
もし澤穂希のゴールがなかったら?——なでしこジャパン、2011年W杯優勝の奇跡を再考する
2011年7月17日(日本時間18日)、女子サッカーの歴史に刻まれる伝説の試合が行われた。FIFA女子ワールドカップ決勝、日本 vs アメリカ。震災からわずか4カ月、東日本大震災で傷ついた日本に、勇気と感動を与えたなでしこジャパン。その快挙は、まさに奇跡と呼ぶにふさわしいものだった。 しかし、もし澤穂希のあの伝説的な同点ゴールがなかったら? もしPK戦でアメリカが冷静にキックを決めていたら?たった1秒、たった1プレーが異なっていたら、日本は歴史を変えることができなかったかもしれない。本稿では、当時の試合を振り返りながら、「もしも」の視点で再考してみたい。※イラスト/これ松えむ

「魂のゴール」——澤穂希の伝説的な同点弾
延長後半12分、スコアは1-2。アメリカが勝利目前の状況だった。誰もが「もう終わりか」と思ったその瞬間、なでしこジャパンのキャプテン澤穂希が奇跡を起こす。
宮間あやの左CKがゴール前に蹴り込まれる。密集する選手たちの間をすり抜けたボールに、澤は瞬時に反応し、右足アウトサイドで絶妙なタッチ。ボールは美しい軌道を描き、アメリカゴールに吸い込まれた。
試合終了間際の劇的な同点ゴール。この「澤のゴール」が、日本をPK戦に導き、優勝へとつながる運命のプレーとなった。
しかし、もしこのゴールが生まれなかったら?

「もし澤のゴールがなかったら?」——日本が敗れていた可能性
このゴールがなければ、日本は2-1で敗れ、アメリカが優勝していた。以下のような影響が考えられる。
① なでしこジャパンの「優勝」はなかった
当たり前だが、このゴールがなければ日本はPK戦に進めず、敗退が決定していた。世界一どころか、「健闘したが準優勝」という扱いになっていた可能性が高い。
② 日本女子サッカーの未来が変わっていた
2011年のW杯優勝は、日本女子サッカーの人気を一気に押し上げた。この影響で、2012年ロンドン五輪でも銀メダルを獲得し、2015年W杯でも決勝進出を果たすなど、なでしこジャパンは黄金期を迎えた。
もし2011年に優勝できていなかったら、日本女子サッカーはここまでの飛躍を遂げられなかったかもしれない。
③ 澤穂希のキャリアと「レジェンド」としての評価
澤はこの大会で「ゴールデンボール(MVP)」と「ゴールデンブーツ(得点王)」をダブル受賞し、世界最優秀選手にも輝いた。しかし、もしゴールがなかったら、「偉大なキャプテン」ではあっても、「女子サッカー界のレジェンド」としての地位はここまで確立されなかったかもしれない。
「試合を変えた1秒」——GK海堀あゆみの伝説的セーブ
なでしこジャパンの勝利には、もう一つ忘れてはならない「試合を変えた1秒」があった。それは、延長戦終了直前、アメリカの決定機をGK海堀あゆみが信じられない反応でセーブした場面だ。
残り数秒、アメリカのシュートがゴールを襲う。しかし、海堀は体を投げ出してボールを弾き、決定的な3点目を許さなかった。この1秒のプレーがなければ、延長戦の最後にアメリカが勝ち越し、日本の優勝はなかった可能性が高い。
まさに「奇跡の1秒」。サッカーというスポーツは、ほんの一瞬のプレーがすべてを変えてしまうことを改めて感じさせるシーンだった。
2025年、13年ぶりにアメリカを撃破——新たな歴史の幕開け
2025年、なでしこジャパンは新監督ニルス・ニールセンのもとで初の国際大会に臨んだ。そして、世界ランキング1位のアメリカを2-1で破る大金星を挙げた。
これは、なでしこジャパンにとって歴史的な勝利だった。というのも、日本はアメリカとの過去40回の対戦で、1勝8分31敗と圧倒的な劣勢。PK戦での勝利は公式記録上「引き分け」となるため、実質的にアメリカ相手の唯一の勝利は2012年のポルトガル大会以来、実に13年ぶりの快挙だったのだ。
さらに、日本はこの大会を3連勝で終え、新監督のもと最高のスタートを切った。
この勝利は、2011年のW杯優勝と同じく、日本女子サッカーに新たな時代が訪れたことを示す象徴的な出来事だったのかもしれない。
2011年W杯優勝が日本にもたらしたもの
この試合の勝利は、単なるスポーツの結果以上の意味を持っていた。
・東日本大震災からの復興の象徴
・日本女子サッカーの地位向上
・「なでしこジャパン」というブランドの確立
もしこの試合に敗れていたら、日本女子サッカーの未来は大きく違っていたかもしれない。
「もしも」は存在しない——歴史を作ったなでしこジャパン
サッカーに「もしも」はない。澤穂希の奇跡のゴール、海堀あゆみの神セーブ、PK戦での冷静なキック。これらすべてが積み重なって、なでしこジャパンの栄光が生まれた。
この勝利は、決して偶然ではない。彼女たちの努力、メンタリティ、そして「日本のために戦う」という思いが生み出した必然の結果だったのだ。
2025年、新たな時代のなでしこジャパンが、再び世界の舞台で旋風を巻き起こそうとしている。次のW杯では、また新たな伝説が生まれるのか——。
なでしこジャパンの未来に、さらなる期待が高まる。
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