南米・Jリーグ・欧州で戦ってきた松原良香の現在地 Vol.7
Jリーグではジュビロ磐田を皮切りに複数のチームで活躍し、ウルグアイ・クロアチア・スイスでもプレー経験のある松原良香さん。「国内外でどんなキャリアを歩んできたのか?そして現在はどのような活動をされているのか?」じっくり聞かせて頂いた。
菊池 康平
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2020/05/06
Vol.6はこちらから
――今でもドゥンガ(元ジュビロ磐田やブラジル代表キャプテン)と連絡を取り合っているんですよね?
松原 自分が地域リーグなどにどんどんカテゴリーを落としている一方で、ドゥンガはブラジル代表の監督をやったりしていました。
この前、スカパーの仕事でヨーロッパに行った時も試合後のミックスゾーンでコウチーニョにポルトガル語で話しかけたら素通りされましたが、「ドゥンガと友達で一緒にプレーしていた」と言ったら戻ってきてインタビューに応じてくれたり。
その話をドゥンガに伝えたら、またやり取りが始まりました。そこで「アリソンを紹介してくれ」とお願いしようと考えています。アリソンは世界1のキーパーじゃないですか。
僕は博士号取得を目指し、今は日本人ゴールキーパーの川口能活、楢崎正剛、小島伸幸さんらにインタビューをしてGK育成についての論文を書いています。
「どうしたら日本人GKが世界に肩を並べられるGKになれるのか」。まだまだ道のりは長く研究は大変ですが、知らないことを知ることは楽しいですし、身に付けた分だけサッカーに活かせるのがやりがいです。
以前も南米で友達になった方にウルグアイ代表のカバーニなどを紹介してもらったりしました。それが南米の「アミーゴ」の世界ですよね。
――言葉が出来る松原さんだから出来ることですね。大学院に入って最近卒業されましたよね。なぜ大学院に入ったのですか?
松原 自分の今後を考えたときに、もっと力をつけなければいけない、それには学ぶこと、研究し論文を書くことが必要だと思ったからです。
問題をみつけ主観ではなく客観的に分析することで、問題解決のための「論理的思考能力」が養われます。
J1からJ3まで、プロと呼ばれる選手たちが今は1,700人くらいいると聞いていますが、彼らに対して、自分が正しい方向を向き、背中で見せていかなければならないと思っています。
そうするには、周りから必要とされる人間になり信頼されることや、日々学び力をつけ成長することが重要であり、経験はもちろんですが、経験にプラスして学ぶこと、頭の力をつけることが大事だと気づきました。
もともと体力のあるサッカー選手が、考える力を身につけたら最高じゃないですか。
あと、僕は勝ちたいんです。負けるのが本当に嫌なんです。プロセスはもちろん大事ですが、僕からすると2位じゃダメなんです。勝って歴史に名を残したいんです。
小さい頃から僕ら静岡人はそのマインドを持っていました。その結果、「勝ちたいから学ぶ」と考えるようになりました。これから日本が世界に勝っていくためには重要なマインドだと思います。
――学士もとられましたよね。
松原 はい。いろんな試合の解説をやらせて頂く際に、リサーチャーの方などからもらう試合のデータ資料を読むのですが、ドイツ代表でワールドカップを優勝しているあのオリバー・カーンが、こんなにも勉強しているんだということがわかりました。
オリバー・カーンやビアホフなどのドイツ代表経験者などがMBAを結構取っているんです。日本にはほとんどそんな人いないじゃないですか。
こういう超一流選手にも学ぶ姿勢があるんだ、だからこの人たちは強いんだなと思いました。
一流は感性や見る視点が違います。日本だと指導者ライセンスを取って終わってしまうケースが多いのですが、指導者ライセンスを取ってからそれをどう活かすかが最も大事なんですよね。
これからは自分が学んだことをシェアし、広めていかないといけないと思っています。今は自分が学んだことを伝え、みんなの力にしていくという作業をしています。
また、例えば、ブンデスリーガのクラブには、元代表選手ではなくても、若い監督が多くいます。彼らは常に新しいインプットを選手に与え考えさせています。
この考えるという作業は自分が学んでいないとできません。経験はなくても「成功するんだ」という大きな野心があれば吸収力がすごく、自分の力としてどんどん蓄積しています。彼らは、経験はお金では買えないことを理解しています。
また、サッカー選手、サッカー指導者でも、教養を身に付けることが大切だと思います。
選手を成長させること、チーム戦術や選手起用について選手へ伝達すること、メディア対応、支えてくれるファンやスポンサーへの挨拶など、指導者となればサッカーを教えるだけでは済みません。
それ以上のことができなければチームは勝てないと、これまでの経験から僕は気付きました。教養を身につけることも、僕はやると決めたら絶対にできると思っています。
――今の中高生が南米に行ったら何を学べると思いますか?
