長距離ランナーの御託・藤原新Vol.3ショップ編 「いままで履いたプーマの中で一番…というかダントツで良い!」
ポジションによる違いはあれ、サッカーは、概ね1試合につき10㎞ほどを走る競技だとされている。ならば、10㎞走っても疲れの少ないスパイクは何か。走りのプロにジャッジしてもらうことはできないものか。というわけで、ロンドン・オリンピックのマラソン日本代表、藤原新選手にご登場をいただくことになった。さて、プロ・ランナーのお眼鏡にかなうサッカー・スパイクは…?
金子 達仁
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2016/09/12
<インタビュー第1回はこちら>
<インタビュー第2回はこちら>
――それでは、目についたもの片っ端から試着していただけますか。
藤原「う~ん、じゃ最初はカネコさんの好きなプーマから行きますか。その、左右色違いのやつ」
――エヴォスピードですね。スパイク軽量化時代を象徴するような一足といってもいいかもしれません。「大事なものまで削ってしまった」という声もあるようですが。
藤原「う~ん…」
――いかがでしょう。
藤原「…ノーコメントで(笑)。となりにある色違いの奴、履いてみます」
――エヴォパワーでございますね。エヴォスピードほどではありませんが、こちらも軽いスパイクです。
藤原「う~ん…やっぱり足首の形状がひっかかるなあ」
――といいますと?
藤原「これは良し悪しというよりは完全に好みの問題なんですけど、マラソンランナーの感覚からすると、足首の部分がちょっと深すぎるというか、くるぶしに引っかかる感じがするんですよね。これって、長く走っていると確実にストレスになってくる。あと、カカトのホールド感が邪魔」
――ほお、サッカー選手の中にはカカトのホールド部分こそがスパイクの命だとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。
藤原「あ、ランナーにもいますよ、それが大事だってヒト。なので、そこは完全に好みの問題です。安定感を重視するか、スムースさを重視するか。プーマは安定感重視なのかもしれないですね。じゃ、次はその隣にあるクラシックな感じなやつを」
――名機中の名機、いまだ熱狂的な信者を持つパラメヒコですね。直訳すれば「メキシコのため」。「細すぎて日本人の足に合わない」という風評もあったプーマが、いまから30年近く前、満を持して発売した日本専用モデルです。たぶん、メキシコ・ワールドカップのために、という意味あいだったのだと思いますが。
藤原「あ、これいい!」
――あらま。
藤原「いい、全然走れる! いままで履いたプーマの中で一番…というかダントツでいい。ソールの感じもいいし、何よりアッパーの感覚がすごくいい」
――カンガルー皮革です。それにしても、同じメーカーが作った最新のモデルより、四半世紀以上前に発売されたモデルを気にいられるとは、実に興味深い。
藤原「これ、ランシュー(注:ランニングシューズ)についても感じるんですけど、そもそもこういうシューズって、進歩してるんですかね」
――あ、いきなり核心ついちゃいましたね。ところで藤原さん、池井戸潤さんの最新作『陸王』って読まれました? 老舗の地下足袋屋さんがランニングシューズ作りに参入するってお話なんですけど。
藤原「話題になっているのは知ってましたけど、まだ」
――ぜひご一読を。偉そうな物言いになりますが、スポーツライターから見ても素晴らしくよくできた作品です。で、その中に強烈な一文があるんですよ。
藤原「どんな?」
――大手メーカーを飛び出したランニング・シューズ界のカリスマが、古巣に対して向けた言葉です。『彼らの関心事は業績であり、目先の利益だ。物事を測る尺度もカネで、新しいシューズを開発する理由は、業績向上のためだ。そのために、ほとんど機能的に進化していないシューズに、新たな名前をつけていかにも革新的であるかのように売るということまでする』
藤原「うわ、強烈。でも、ぶっちゃけその通りかも」
――確かにサッカーの世界でも、本当は履きたい自分に合ったスパイクがあるにも関わらず、メーカーからの“強い要望”で最新モデルを履かなくてはならない、という話をよく聞きます。その一方で、アディダスの『コパ・ムンディアル』というカンガルー皮革の古典的なスパイクは、いまなお“メイド・イン・ジャーマニー”で作られ続けています。ひょっとすると、メーカーの中でも最新モデルを推進する勢力と、昔ながらの物づくりにこだわる勢力がせめぎ合っているのかも、なんてことも思ってしまいました。
藤原「なるほどね。じゃ、お次はニューバランス行ってみようかな」
Vol.4へ続く
取材協力 『GALLERY2』渋谷店
<インタビュー第2回はこちら>
――それでは、目についたもの片っ端から試着していただけますか。
藤原「う~ん、じゃ最初はカネコさんの好きなプーマから行きますか。その、左右色違いのやつ」
――エヴォスピードですね。スパイク軽量化時代を象徴するような一足といってもいいかもしれません。「大事なものまで削ってしまった」という声もあるようですが。
藤原「う~ん…」
――いかがでしょう。
藤原「…ノーコメントで(笑)。となりにある色違いの奴、履いてみます」
――エヴォパワーでございますね。エヴォスピードほどではありませんが、こちらも軽いスパイクです。
藤原「う~ん…やっぱり足首の形状がひっかかるなあ」
――といいますと?
