーの方が、気持ち的なガッツは強いと思いますよ。
――気が強そうな女子レスラーは多いですよね。
竹下:多いです。技を決めても倍返しされますし、平気で頭を蹴ってきたりしますから(笑)。あの気の強さは、男は持っていないんですよ。だから女性と戦って学ぶことは多いので、女子プロレスは良く観ます。その中で女子選手のメンタリティーの部分は参考にしていますね。
――男女の垣根を超えて、吸収できるものは全て吸収しているんですね。そして、いよいよ3月20日は田中将斗選手と一騎討ちですが、現在の心境はいかがでしょう?
竹下:これまで僕は会社や高木社長に、数々の憧れている選手との試合を実現させて頂いてきましたが、僕が憧れていたレスラーで「まだこの選手と戦えてないな」と思う唯一の選手が、田中将斗選手なんです。
「こういう選手に憧れていました」「こういう選手と戦いたいと思っていました」というもの、これが最後かなと思います。田中選手と戦ったら、過去の自分を払拭できるというか、「プロレス少年・竹下」じゃなくなるのかな、と考えます。
――それは子供の頃に、レンタルビデオ屋から借りてきて観ていた「FMW」ですよね。
竹下:そうです。僕はたくさんの団体の試合を観てきましたが、田中選手は歴史が凄いんですよ。FMWからECWに行って、それからZERO-ONE、新日本プロレスのリングにも上がっています。そして各団体でタイトルも獲得しています。
僕がサムライTVを観て、田中選手を追っているのはZERO-ONEから。特に、2006~2008年の「火祭り3連覇」していた頃。FMW時代より体つきも変わっていて、「え、あの田中将斗か」と驚きました。
また、2013年2月3日の後楽園ホール、石井智弘選手との戦いは、これまで何万試合と観てきたプロレスの試合の中で、ベスト3に入りますね。
――そう考えると、後楽園ホールでのタイトル戦は感慨深いものがありますね。
竹下:今回の試合は、シチュエーションが似てますよね。NEVER無差別級とKO-D無差別級、ベルトは違えどタイトルマッチで、場所は同じ後楽園ホールのメインのリング。プロレスファンだと、やっぱり重ねちゃうんですよ。
今まで「好きなレスラー誰ですか?」と聞かれた時に「田中将斗」と名前を出したことはありません。でもFMWから追っているので、僕がアメプロ好きの頃にはECWに上がり、ZERO-ONEの時はトップ選手として君臨していたので、田中将斗選手の姿は頭の中に刷り込まれているんですよね。
改めて戦うとなると、思い出すシーンや試合がいっぱいあります。だからこそ勝機はあるかな、と。僕の方が田中将斗のプロレスは観ているので。プロレスは研究したもん勝ちというところが、僕の考えです(笑)。
――その田中将斗選手が、2月23日の後楽園ホールのリング上で「DDTで戦いたいレスラーは3人いる。遠藤、HARASHIMA、そして竹下や」とマイクアピールしていましたよね。
竹下:認知されていることは嬉しかったです(笑)。オタク心ですよね。それも少し強い選手として認知されているぞ、と(笑)。あの時は急に名前を呼ぼれたので、純粋に喜びしかなかったですね。
竹下:ただ、新型コロウイルスの影響で、田中選手と一試合前哨戦をする予定だったんですけど、それが無くなったので、本当の初対決が3月20日、後楽園ホールでゴングが鳴った瞬間なんです。通算でも、タッグマッチで組んだことはあるんですけど、直接戦ったことはありません。なので実際にぶつかり合っていない分、田中選手は油断していると思うんです。だから「ワンチャンスあるな」と思っています。
――DDTを代表して、流出しているベルトを取り返さなければいけない、という大きな命題もありますよね。
竹下:僕が“最後の砦”ですね。DDTを背負うというと、ちょっと違うと思いますけど、最後の壁かな、とは思っています。そういう気持ちはあるんですけど…ただそういう気持ちを背負ったから勝てる相手でもないので。
それでも試合後に「自分のスタミナが足らずに自分を出しきれなかった」「もっとやりたかった」とは思いたくないので、今は本番をベストコンディションで迎えられるように調整しています。
純粋に「勝ちたい!」という気持ちはありますが、田中将斗とシングルマッチで戦うのは、今回が最初で最後になるかもしれない。だから悔いを残さないよう、若手の頃に戻ったような気持ちで、全てを出し切る。今はそれしか考えていません。
――頭の中で、当日の試合をイメージしていると思うのですが、警戒している技はありますか? それとも「全て受けてやろう」という気持ちで臨んでいくのでしょうか?
竹下:いえ、逆に自分が「この技を仕掛けてやろう!」ということばかり考えています。周りは、田中さんのフィニッシュホールド「スライディングD」を警戒する事しか頭にないんですけど、その時点で受け手に回ってしまう。だから、つねに攻めていく気持ちで、田中将斗相手に「何を仕掛けてやろうか」と考えています(笑)。
現時点でも、プロレスラーの勘で、田中将斗戦はすごい試合になることは分かっています。
例えば、デビュー直後の新人と戦うとしたら、その若手が10、20の力しかないところを70、80にどうやって引き上げていこう、と考えますが、田中選手の試合は100になることは確定しているんですよ。それをさらに110や120に引き上げていく。これがベストバウトになるか、ならないかの差だと思っているんですけど、本当に全ての力を出し切らないと勝てないでしょうね。
2020年、まだ3月ですけど、この1年の全てをぶつけるつもりで臨みます。6月のさいたまスーパーアリーナもありますが、それを考えたら何もできない。とにかく田中選手は体も頑丈なので、後楽園はやるか、やられるかの戦いになると思います。
――最後に3月20日後楽園、楽しみにしているファンの方に一言お願いします。
竹下:新型コロナウイルスの影響で日本全国、あまり元気がありませんが、3月20日は時間を忘れるような、これぞ「The プロレス!」という試合を見せたいと思います。まだまだ、田中将斗の底力はDDTのリングでは発揮できていないと思うので、それを田中選手にも出させて、僕も出して、最強のプロレスをお見せます。みなさん、楽しみにしていて下さい。
取材・文/大楽聡詞
編集・写真/佐藤主祥
<インフォメーション>
王者田中将斗選手に、竹下幸之介選手が挑むKO-D無差別級選手権。この試合がメインイベントで行われるDDTプロレスリング「Judgement2020~DDT旗揚げ23周年記念大会~」は3月20日 、東京・水道橋にある「後楽園ホール」で行われます。
詳しくは、下記のDDTプロレスリング公式サイトをご覧ください。