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特別な瞬間を追い求めて!阿部兄妹が描くオリンピック物語

阿部一二三と阿部詩にとって、オリンピックは単なるスポーツイベントではない。それは、人生を新しい次元へと引き上げ、深い思い出と意義をもたらす特別な存在だ。彼らにとって東京2020の成功は人生のハイライトであり、パリ2024への挑戦は未来の目標を映し出すもの。兄妹揃っての連覇を目指す彼らは、その決意と情熱を胸に、日々のトレーニングに励んでいる。オリンピックがもたらす影響とその重要性を、阿部姉弟の言葉を通じて感じ取ってほしい。※トップ画像 :写真 / 小渕良知

Icon       池田 鉄平 | 2024/05/27

世界が驚いた“最強きょうだい”

初めて二人が同時に世界の大舞台で輝いたのは2018年、アゼルバイジャンで行われた世界選手権。兄の一二三が2連覇を達成し、妹の詩は初出場で頂点に立った。兄妹同時の金メダルという偉業が達成され、この“最強のきょうだい”の名は瞬く間に世界中の柔道関係者に知れ渡った。

柔道でのきょうだいの活躍と言えば、アトランタオリンピックに三兄弟で出場した中村兄弟(佳央さん・7位、行成さん・銅、兼三さん・金)。また姉妹では、アテネ大会・北京大会で2連覇を果たした上野雅恵さんと、ロンドン大会で銅メダルを獲得した上野順恵さんがいる。

しかし、きょうだいが同じ大会で金メダルを獲得した例は過去にない。

阿部兄妹の場合、2人の階級と柔道の競技スケジュールの妙がある。世界選手権とオリンピックでは1日につき男女1階級ずつ、体重の軽い順に競技が実施される。66キロ級の一二三選手と52キロ級の詩選手は、どちらも軽い方から2つ目の階級。オリンピックでも同じ日に畳に上がる2人が、同時に金メダルを獲得することへの期待がいやが上にも高まった。

しかし、きょうだいが同じ日に試合で戦うことは残酷でもある。2019年の世界選手権では、兄が準決勝で敗退。金メダルを獲得した妹は、3位決定戦に臨む兄の姿を祈るように見つめ、取材の場でも最後まで笑顔を見せなかった。

常に“きょうだい”として注目される2人。互いの存在をどう感じているのか。

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撮影 / 小渕良知
詩:「兄は追いかける存在だった。でも今はきょうだいでもあるし、戦う者どうしライバルでもあるし、すごくいい関係だと思う。」

一二三:「ものすごく刺激になっている。妹の活躍を見ると負けられないと思うし、兄の姿を見せたいとも思ったり、すごくいい刺激になっていると思う。」

さらに一二三は、“きょうだい”として話題を集めることについても「僕自身は嫌と思ったことは一度もない」と語っている。

2人の軌跡~負けず嫌い“努力”の一二三


オリンピックに出場するまでに成長した2人は、どのようにして強くなっていったのか。

兄の一二三が柔道を始めたのは6歳の頃。体は決して大きくなく、体格で勝る女子選手にも試合で負けることがあった。小学生時代の一二三を指導した「兵庫少年こだま会柔道部」の高田幸博は当時の様子を振り返る。

「たとえ相手の体が大きくても、跳ね返されるとわかっていても正面から立ち向かう」

負けず嫌いな性格は小学生時代からだった。体幹や足腰を鍛えるとともに、現在の代名詞となっている担ぎ技を磨き、実力を上げていった。

2人の軌跡~兄を追いかける“センス”の詩

一方の詩は、兄の一二三がやることをすべて追い続けた。5歳で始めた柔道もその一つ。当時はそれほど柔道が好きだったわけではない。

「小学校のお姉さんたちが妹のように接してくれて楽しかったから、人と関わるのが好きで道場に通っていた」

兄の勇一朗は、子どもの頃の2人をこう振り返る。

「一二三は普段から負けず嫌い。試合に負けてすぐにトレーニングをしていた。柔道は詩が一番センスがあったと思う。最初は遊びでやっていたのに、試合で見ていて映える動きをしていたのが印象深い」

