
英雄たちが愛した歴史的スパイクVOL.13 『マラドーナ、神の5人抜きスパイクを徹底解剖』
残念ながらアルゼンチンはロシア大会から去ってしまいましたが、今年58歳になる英雄は、相変わらず誰よりも熱く母国を応援していました。プーマも嬉しかった(?)と思います。さて、サッカーをしたことがある人で、 この方の現役時代の「5人抜き」の映像を見たことがない人はまずいないでしょう。また、その時履いていたスパイクのメーカーもご存じの方が多いと思います。しかし、モデルまで気にする人はあまりいないようです。今更ですが詳しく説明したいと思います。

今回も予定変更をお許しください(こちらでも神のスパイクについて書いています)。86年メキシコW杯で使用したスパイクはおそらくご本人がお持ちで、これまで一時的に行われた展示会で公開されたようです。86年大会では予選リーグ韓国戦、準々決勝イングランド戦、準決勝ベルギー戦、決勝西ドイツ戦で、神は図1左の取替え式モデルを使いました。

図1 左は神が86年大会の7試合中4試合で使用したモデル。すべて同一のスパイクだったかは不明ですが、展示品は「神の手」、「5人抜き」のイングランド戦実使用品だそうです。
右は同時期の固定式ですが、唯一固定式を使ったイタリア戦はヒモのしばり方が違うので、練習用か予備かもしれません。いずれにしてもこの大会で神が使ったスパイクは恐ろしい価格で取引されていることを、この動画の方に伺いました。https://www.youtube.com/watch?v=fhQHmeGNhqY&app=desktop
展示会の画像、映像は限られているので、昔の試合中の画像を使わせていただき、様々な角度でまとめてみました。

図2 86年大会での様々なアングルのスパイク写真。トレロに似ていましたが、86年当時はカタログにないモデルでした。
以前にも書きましたが、86年大会使用モデルは「マラドーナプロ」という名前で87年に日本でも発売されました。プロ1は固定式、プロ2が取替え式で、ご本人の足型で作られたので、26センチしかありませんでした。
そのため流通量も少なかったと考えられ、なかなか手に入れることができなかったので、トレロをもとにして、似た物を作製していただきました。しかし、ようやくプロ2を入手したので、念願だった比較をしてみました(図3)。
図3 マラドーナプロ2(左)と、トレロをもとに作製していただいたカスタム品(右)。プロ2のヒモのしばり方は入手時のままにしています。
側面のモデル名は図2の実使用スパイクの写真ではよくわかりませんが、かすかに見える文字部分の長さ的には「MARADONA PRO」が合いそうです。
また、側面の縫い目や革の形状なども図4左上の方が実使用品に忠実です(当たり前ですが)。 図4中央はかかと部分ですが、右のマラドーナプロの方が高くなっています。それにより、プーママークも上の方に位置しています。
また、かかとの革の中央にステッチがありません。 図4右上はつま先の革ですが、左のマラドーナプロの方が、やはり実使用品と同じように見えます。 図4右下は内部です。
実使用品の中敷きパターンは不明ですが、マラドーナプロはご本人の足型に合わせた形状になっています。
また、かかと部分の内張りの材質が皮革ではなく、パラメヒコに似たタオル地の布製です。
図4 マラドーナプロ2(左上)とカスタム品(左下)の側面部分。中央はかかと部分の比較で、右がプロ2。右上はつま先部分で左がプロ2。右下は内張り及び中敷きで、右がプロ2
図4の細かな違いはマラドーナプロのみに見られるものではなく、通常モデルも80年代前半と後半では同じような違いが見られます。
図5左上のようにトレロもかかとが高くてステッチがないタイプもあります。以前は細かい違いを知らなかったので、改造するスパイクの選択を誤ってしまったようです。
また、86年大会でもかかとが低いタイプのプーマスパイクを使っている選手も多数おられたようです。
図5 左上は黒・金色スパイクのかかと部分の比較。左2つはトレロで、右はマラドーナキング(日本製)。
86年大会で競り合うジュニオール選手(ブラジル)とブトラゲーニョ選手(スペイン)(右写真、左下スパイク部拡大図)。
ジュニオール選手はSPAキングで、おそらくかかとは低目のタイプだと思われます。
ブトラゲーニョ選手はキングだと思いますが、随分使い込んだ感じのスパイクです。ブトラゲーニョ選手の晩年のスパイクはヒュンメルでした。
レアルやスペイン代表の試合前集合写真では、前列向かって左端に座り、少し内側を向いて写るのが特徴でした(例外の時もあります)。
マラドーナプロ2と図2の実使用品で大きく異なる点はシュータンの西ドイツ製の表記です。
図6に知る限りの表記パターンを載せました。おそらく86年までは左上の、すべて大文字で表記された「MADE IN WEST GERMANY」のパターンが多かったと思われます。図2の実使用品はこのパターンのように見えます。
87年ぐらいから右上のタイプになり、小文字が使われ、登録商標のRが入ります。それと供に、プーマの動物マークの位置が若干下にさがります。左上の大文字の方はプーマの頭の部分がPUmAの文字より少し上にでます(矢印)。
マラドーナプロは87年に発売されたので、小文字入りのパターンです。 下の2種類は例外で表記はすべて大文字ですが、左下はWESTとGAREMNYの間にハイフンが入り、プーママークが少し下にあるパターンで、前回ご紹介したペレキングはこのタイプです。
右下が一番珍しく、ハイフン無しのすべて大文字表記で、プーママークのみ少し下にあるタイプです。このタイプの存在は最近まで知らなかったのですが、神ご自身のスパイクでこのタイプのモデルがあり、急に注目し始めました。
図6 シュータン部の4種類の「西ドイツ製」表記パターン。
メキシコ大会での神は、以前もご紹介した黒・黄色ソールのモデルも使っていました(ブルガリア戦、ウルグアイ戦、図7右)。
そのスパイクのシュータン写真を良く見ると(図7左上)、図6右下のパターンです。図7左下はイタリア戦の固定式で、こちらは図6左上のパターンです。

