長距離ランナーの御託・藤原新Vol.10 グラウンド編「ついに決定! 藤原新が選ぶ、10km走っても疲れにくいサッカースパイク」
ロンドン五輪のマラソン日本代表、藤原新選手が選ぶ「10㎞走っても疲れないスパイク」。すべての試し履きを終え、いよいよ順位の発表です!
金子 達仁
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2017/01/05
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――最後の一足となりました。ナイキのマーキュリアル・ヴェイパーです。実はこのスパイクだけ、変わった事情があります。
藤原:何かありましたっけ?
――基本的にこれまで履いていただいたスパイクは、藤原さんがサッカーショップで手にとって「あ、いいかも」と思ったシューズだったのですが、このマーキリュアル・ヴェイパーだけは、店員さんの強い推薦がありまして。
藤原:ほう。
――その店員さん、高校時代に陸上競技をやられていたそうで、トップランナーである藤原さんに、自分が一番走りやすいと思っているサッカースパイクを試していただきたい、と。彼曰く、陸上をやっていた人間からすると、これが一番走りに適した一足なのではないか、と。
藤原:ああ、言われてみればわかる気がします。確かにこれ、ほぼランニングシューズな感じです(笑)
――どういうところが?
藤原:足の甲に何の干渉もしてこない。一言でいうと、柔らかいんです。とにかくアッパーが柔らかい。
――ランニングの動作において、アッパーは伸びたり縮んだりを繰り返す。その際、足の甲に何らかの干渉があると、靴擦れの原因となる。そういうことですよね?
藤原:わかってきましたね(笑)。まさにその通り。で、このナイキのアッパーはその点で申し分ない。相当、伸縮性のある素材を使っているんだと思います。柔らかくて、軽くて、薄い。これに通気性を持たせるための孔を開けたら、完全にランニングシューズです。
――人工皮革には軽さというメリットがある反面、馴染みにくいというか、藤原さんのお言葉を借りるなら「足の甲に干渉する」傾向が強かったと思うのですが、このモデルは違いますか?
藤原:違いますね。このスパイクはアッパー部分に細かい切れ込みがたくさん入っているんですけど、その具合が絶妙なんです。余計な『たわみ』が生まれることもない。これだったら、相当長い距離を走ってもストレスにならないんじゃないかな。陸上をやっていた店員さんが一押しなのも、よくわかります。ただ、逆に陸上の人間から聞かせてもらいたいんですけど、これだけアッパーが薄くて、ボールを蹴っても痛くないんですか?(笑)
――人それぞれでしょうが、たとえば藤原選手と同郷で先日引退を発表したヴェルディの永井秀樹さんあたりは、間違いなく痛いっていうでしょうね(笑)。一方で、子供のころに裸足でサッカーをやっいてたブラジル人の選手にとっては、理想的な感触かもしれません。
藤原:あ、やっぱり(笑)。ブラジルの選手だったら、ストッキングなしでこのスパイクを履きたいって思うかも。これだけ柔らかくて伸縮性に優れたアッパーだったら、裸足で履いても靴擦れはおきそうもないし。
――ま、サッカーは裸足禁止なんですけどね(笑)。他になにか気になるところは?
藤原:小さなことなんですけど、このスパイクは軽量化を狙ってなのか、ヒモまで細くなっていますよね。マラソンランナーからすると、細すぎるヒモはちょっと怖いかな、と。
――それはなぜ?
藤原:ギュッと縛った時に腱を痛める可能性があるし、太いヒモだと分散される圧力が、細くなればなるほど集中してしまうので。あと、素人考えなんですけど、細くて硬いヒモの部分でインステップキックをしたら、痛そうじゃないですか?(笑)
――そこまで繊細な足の甲を持ったサッカー選手、なかなかいないと思います(笑)。さて、すべて出揃ったところで、『第1回 マラソンランナー藤原新が選ぶ、10km走っても疲れにくいサッカースパイク選手権』。いよいよ順位の発表です。
藤原:この企画、そんなタイトルだったんだ(笑)。あの、改めてお断りしておきますけど、サッカースパイクの優劣をつけたんじゃないですからね。マラソンランナーとして、ランニングシューズに近いか遠いかを順番づけただけで。
――わかってますって(笑)。では、一番ランニングシューズから遠いと感じられた一足は?
