総工費約900億円!巨大複合施設“長崎スタジアムシティ”が目指す「地域貢献」と「地方課題解決」とは
2024年10月に開業した「長崎スタジアムシティ」。通販大手のジャパネットグループが運営する大型総合複合施設だ。同グループが経営権を持つサッカークラブ「Vファーレン長崎」のホームスタジアムや、バスケットクラブ「長崎ヴェルカ」のホームアリーナ、ホテルなど様々な施設が密集している。1つの場所にエンタメが凝縮しているメリット、そして親会社のジャパネットがこの場所を通じて目指すものとは何か。※トップ画像出典/Getty Images
「ここでしか体験できないこと」 長崎スタジアムシティの強み
長崎駅から徒歩10分の場所に“テーマパーク”が生まれた。スポーツが行われるスタジアムとアリーナはもちろん、ホテル、オフィスビル、商業施設までなんでもある。プロジェクトの責任者でリージョナルクリエーション長崎の執行役員・折目裕はこの場所の魅力を説明した。
「スタジアムとアリーナが隣接するのは日本でここだけ。バスケを見終わった後にサッカーなど、はしごが出来る。1日を通してエンタメとスポーツの楽しみに触れられるのは、ここでしか体験できないこと」。魅力がたくさん詰まっている。それぞれの場所に、特徴があった。
大切にしたのは「開放感」 スタジアムの魅力
サッカースタジアムの魅力は、開放感。この場所の最大の売りである3階コンコースは、爽快感抜群だ。スタジアム全体が一望できるのはもちろん、外の方へ視線を向ければ、長崎の美しい街並みを楽しめる。そのために、ある工夫がなされていた。
「通常は壁が出来るんですけど、景色を見せるためにトイレを2階に接地しました。そのため、3階にはトイレがないんです。開放感を作ろうとした結果ですね」と、折目が説明する。そのおかげで、景色がいいのはもちろん、隣の商業施設からもスタジアムの雰囲気を感じることができる。買い物に来た客を、次は試合の観戦へ。そんなサイクルを生み出すことができる造りになっている。
他にも注目するべき場所がある。アウェイサポーターの席の配置だ。「アウェイスタンドの裏に商業施設があります。買い物したり、ちゃんぽんを食べてもらったりしてほしいなと」。長崎駅へのアクセスも、商業施設への距離も、アウェイ席の方が近い。全ては県外の人々を、観光とグルメの両方からのアプローチで楽しませ、地元へお金を落としてもらうためだ。
もちろん、ホーム側サポーターの席にも仕掛けはある。ビールの醸造所が設置してあるのだ。その真裏がバスケアリーナのホーム側席であることから、「『勝った』『負けた』で盛り上がってもらえれば」と、ホームサポーター同士の交流を促進することが狙いだ。地元のチームを応援する者同士、話が合わないはずがない。さらに、観客席とサイドラインまでの距離は、わずか5メートル。これは日本最短だ。スタンドとチームベンチの距離もすぐそばで、実際に選手の生の声を聞ける臨場感が満載だ。
そのすぐ裏側に隣接するホテルにも、驚きの仕組みがある。なんとホテルの客室のバルコニーからサッカー観戦ができる、日本初のスタジアムビューホテルなのだ。それだけでなく、同じくスタジアムを一望できるジャグジー、プール、サウナも設置。癒しと興奮を同時に味わえる造りだ。
ホテルの一室には、サッカー観戦はもちろん、コース料理が味わえる場所もある。普段はホテルの客室として扱われ、試合日だけ観戦用のVIPルームとなるというわけだ。折目によると「ホテルとスタジアムの併設だからこその『重ね使い』ですね。(1年のうち)約20日はVIPルームとして、それ以外はホテルの客室として利用する」とのこと。机や家具を収納し、壁掛けのベッドを倒すと宿泊が可能になり、無駄なく、利益を生み出せる。これも、長崎スタジアムシティならではのメリットだ。
バスケの「最高の観戦」を目指したアリーナ
スタジアム3階のコンコースから徒歩10秒、バスケットボールクラブ・長崎ヴェルカの本拠地となるアリーナにも様々な仕組みが施されている。NBAを参考にした大型のセンタービジョンを用意し、客席もコートまでの距離が近い。「最高の観戦にすべく、バスケに特化した構造になってます」と折目は語る。