一二三は高校2年生だった2014年にユースオリンピックで金メダルを獲得し、講道館杯、全日本体重別選手権で日本一に輝いた。詩も16歳で国際大会に初優勝し、2018年の世界選手権できょうだい同時優勝へとつながる。

東京オリンピック前の苦難

オリンピックでの金メダル獲得を目指す2人だったが、本番までの道のりには苦しい時期があった。

詩は世界選手権2連覇の後、2019年11月の大会でフランスのアマンディーヌ・ブシャールに敗れた。連勝は「48」で止まり、組み手争いで後れを取り、攻めの形を封じられた。

「絶対に勝てるだろうと思ってしまい、気持ちの部分で隙があった。焦ってしまって、自分の柔道ができていなかった」

自分を見つめ直した詩は、課題の組み手に徹底的に取り組み、3か月後の国際大会でブシャールにリベンジした。

女子日本代表の増地克之監督は「課題と向き合い、それを消化し、結果につなげる成長力はさすが」と感心した。

一二三の苦境

一二三もまた、世界選手権2連覇の後、丸山城志郎に3連敗し、崖っぷちに追い込まれた。世界選手権の2週間後、一二三は「もう勝ち続けるしかない。人生をかけてやるしかない」と覚悟を決めた。

昨年12月、丸山との代表内定決定戦では、延長を合わせて試合時間24分の死闘を制し、自分らしい前に出る柔道を貫きながら、相手の攻撃を耐える冷静な判断力と強い精神力を見せた。

「これで2人でオリンピックの金メダルを取ろうって、はっきり言える」

東京オリンピックでの快挙

オリンピックの大舞台で、日本武道館に立った2人。ともに金メダル候補として臨み、海外勢からの徹底したマークを受けた。詩は寝技をうまく使って勝ち上がり、一二三は背負い投げに入ると見せかけて大外刈りを繰り出した。

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撮影 / 小渕良知
「前に出る中でも冷静に、ワンチャンスをものにする柔道をできた」

2人はともに決勝に進み、詩がブシャールに延長の末、寝技で制し、続いて一二三も金メダルを獲得した。

「妹からパワーをもらった」

表彰式で2人は並んで金メダルを掲げ、満面の笑みを浮かべた。

「最高ですね。2人で最高に輝けた1日だと思います。家族にとっても、自分にとっても人生で最高の1日じゃないかと思います」

「兄もしっかり優勝してきてくれたので、家族一丸となって達成したオリンピックの金メダルだと思います」

史上最強のきょうだいの夢が最高の形で結実した瞬間だった。

あなたにとってオリンピックとは?

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撮影 / 小渕良知
詩:オリンピックは、私の人生を全く新しい次元に引き上げてくれた特別な存在。私自身、そして私の両親や支えてくれるすべての人々にとって、このイベントには計り知れない思い入れがある。もし人生のハイライトを振り返るとしたら、間違いなく東京2020での優勝の瞬間、そしてパリ2024での優勝の瞬間を見たい。それほどに、オリンピックは深い意味と鮮烈な記憶を刻む大会。

一二三:未来にはまだ多くの可能性が広がっているが、現時点でオリンピックは僕の人生そのもの。東京オリンピックは人生に圧倒的な変化をもたらした。その影響は計り知れない。子どもたちにもその素晴らしさを感じてもらえると信じている。パリで金メダルを持ち帰るために、全力を尽くして臨む。

パリ五輪に向けて

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撮影 / 小渕良知
阿部兄妹は、東京2020オリンピックを終え、多くの人々の関心を集め、多くの人と出会い、交流を深めた。パリ2024オリンピックに向けても、プレッシャーを感じることなく、むしろ多くのエネルギーを得ていると感じているようだ。

「兄妹でオリンピック2連覇を達成することが最大の目標!」そう力強く語る二人。

しっかりと準備をし、やるべきことを確実に行えば、その目標を達成できると信じている。オリンピック2大会連続での金メダル獲得を目指して、これからも一歩一歩前進していく。