藤原:アンダーアーマーのクラッチフィットですね。短い距離をトップスピードで走るというのであれば、逆にこれが一番かもしれない。ただ、長い距離、そうだなあ、20kmぐらい走ることになったとしたら、真っ先に選択肢から外します。いろんなところが痛くなっちゃいそうで。
――6位がアンダーアーマーのクラッチフィット。5位は?
藤原:プーマのパラメヒコかなあ。
――ショップではかなりお気に入りのようでしたが。
藤原:1㎞を3分半とか、それぐらいのゆっくりしたペースで走るのなら問題ないんでしょうけど、3分を切るペースで走るとなると、重さがちょっと響いてくるかなと。
――プロのマラソンランナーからすると、1㎞を3分半で走るって「ゆっくり」なんですね(笑)。1500mにすると5分ちょっと。高校生あたりのサッカー選手からすると、走れないことはないけど、割とキツいかなっていうペースですけど。
藤原:ま、そこはプロなんで(笑)。え~4位と3位は僅差です。というか、2位から5位まではかなり僅差かな。
――では、4位は?
藤原:ミズノのモレリア2とアシックスの2002。同点ですね。ミズノの方は高速巡行用、アシックスは短い距離の全力走行用。走るペースをどれぐらいに設定するかによって、順位も入れ代わってくる感じです。ただ、どっちもアッパーが天然皮革でしなやかなので、足には優しい感じですよね。
――3位と4位がほぼ同点。では2位は?
藤原:アディダスのパティーク・グローロ。これ、足入れ感が抜群によかったんです。あと、走る前と走ったあとの足の形状の変化にもちゃんと対応してくれそうで。
――ということは、1位は?
藤原:ナイキのマーキュリアル・ヴェイパーですね。マラソンランナーとしての感覚から言わせてもらうと、正直、ダントツでした。
――どんなところが?
藤原:いい意味で、フィット感がないんです。違う言い方をすれば、適度な遊びがある。伸びやかでスムーズな足の回転のためには、足関節を固めてしまってはダメなんですね。いろんなモデルを履き比べてみて、サッカーをやっている人って、スパイクにフィット感を求めているんだろうなっていうのを感じたんですけど、今回履いた中では、ナイキのこのスパイクだけがランナー寄りの感性で作っているな、と。フィット感はあんまりないんだけど、アッパーの素材が柔らかくて、軽くて、薄くて、走っても足に食い込んだりしない。これって、優れたランニングシューズのコンセプトそのものなんですよ。
――陸上競技をやっていた店員さんが、これを推してくるのも当然だったわけですね。
藤原:ですね。これだったら、20km走っても全然問題なさそう。
――ちなみに、藤原さんは引退したら思いっきりサッカーをやりたい、とおっしゃっていましたよね。その日がいつになるかはわかりませんけど、今回履いたスパイクの中から、自分がサッカーをやるという前提で一足を選ぶとしたら、どれにします?
藤原:引退は、まだ全然先ですよ。予定というか、いま自分の中にある実感でいうと、東京オリンピックのころ、マラソンランナー藤原新は自分史上最速になっているはずなので(笑)
――では、いつになるかわからない日のために、一足を選ぶとしたら?