そのアリーナ最大の売りが「VIPルーム」だ。あえて1.5階の低層階に作ったことで、臨場感を生み出しやすくなっている。折目は「(これだけ低層階にあるのは)日本で初めてだと思う。だいたい上の階にあるので。我々はVIPの方に一番いい席を用意したかった」と、その理由を説明する。その言葉通り、選手たちの言葉や動作などが、よりダイレクトでライブ感満載に伝わってくる。
試合が無い日は、ライブのようなイベントも開催可能だ。バスケットボール以外の楽しみを、ここから発信する。1000人から6000人まで、イベントに合わせた会場設定が出来るのも魅力の1つだ。「年間100日は興行で埋められるように、貸し館でイベントを誘致したいなと」と折目は目標を語った。
長崎スタジアムシティが目指す地元への貢献とは
魅力が集まるこの場所のメインターゲットは、観光客ではなく「長崎に住んでいる人」。スタジアム3階のコンコースには飲食店が並び、サッカーがある日はもちろん、普段も商業施設として飲食が楽しめるようになっている。「試合がない日にどれだけ脚を運んでもらえるかが勝負だと思っているので。スタジアムの340日は集客装置。商業施設の一つとして考えています」と折目は語る。
それに加えて、スタジアムの無料ピッチ開放も考えている。「日本のスタジアムで、試合が無い日に入れる場所はないと思う。我々は基本的に開放して、芝生広場にしようと思う」と、折目はこの先の目標を述べた。もちろん、芝状態の維持など、課題は残る。それでも、長崎の人々に楽しみを与えたいのだ。
なぜ、ここまでのものを作ったのか。そこには、長崎市が抱える“若者の流出”という課題がある。 長崎市の人口流出は、2018、19年で全国ワースト1位、20年~22年で全国ワースト2位だった。「(流出する理由の)1つは働く場所がない。働きたい会社が長崎スタジアムシティにできれば、(若者に)戻ってきてもらえる」と、折目は語る。さらに、長崎には若者が楽しめる場所がなかった。「我々が作ることで、若者の定住人口を増やしたい」と折目が意欲を述べたように、全ては地域のためだった。
この場所が永続的に長崎にあるために、利益を生む工夫がある。シティ内のホテルの部屋の商品を、通販で買えるシステムを作っている。「『このベットいいね』となったら通販で購入出来て、早ければ家に帰った時に商品が届いている。そんな仕組みを全部屋で出来るようにしようと思う」と、折目はその狙いを語る。言わば、泊まるモデルルームだ。折目によると「民間企業なので、収益として回収しないといけない。長崎スタジアムシティを通じたビジネスモデルを設計しています」とのこと。親会社が通販会社であるジャパネットならではの仕組みだった。
バスケットボールとサッカー、ジャパネットは現在、両方のチーム経営権を持ち、お互いの弱点を補い合える。それでも、ホームゲームを開催できるのは、サッカーが年間20試合、バスケットは年間30試合ほどと、それほど多くはない。折目はそのフォローとして「スタジアムシティに行けば今日お祭りがあるよね。とメッセージを出せる」と語る。施設面でも、バスケとサッカーはロッカールームなどの構造が似ている部分が多い。だからこそ、それぞれの業界での視点をシェアでき、成長が促進されるというわけだ。
構想開始から7年。待望の施設が2024年10月に誕生した。折目には「スポーツはビジネスの側面はもちろん、ファンのみなさんの感動を生むことができる。それを自分たちの会社が携われるのは、すごく幸せなことで、夢しかないと思っています」という熱い思いがある。スポーツに、地域貢献に情熱を注いだ人間たちが作り上げた賜物だ。長崎を明るい未来にする起爆剤となるか、注目したい。
『長崎スタジアムシティ×南原清隆 ~総事業費900億円の巨大複合施設に潜入~』より
配信日:2024年5月10日(金)
※記事内の情報は放送当時の内容を元に編集して配信しています