藤原「これは良し悪しというよりは完全に好みの問題なんですけど、マラソンランナーの感覚からすると、足首の部分がちょっと深すぎるというか、くるぶしに引っかかる感じがするんですよね。これって、長く走っていると確実にストレスになってくる。あと、カカトのホールド感が邪魔」
――ほお、サッカー選手の中にはカカトのホールド部分こそがスパイクの命だとおっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。
藤原「あ、ランナーにもいますよ、それが大事だってヒト。なので、そこは完全に好みの問題です。安定感を重視するか、スムースさを重視するか。プーマは安定感重視なのかもしれないですね。じゃ、次はその隣にあるクラシックな感じなやつを」
――名機中の名機、いまだ熱狂的な信者を持つパラメヒコですね。直訳すれば「メキシコのため」。「細すぎて日本人の足に合わない」という風評もあったプーマが、いまから30年近く前、満を持して発売した日本専用モデルです。たぶん、メキシコ・ワールドカップのために、という意味あいだったのだと思いますが。
藤原「あ、これいい!」
――あらま。
藤原「いい、全然走れる! いままで履いたプーマの中で一番…というかダントツでいい。ソールの感じもいいし、何よりアッパーの感覚がすごくいい」
――カンガルー皮革です。それにしても、同じメーカーが作った最新のモデルより、四半世紀以上前に発売されたモデルを気にいられるとは、実に興味深い。
藤原「これ、ランシュー(注:ランニングシューズ)についても感じるんですけど、そもそもこういうシューズって、進歩してるんですかね」
――あ、いきなり核心ついちゃいましたね。ところで藤原さん、池井戸潤さんの最新作『陸王』って読まれました? 老舗の地下足袋屋さんがランニングシューズ作りに参入するってお話なんですけど。
藤原「話題になっているのは知ってましたけど、まだ」
――ぜひご一読を。偉そうな物言いになりますが、スポーツライターから見ても素晴らしくよくできた作品です。で、その中に強烈な一文があるんですよ。
藤原「どんな?」
――大手メーカーを飛び出したランニング・シューズ界のカリスマが、古巣に対して向けた言葉です。『彼らの関心事は業績であり、目先の利益だ。物事を測る尺度もカネで、新しいシューズを開発する理由は、業績向上のためだ。そのために、ほとんど機能的に進化していないシューズに、新たな名前をつけていかにも革新的であるかのように売るということまでする』
藤原「うわ、強烈。でも、ぶっちゃけその通りかも」
――確かにサッカーの世界でも、本当は履きたい自分に合ったスパイクがあるにも関わらず、メーカーからの“強い要望”で最新モデルを履かなくてはならない、という話をよく聞きます。その一方で、アディダスの『コパ・ムンディアル』というカンガルー皮革の古典的なスパイクは、いまなお“メイド・イン・ジャーマニー”で作られ続けています。ひょっとすると、メーカーの中でも最新モデルを推進する勢力と、昔ながらの物づくりにこだわる勢力がせめぎ合っているのかも、なんてことも思ってしまいました。
藤原「なるほどね。じゃ、お次はニューバランス行ってみようかな」
Vol.4へ続く
取材協力 『GALLERY2』渋谷店