藤原:じゃ、これにします。アディダスのパティーク・グローロ。足入れの感覚はこれが一番でしたし、巡行から高速まで、どんなペースにもある程度は対応してくれそう。あと、何より足を守ってくれそうな気がするので。
――では、本日の記念品としてお持ち帰りください(笑)。さて、やるべきことはやりましたし、パーッと飲みにいきますか。
藤原:長距離ランナーは代謝がいいですからね。ガッツリ飲みますよ(笑) (シリーズ了)
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――最後の一足となりました。ナイキのマーキュリアル・ヴェイパーです。実はこのスパイクだけ、変わった事情があります。
藤原:何かありましたっけ?
――基本的にこれまで履いていただいたスパイクは、藤原さんがサッカーショップで手にとって「あ、いいかも」と思ったシューズだったのですが、このマーキリュアル・ヴェイパーだけは、店員さんの強い推薦がありまして。
藤原:ほう。
――その店員さん、高校時代に陸上競技をやられていたそうで、トップランナーである藤原さんに、自分が一番走りやすいと思っているサッカースパイクを試していただきたい、と。彼曰く、陸上をやっていた人間からすると、これが一番走りに適した一足なのではないか、と。
藤原:ああ、言われてみればわかる気がします。確かにこれ、ほぼランニングシューズな感じです(笑)
――どういうところが?
藤原:足の甲に何の干渉もしてこない。一言でいうと、柔らかいんです。とにかくアッパーが柔らかい。
――ランニングの動作において、アッパーは伸びたり縮んだりを繰り返す。その際、足の甲に何らかの干渉があると、靴擦れの原因となる。そういうことですよね?
藤原:わかってきましたね(笑)。まさにその通り。で、このナイキのアッパーはその点で申し分ない。相当、伸縮性のある素材を使っているんだと思います。柔らかくて、軽くて、薄い。これに通気性を持たせるための孔を開けたら、完全にランニングシューズです。
――人工皮革には軽さというメリットがある反面、馴染みにくいというか、藤原さんのお言葉を借りるなら「足の甲に干渉する」傾向が強かったと思うのですが、このモデルは違いますか?
藤原:違いますね。このスパイクはアッパー部分に細かい切れ込みがたくさん入っているんですけど、その具合が絶妙なんです。余計な『たわみ』が生まれることもない。これだったら、相当長い距離を走ってもストレスにならないんじゃないかな。陸上をやっていた店員さんが一押しなのも、よくわかります。ただ、逆に陸上の人間から聞かせてもらいたいんですけど、これだけアッパーが薄くて、ボールを蹴っても痛くないんですか?(笑)
――人それぞれでしょうが、たとえば藤原選手と同郷で先日引退を発表したヴェルディの永井秀樹さんあたりは、間違いなく痛いっていうでしょうね(笑)。一方で、子供のころに裸足でサッカーをやっいてたブラジル人の選手にとっては、理想的な感触かもしれません。
藤原:あ、やっぱり(笑)。ブラジルの選手だったら、ストッキングなしでこのスパイクを履きたいって思うかも。これだけ柔らかくて伸縮性に優れたアッパーだったら、裸足で履いても靴擦れはおきそうもないし。
――ま、サッカーは裸足禁止なんですけどね(笑)。他になにか気になるところは?
藤原:小さなことなんですけど、このスパイクは軽量化を狙ってなのか、ヒモまで細くなっていますよね。マラソンランナーからすると、細すぎるヒモはちょっと怖いかな、と。
――それはなぜ?
藤原:ギュッと縛った時に腱を痛める可能性があるし、太いヒモだと分散される圧力が、細くなればなるほど集中してしまうので。あと、素人考えなんですけど、細くて硬いヒモの部分でインステップキックをしたら、痛そうじゃないですか?(笑)
――そこまで繊細な足の甲を持ったサッカー選手、なかなかいないと思います(笑)。さて、すべて出揃ったところで、『第1回 マラソンランナー藤原新が選ぶ、10km走っても疲れにくいサッカースパイク選手権』。いよいよ順位の発表です。
藤原:この企画、そんなタイトルだったんだ(笑)。あの、改めてお断りしておきますけど、サッカースパイクの優劣をつけたんじゃないですからね。マラソンランナーとして、ランニングシューズに近いか遠いかを順番づけただけで。
――わかってますって(笑)。では、一番ランニングシューズから遠いと感じられた一足は?