図7 ブルガリア戦(右)と、そのシュータン部分拡大図(上及び中央)。図6右下のタイプです(ハイフンなしで、プーママークが下のタイプ)。
モデル名は「KING」に見えます(中央下)。左下のイタリア戦の固定式はプーママークが上にある図6左上のタイプです。そして、ヒモのしばり方がノーマルです。
結論として、マラドーナプロ2はメキシコW杯神実使用モデルとすべてが同じわけではありません。86年と87年ではプーマスパイク全般の西ドイツ製の表記法が大きく変わった時期だったようです。
図8左は初回にも載せたプーマジャパン所蔵の貴重なスパイクですが、左のトレロと右のベルトマイスターでは、つま先の革の幅や西ドイツ製表記が違っています。年代によって微妙なマイナーチェンジがあったことがわかります。
また、図1の展示品も図8のトレロも内張りが同じように劣化していますので、実使用品の内張りはプロ2とは異なり、革か人工皮革製だった可能性が高いです。
図8右は88年に来日し、日本代表と試合を行った時の写真ですが、この時のスパイクは時期的におそらくプロ2そのものだったかもしれません。

図8 左はプーマジャパン所有の西ドイツ製スパイク。左からトレロ、フォックツモデル、ベルトマイスター。右は88年ゼロックス・スーパーサッカーでナポリのキャプテンとしてプレーする神。
さて、次回はロシア大会審判もご愛用の定番スパイク・コパムンの歴史について書く予定です。 (追記) 最近「マラドーナ独白」(東洋館出版社)を読みました。110ページに86年大会はずっと同じプーマ・キングを履き続けたと書かれています。同じではなかったと思いますが、神にとってはスパイクのソールの記憶は曖昧なのでしょうね。
(写真はマラドーナ写真集「栄光」(飛鳥新社)、「THE LOVE OF FOOTBALL 」清水和良、当時のサッカーマガジン、イレブン及びゲッティイメージズなどより引用)
◆キングギアから主催イベントのお知らせ。
神を見る夜 vol.0 『70年代のマラドーナ』
■日時・場所:2018年7月10日(火曜日)19時30~21時
ワロスロード・カフェ(上野)
■出 演:金子達仁(スポーツライター)永井孝英(世界一のマラドーナコレクター)
■主 催:KING GEAR 【http://king-gear.com】
■料 金: 参加費 5,000円(検討中)チャージ 300円 + ご飲食代(飲み物を含めて2オーダー以上お願いします)
■内 容:世界一のマラドーナのコレクターである永井さん。紹介動画=https://www.youtube.com/watch?v=fhQHmeGNhqY
世界中で、彼しか持っていないマラドーナが実際に着用したユニフォームやスパイクを見たり、時にはさわりながら、その時代のマラドーナにまつわるトークライブを開催します。
記念すべきvol.0のテーマは70年代のマラドーナにフォーカスします。
金子達仁×永井孝英トークライブ『70年代のマラドーナ』
■ご予約:ご予約は Facebook イベントページの参加ボタンを押していただくか、Facebookメッセージ・E-mail・お電話にてお受け致します。
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13214543/
著者 小西博昭の作品はバナーをクリック!

