大谷翔平も言及した“ピッチクロック”の現在ー山本由伸ら日本人選手へもたらす影響とMLBで求められる適応
2023年シーズンからメジャーリーグで導入されたのがピッチクロック。試合時間の短縮を目的に行われている同ルールは、2024年に改良を加えながら、これまで2シーズンにわたり一定の成果を収めてきた。一方で、新ルール導入による課題も見られており、ここ数年積極的に新たなルールで改革を進めるメジャーリーグのなかで、どのような影響が見られているかを検証する。トップ画像:出典/Getty Images
試合のスピードアップには効果
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ピッチクロックは2022年9月にメジャーリーグ機構(MLB)が翌シーズンからの導入を発表したもので、2023年シーズンから投手は走者がいない場面では15秒、いる場面では20秒以内に投球動作に入らなければならない。今年からは走者がいる場面では18秒とさらに短縮され、その制限を超えてしまうと“ボール”が宣告されることになる。
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また、相対する打者も制限時間の8秒以内までに打席に入り、準備を進めなければならず、これに違反した場合“ストライク”が自動的に宣告される。投手、打者ともに投球や打撃までの時間に制限を加えることにより、試合のスピードアップを促すものとして取り入れられた。
この取り組みは当初の目論見通り、試合時間の短縮には効果を発揮し、MLBが発表したデータによると2022年は3時間24分(9回限定)だったのが、2023年には2時間40分と約40分も短くなった。さらに、2024年にも2時間36分と前年からは4分、ルール改正前の2年前からは44分の短縮に成功し、試合のスピードアップにつながっている。
大谷は2023年に投打で違反宣告
一方で、新ルールへの適応は各選手に課されており、多くの選手がプレーする日本人選手にもそれは求められた。現在はドジャースに所属する大谷翔平投手はピッチクロックが導入されたエンゼルス時代の2023年4月6日(日本時間2023年4月7日)に行われたマリナーズ戦に「3番投手・DH」で先発した。
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すると、初回に投手としてピッチクロック違反でボールをとられ、6回の打席では準備が間に合わず、1ストライクが宣告された。2024年はけがのため打者専念となった大谷だが、二刀流としてのプレーが可能になれば、引き続き投打でこのルールに向き合うことになる。
また、日本時代に投球動作に30秒ほどの時間を擁していたことから、メジャーでのピッチクロックへの適応が懸念されていたのが松井裕樹投手。楽天からパドレスに新天地を求めた2024年シーズンはデビュー登板となった3月20日(韓国開催)のドジャース戦で先頭打者にピッチクロックを取られたものの、64試合に登板したルーキーイヤーで違反はこの1度のみ。4勝2敗で防御率3.73を記録しメジャー1年目で公式球にも適応し完走を果たした。
MLB側は球速の増加を問題点に指摘
ピッチクロックの影響が叫ばれたのが2024年シーズンに多発した主戦投手の怪我人問題。ヤンキースのエースであるゲリット・コール投手は開幕前に右ひじの怪我により復帰が6月中旬までずれ込み、2023年に20勝、281奪三振を記録しナ・リーグ二冠に輝いたスペンサー・ストライダー投手も開幕早々に右ひじを痛め、トミー・ジョン手術を強いられた。
大谷もシーズン中の取材で「体への負担自体はやっぱり短い時間で多くの仕事量をこなすというのは、負担自体は間違いなくかかっている」とピッチクロックの影響を示唆。選手会も開幕早々の4月にMLBに対してピッチクロックによる投手の肩ひじへの負担増につながっていると声明を発表した。なお、MLBはこの声明に対して投手のスピード過多による出力の上昇が故障につながっていると反論しており、選手側との言い分には差が生まれている。
ちなみに、AP通信が報じたデータによると、2024年シーズンの日本人投手で最も多くのピッチクロック違反を犯したのが山本由伸投手。オリックスからドジャースに加わった1年目のシーズンで18試合に登板し7勝2敗、防御率3.00と一定の活躍を見せた右腕だが、シーズントータルでは5度のピッチクロック違反でメジャー全体では6番目となっている。
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山本は6月中旬のロイヤルズ戦での右肩腱板損傷により故障者リスト(IL)入りしおよそ3カ月の離脱を強いられたが、1試合前のヤンキース戦で最速98.4マイル(約158km)を記録した次の登板では平均球速が4kmほど落ちたデータもある。投手の怪我についてはMLB側が指摘する球速の増加も関わっている可能性がある。
侍ジャパンが連覇を狙う2026年のワールド・ベースボール・クラシックに向けて導入が確実視されるピッチクロックだが、日本の選手会では怪我の増加につながるとして実施には慎重な姿勢が取られている。試合のスピードアップには効果を見せた一方で、選手一人ひとりにかかる負担が指摘される新ルール。はたして、メジャーリーグでの継続的な実施を経て、日本でも将来的に広がる流れは見られるのか。