藤原:アンダーアーマーのクラッチフィットですね。短い距離をトップスピードで走るというのであれば、逆にこれが一番かもしれない。ただ、長い距離、そうだなあ、20kmぐらい走ることになったとしたら、真っ先に選択肢から外します。いろんなところが痛くなっちゃいそうで。
――6位がアンダーアーマーのクラッチフィット。5位は?
藤原:プーマのパラメヒコかなあ。
――ショップではかなりお気に入りのようでしたが。
藤原:1㎞を3分半とか、それぐらいのゆっくりしたペースで走るのなら問題ないんでしょうけど、3分を切るペースで走るとなると、重さがちょっと響いてくるかなと。
――プロのマラソンランナーからすると、1㎞を3分半で走るって「ゆっくり」なんですね(笑)。1500mにすると5分ちょっと。高校生あたりのサッカー選手からすると、走れないことはないけど、割とキツいかなっていうペースですけど。
藤原:ま、そこはプロなんで(笑)。え~4位と3位は僅差です。というか、2位から5位まではかなり僅差かな。
――では、4位は?
藤原:ミズノのモレリア2とアシックスの2002。同点ですね。ミズノの方は高速巡行用、アシックスは短い距離の全力走行用。走るペースをどれぐらいに設定するかによって、順位も入れ代わってくる感じです。ただ、どっちもアッパーが天然皮革でしなやかなので、足には優しい感じですよね。
――3位と4位がほぼ同点。では2位は?
藤原:アディダスのパティーク・グローロ。これ、足入れ感が抜群によかったんです。あと、走る前と走ったあとの足の形状の変化にもちゃんと対応してくれそうで。
――ということは、1位は?
藤原:ナイキのマーキュリアル・ヴェイパーですね。マラソンランナーとしての感覚から言わせてもらうと、正直、ダントツでした。
――どんなところが?
藤原:いい意味で、フィット感がないんです。違う言い方をすれば、適度な遊びがある。伸びやかでスムーズな足の回転のためには、足関節を固めてしまってはダメなんですね。いろんなモデルを履き比べてみて、サッカーをやっている人って、スパイクにフィット感を求めているんだろうなっていうのを感じたんですけど、今回履いた中では、ナイキのこのスパイクだけがランナー寄りの感性で作っているな、と。フィット感はあんまりないんだけど、アッパーの素材が柔らかくて、軽くて、薄くて、走っても足に食い込んだりしない。これって、優れたランニングシューズのコンセプトそのものなんですよ。
――陸上競技をやっていた店員さんが、これを推してくるのも当然だったわけですね。
藤原:ですね。これだったら、20km走っても全然問題なさそう。
――ちなみに、藤原さんは引退したら思いっきりサッカーをやりたい、とおっしゃっていましたよね。その日がいつになるかはわかりませんけど、今回履いたスパイクの中から、自分がサッカーをやるという前提で一足を選ぶとしたら、どれにします?
藤原:引退は、まだ全然先ですよ。予定というか、いま自分の中にある実感でいうと、東京オリンピックのころ、マラソンランナー藤原新は自分史上最速になっているはずなので(笑)
――では、いつになるかわからない日のために、一足を選ぶとしたら?
藤原:じゃ、これにします。アディダスのパティーク・グローロ。足入れの感覚はこれが一番でしたし、巡行から高速まで、どんなペースにもある程度は対応してくれそう。あと、何より足を守ってくれそうな気がするので。
――では、本日の記念品としてお持ち帰りください(笑)。さて、やるべきことはやりましたし、パーッと飲みにいきますか。
藤原:長距離ランナーは代謝がいいですからね。ガッツリ飲みますよ(笑) (シリーズ了)