『神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。

図1 左は神が86年大会の7試合中4試合で使用したモデル。すべて同一のスパイクだったかは不明ですが、展示品は「神の手」、「5人抜き」のイングランド戦実使用品だそうです。
右は同時期の固定式ですが、唯一固定式を使ったイタリア戦はヒモのしばり方が違うので、練習用か予備かもしれません。いずれにしてもこの大会で神が使ったスパイクは恐ろしい価格で取引されていることを、この動画の方に伺いました。https://www.youtube.com/watch?v=fhQHmeGNhqY&app=desktop
展示会の画像、映像は限られているので、昔の試合中の画像を使わせていただき、様々な角度でまとめてみました。

図2 86年大会での様々なアングルのスパイク写真。トレロに似ていましたが、86年当時はカタログにないモデルでした。
以前にも書きましたが、86年大会使用モデルは「マラドーナプロ」という名前で87年に日本でも発売されました。プロ1は固定式、プロ2が取替え式で、ご本人の足型で作られたので、26センチしかありませんでした。
そのため流通量も少なかったと考えられ、なかなか手に入れることができなかったので、トレロをもとにして、似た物を作製していただきました。しかし、ようやくプロ2を入手したので、念願だった比較をしてみました(図3)。

側面のモデル名は図2の実使用スパイクの写真ではよくわかりませんが、かすかに見える文字部分の長さ的には「MARADONA PRO」が合いそうです。
また、側面の縫い目や革の形状なども図4左上の方が実使用品に忠実です(当たり前ですが)。 図4中央はかかと部分ですが、右のマラドーナプロの方が高くなっています。それにより、プーママークも上の方に位置しています。
また、かかとの革の中央にステッチがありません。 図4右上はつま先の革ですが、左のマラドーナプロの方が、やはり実使用品と同じように見えます。 図4右下は内部です。
実使用品の中敷きパターンは不明ですが、マラドーナプロはご本人の足型に合わせた形状になっています。
また、かかと部分の内張りの材質が皮革ではなく、パラメヒコに似たタオル地の布製です。

図4の細かな違いはマラドーナプロのみに見られるものではなく、通常モデルも80年代前半と後半では同じような違いが見られます。
図5左上のようにトレロもかかとが高くてステッチがないタイプもあります。以前は細かい違いを知らなかったので、改造するスパイクの選択を誤ってしまったようです。
また、86年大会でもかかとが低いタイプのプーマスパイクを使っている選手も多数おられたようです。

86年大会で競り合うジュニオール選手(ブラジル)とブトラゲーニョ選手(スペイン)(右写真、左下スパイク部拡大図)。
ジュニオール選手はSPAキングで、おそらくかかとは低目のタイプだと思われます。
ブトラゲーニョ選手はキングだと思いますが、随分使い込んだ感じのスパイクです。ブトラゲーニョ選手の晩年のスパイクはヒュンメルでした。
レアルやスペイン代表の試合前集合写真では、前列向かって左端に座り、少し内側を向いて写るのが特徴でした(例外の時もあります)。
マラドーナプロ2と図2の実使用品で大きく異なる点はシュータンの西ドイツ製の表記です。
図6に知る限りの表記パターンを載せました。おそらく86年までは左上の、すべて大文字で表記された「MADE IN WEST GERMANY」のパターンが多かったと思われます。図2の実使用品はこのパターンのように見えます。
87年ぐらいから右上のタイプになり、小文字が使われ、登録商標のRが入ります。それと供に、プーマの動物マークの位置が若干下にさがります。左上の大文字の方はプーマの頭の部分がPUmAの文字より少し上にでます(矢印)。
マラドーナプロは87年に発売されたので、小文字入りのパターンです。 下の2種類は例外で表記はすべて大文字ですが、左下はWESTとGAREMNYの間にハイフンが入り、プーママークが少し下にあるパターンで、前回ご紹介したペレキングはこのタイプです。
右下が一番珍しく、ハイフン無しのすべて大文字表記で、プーママークのみ少し下にあるタイプです。このタイプの存在は最近まで知らなかったのですが、神ご自身のスパイクでこのタイプのモデルがあり、急に注目し始めました。