松原 家族や友達の大切さ、自己主張することの重要性が学べます。また、デジタル化が進んでいる今だからこそ、人の温かさを認識することもできると思います。
一つの事をやろうとしたとき、自分で創意工夫することに南米の人は長けています。
日本では眉間にしわを寄せた人が多いように思いますが、南米では不遇な状況においても笑顔で明るく楽しめる人が多いです。人間としての幅が広がると思うし、それがサッカーにも影響を及ぼすと思います。
僕は南米で厳しさも沢山感じました。いつも競争で、風邪をひいている暇なんかなかった。「あなたの為のポジションはない、自分でつかみ取らないとダメだから」という世界です。
――最後の質問ですが、引退してから経営者になり、指導者、解説者、研究者など色々な分野で活躍されている理由はなんだと思いますか?
松原 僕は周りに生かされていると気付きました。苦しい思いをしたからだと思います。今まで右肩上がりに進んだことは一度もありませんでした。辛くて苦しい時期もありましたが、覚悟を持って勝負していました。
僕は洋服を着ているカッコ良さよりも、バティストゥータやクレスポみたいに「あいつはもう駄目だ」と周りから言われている時に、よみがえって、点を取ってチームを勝たせる姿に惚れるんです。
そんな本物の男になりたい。人から必要とされたい。そんな想いが何事にも挑戦する原動力になっています。
「ダメかも」と苦しい思いをしても絶対に諦めないでエンジンをかけ、頭を使いながら進んでいくことが大事だと思います。そういったことを、サッカーを通じて子供たちに身につけて欲しい。
「Life is a Challenge」という想いを胸に、今この瞬間を生きています。
(了)
インタビューをさせて頂いた松原良香さんの本が発売中です。
【ストライカーを科学する~サッカーは南米に学べ】 https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b473160.html
――今でもドゥンガ(元ジュビロ磐田やブラジル代表キャプテン)と連絡を取り合っているんですよね?
松原 自分が地域リーグなどにどんどんカテゴリーを落としている一方で、ドゥンガはブラジル代表の監督をやったりしていました。
この前、スカパーの仕事でヨーロッパに行った時も試合後のミックスゾーンでコウチーニョにポルトガル語で話しかけたら素通りされましたが、「ドゥンガと友達で一緒にプレーしていた」と言ったら戻ってきてインタビューに応じてくれたり。
その話をドゥンガに伝えたら、またやり取りが始まりました。そこで「アリソンを紹介してくれ」とお願いしようと考えています。アリソンは世界1のキーパーじゃないですか。
僕は博士号取得を目指し、今は日本人ゴールキーパーの川口能活、楢崎正剛、小島伸幸さんらにインタビューをしてGK育成についての論文を書いています。
「どうしたら日本人GKが世界に肩を並べられるGKになれるのか」。まだまだ道のりは長く研究は大変ですが、知らないことを知ることは楽しいですし、身に付けた分だけサッカーに活かせるのがやりがいです。
以前も南米で友達になった方にウルグアイ代表のカバーニなどを紹介してもらったりしました。それが南米の「アミーゴ」の世界ですよね。
――言葉が出来る松原さんだから出来ることですね。大学院に入って最近卒業されましたよね。なぜ大学院に入ったのですか?
松原 自分の今後を考えたときに、もっと力をつけなければいけない、それには学ぶこと、研究し論文を書くことが必要だと思ったからです。
問題をみつけ主観ではなく客観的に分析することで、問題解決のための「論理的思考能力」が養われます。
J1からJ3まで、プロと呼ばれる選手たちが今は1,700人くらいいると聞いていますが、彼らに対して、自分が正しい方向を向き、背中で見せていかなければならないと思っています。
そうするには、周りから必要とされる人間になり信頼されることや、日々学び力をつけ成長することが重要であり、経験はもちろんですが、経験にプラスして学ぶこと、頭の力をつけることが大事だと気づきました。
もともと体力のあるサッカー選手が、考える力を身につけたら最高じゃないですか。
あと、僕は勝ちたいんです。負けるのが本当に嫌なんです。プロセスはもちろん大事ですが、僕からすると2位じゃダメなんです。勝って歴史に名を残したいんです。
小さい頃から僕ら静岡人はそのマインドを持っていました。その結果、「勝ちたいから学ぶ」と考えるようになりました。これから日本が世界に勝っていくためには重要なマインドだと思います。
――学士もとられましたよね。
松原 はい。いろんな試合の解説をやらせて頂く際に、リサーチャーの方などからもらう試合のデータ資料を読むのですが、ドイツ代表でワールドカップを優勝しているあのオリバー・カーンが、こんなにも勉強しているんだということがわかりました。
オリバー・カーンやビアホフなどのドイツ代表経験者などがMBAを結構取っているんです。日本にはほとんどそんな人いないじゃないですか。
こういう超一流選手にも学ぶ姿勢があるんだ、だからこの人たちは強いんだなと思いました。
一流は感性や見る視点が違います。日本だと指導者ライセンスを取って終わってしまうケースが多いのですが、指導者ライセンスを取ってからそれをどう活かすかが最も大事なんですよね。
これからは自分が学んだことをシェアし、広めていかないといけないと思っています。今は自分が学んだことを伝え、みんなの力にしていくという作業をしています。
また、例えば、ブンデスリーガのクラブには、元代表選手ではなくても、若い監督が多くいます。彼らは常に新しいインプットを選手に与え考えさせています。
この考えるという作業は自分が学んでいないとできません。経験はなくても「成功するんだ」という大きな野心があれば吸収力がすごく、自分の力としてどんどん蓄積しています。彼らは、経験はお金では買えないことを理解しています。
また、サッカー選手、サッカー指導者でも、教養を身に付けることが大切だと思います。
選手を成長させること、チーム戦術や選手起用について選手へ伝達すること、メディア対応、支えてくれるファンやスポンサーへの挨拶など、指導者となればサッカーを教えるだけでは済みません。
それ以上のことができなければチームは勝てないと、これまでの経験から僕は気付きました。教養を身につけることも、僕はやると決めたら絶対にできると思っています。
――今の中高生が南米に行ったら何を学べると思いますか?
松原 家族や友達の大切さ、自己主張することの重要性が学べます。また、デジタル化が進んでいる今だからこそ、人の温かさを認識することもできると思います。
一つの事をやろうとしたとき、自分で創意工夫することに南米の人は長けています。
日本では眉間にしわを寄せた人が多いように思いますが、南米では不遇な状況においても笑顔で明るく楽しめる人が多いです。人間としての幅が広がると思うし、それがサッカーにも影響を及ぼすと思います。
僕は南米で厳しさも沢山感じました。いつも競争で、風邪をひいている暇なんかなかった。「あなたの為のポジションはない、自分でつかみ取らないとダメだから」という世界です。
――最後の質問ですが、引退してから経営者になり、指導者、解説者、研究者など色々な分野で活躍されている理由はなんだと思いますか?
松原 僕は周りに生かされていると気付きました。苦しい思いをしたからだと思います。今まで右肩上がりに進んだことは一度もありませんでした。辛くて苦しい時期もありましたが、覚悟を持って勝負していました。
僕は洋服を着ているカッコ良さよりも、バティストゥータやクレスポみたいに「あいつはもう駄目だ」と周りから言われている時に、よみがえって、点を取ってチームを勝たせる姿に惚れるんです。
そんな本物の男になりたい。人から必要とされたい。そんな想いが何事にも挑戦する原動力になっています。
「ダメかも」と苦しい思いをしても絶対に諦めないでエンジンをかけ、頭を使いながら進んでいくことが大事だと思います。そういったことを、サッカーを通じて子供たちに身につけて欲しい。
「Life is a Challenge」という想いを胸に、今この瞬間を生きています。
(了)
インタビューをさせて頂いた松原良香さんの本が発売中です。
【ストライカーを科学する~サッカーは南米に学べ】 https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b473160.html