メキシコ大会での神は、以前もご紹介した黒・黄色ソールのモデルも使っていました(ブルガリア戦、ウルグアイ戦、図7右)。
そのスパイクのシュータン写真を良く見ると(図7左上)、図6右下のパターンです。図7左下はイタリア戦の固定式で、こちらは図6左上のパターンです。

図7 ブルガリア戦(右)と、そのシュータン部分拡大図(上及び中央)。図6右下のタイプです(ハイフンなしで、プーママークが下のタイプ)。
モデル名は「KING」に見えます(中央下)。左下のイタリア戦の固定式はプーママークが上にある図6左上のタイプです。そして、ヒモのしばり方がノーマルです。
結論として、マラドーナプロ2はメキシコW杯神実使用モデルとすべてが同じわけではありません。86年と87年ではプーマスパイク全般の西ドイツ製の表記法が大きく変わった時期だったようです。
図8左は初回にも載せたプーマジャパン所蔵の貴重なスパイクですが、左のトレロと右のベルトマイスターでは、つま先の革の幅や西ドイツ製表記が違っています。年代によって微妙なマイナーチェンジがあったことがわかります。
また、図1の展示品も図8のトレロも内張りが同じように劣化していますので、実使用品の内張りはプロ2とは異なり、革か人工皮革製だった可能性が高いです。
図8右は88年に来日し、日本代表と試合を行った時の写真ですが、この時のスパイクは時期的におそらくプロ2そのものだったかもしれません。

図8 左はプーマジャパン所有の西ドイツ製スパイク。左からトレロ、フォックツモデル、ベルトマイスター。右は88年ゼロックス・スーパーサッカーでナポリのキャプテンとしてプレーする神。
さて、次回はロシア大会審判もご愛用の定番スパイク・コパムンの歴史について書く予定です。 (追記) 最近「マラドーナ独白」(東洋館出版社)を読みました。110ページに86年大会はずっと同じプーマ・キングを履き続けたと書かれています。同じではなかったと思いますが、神にとってはスパイクのソールの記憶は曖昧なのでしょうね。
(写真はマラドーナ写真集「栄光」(飛鳥新社)、「THE LOVE OF FOOTBALL 」清水和良、当時のサッカーマガジン、イレブン及びゲッティイメージズなどより引用)
◆キングギアから主催イベントのお知らせ。
神を見る夜 vol.0 『70年代のマラドーナ』
■日時・場所:2018年7月10日(火曜日)19時30~21時
ワロスロード・カフェ(上野)
■出 演:金子達仁(スポーツライター)永井孝英(世界一のマラドーナコレクター)
■主 催:KING GEAR 【http://king-gear.com】
■料 金: 参加費 5,000円(検討中)チャージ 300円 + ご飲食代(飲み物を含めて2オーダー以上お願いします)
■内 容:世界一のマラドーナのコレクターである永井さん。紹介動画=https://www.youtube.com/watch?v=fhQHmeGNhqY
世界中で、彼しか持っていないマラドーナが実際に着用したユニフォームやスパイクを見たり、時にはさわりながら、その時代のマラドーナにまつわるトークライブを開催します。
記念すべきvol.0のテーマは70年代のマラドーナにフォーカスします。
金子達仁×永井孝英トークライブ『70年代のマラドーナ』
■ご予約:ご予約は Facebook イベントページの参加ボタンを押していただくか、Facebookメッセージ・E-mail・お電話にてお受け致します。
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13214543/
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『神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。