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BC神奈川・川村丈夫監督 苦しんだ1年目から来季の逆襲へ 「大いに喜んで、大いに悩んで」乾真大コーチはBCリーグを去る

「いずれ選手はこのチームを卒業しなきゃならないので。神奈川フューチャードリームス卒業生なんだ、というのを誇れるようになってもらいたいと思います」。川村丈夫監督が、BCリーグの監督として初めて挑んだシーズンだった。 ルートインBCリーグの球団として2020年に新規参入し、初年度にリーグ初優勝を飾った神奈川フューチャードリームス。その3年目のシーズンが9月7日に終了した。リーグ成績は62試合を戦って22勝35敗5分。最終順位は南地区4球団で最下位だったが、終盤は9月4日の対栃木ゴールデンブレーブス戦を9-3で勝ち切るなど投打がかみ合い、5連勝でシーズンを終えた。

Icon img 20200702 114958 HISATO | 2022/11/09

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  「不本意」しか残らなかったシーズン

 

2020-2021年と監督を務めた鈴木尚典氏からバトンを受け取り、初めて監督として指揮を執った川村監督は、ずっと応援してくれたファンに心から感謝しつつ、「正直本当に『不本意』しか残らなかったシーズンでした」と今季を振り返った。 


ーー1年間戦ってきた今の感想は? 

「リーグのチームとしては、そんなに実力に差はないと思うんですが、ここまで勝敗に差がついてしまった(首位とは14.5ゲーム差)というのは、やはり指揮官の責任かなと。そこの責任を感じています」 

ーーシーズンに入って予想外だった面などは? 

「やはり連敗から入ってしまったのが、乗り切れなかった一番大きなポイントだったと思います。勝っている試合をひっくり返されたり、継投の面でも少し後手を踏んでしまった」 


ーー印象に残った試合、記憶に残った試合は? 

「サヨナラ勝ちですね。でもやっぱり1つしかなかった。そういう試合が出来たのがもうつい最近のことだったので印象に残っていますが、サヨナラ勝ちはチームも結構勢いに乗るので、もっと早くそういう試合が出来ていれば良かったです」

 ーールートインBCリーグは、どんなところと感じられましたか。思っていたのと違いましたか? 

「ある意味思っていた通りだし、ちょっと違う部分もあった。本当に色んな選手がいるんだなっていう感想が率直なところです。チームについてもそれぞれのカラーがすごくありますね。茨城は特に海外の野球に近いし。そう思うと、『神奈川の色』って何だろうと言われると、正直まだカラーが出来ていないのかなと思うところはあります」 

ーー野手の方とはどんな風に接していらしたんでしょうか? 

「野手に接するのはほとんど初めてといっていいくらい。見様見真似です。1年間やってみて、野手の難しさ、交代のタイミングなども難しいなって改めて思わされました」

 ーー投打がかみ合うのはやはり大変だったかと思いますが、うまくいかないときの対処法、何かのきっかけになったことがあれば聞かせてください。 

「林コーチには『心の持ち様だ』と言われていて。指揮官はうまくいかないと思ってた方がいいよ、って言われたのはすごく印象的でした。うまくいかなかった時に監督が落ち込んじゃうとその次の作戦が進まない。実際そうだと思います。まあ僕はもともと投手だしプロ野球生活は長いので、そんなに引きずることはありませんでした。切り替えに苦労したことはないです」

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ーーシーズンを戦ってみて、一番しんどかったということは何ですか? 


「今まで投手コーチだったので投手を用意すれば良かったんですけど、適材適所に投手と野手をはめ込んでいくっていうのが、まだ本当には分かっていない。これからも多分勉強なんでしょうね」 

ーー監督として一番やりがいがあった、すごく実感として嬉しかったことは? 

「例えば…僕が何もしないで勝った試合。策を練らなくてもすーっと試合が流れる。そういう試合が…何試合だろう、本当に片手で数えるくらいあるかないか。そういう試合が監督をやっているとやはり嬉しいですね。采配がはまるとかじゃなく」

 ーー神奈川フューチャードリームスのいいところは? 

「負けてもへこたれないし、元気なところは選手たちのすごくいいところだと思います。それをいい方向に持って行くのがやはり首脳陣の役目だと思うので…それが本当に来年の課題だと思います」 

ーー地域の方たち、ファンの方の反応はどうでしたか? 

「本当に頭が下がります。雨の日も暑い日も、いつも見る顔の方々が多くて(笑)

BCリーグでは野球教室だったり、地域の方と触れ合ってもらうことが一番大切だと思います。選手が触れ合って、教えたことがまた選手に返って来る。その機会はまだ少ないと思うので、もう少し増やしていったら選手自身が成長するんじゃないか、と感じますね」
 

BC神奈川での川村監督1年目の挑戦は不本意に終わったが、言葉の端々からは球団や選手、ファンに対する愛着が感じられた。

「チームとして、野球人として。いずれ選手はこのチームを卒業しなきゃならないので。フューチャードリームス卒業生なんだ、というのを誇れるようになってもらいたいと思います」10月26日には、川村監督の来季続投が発表された。

「今年の経験を踏まえて、来シーズンは3年ぶりの優勝、そして球団初となるNPBへの選手の輩出をを叶え、皆様と笑顔で喜び合えるシーズンにしたいと思います」
 

   乾真大コーチは133球熱投して現役を引退、退団へ 

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一方で、一つのターニングポイントが球団には訪れる。チームを初年度から支えた乾真大選手兼任コーチが現役を引退し、退団することとなった。

8月30日には引退試合を行い、現役生活を締めくくると、その後の公式戦は「専任コーチ」として戦った。

「選手としては、最後までレベルアップして引き出しも増えた。技術も上がって終えられたのは良かったです」

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日本ハムから巨人へ移籍し、2017年秋に戦力外となってから、BC富山へ入団。BCリーグへの移籍を機に練習方法からガラリと変え、力と技術を磨いた。兼任コーチとなってからも自ら成長し続け、後進に指導を続けてきた。

富山で2年、神奈川で3年。今季もローテーションを守り6勝1敗、奪三振はリーグトップの96。必要があれば中継ぎで出ることも辞さなかった。引退試合となった8月30日の茨城戦でも先発し、8回2死までを被安打6、2失点(自責点1)に抑えた。最速は149キロ。133球を熱投して富山時代からの後輩・山本雅士に後を託したが、力を出し切り、最後まで意地を見せたマウンドだった。

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その日の球場には多数の花が届き、雨の中のセレモニーでは、伊藤智仁コーチ(ヤクルト)を始め、富山で先輩投手として導いた湯浅克己(阪神)、投手コーチして指導した松山真之(オリックス)、神奈川球団で2年間をともに過ごした鈴木尚典コーチ(DeNA)、日本ハム同期入団の斎藤佑樹氏…と錚々たる面々からのメッセージが読み上げられた。

また、日本ハムで同僚だった吉川光夫兼任コーチ(栃木)がサプライズで登場し、花束の贈呈を行った。育ててきた選手たち、ファン、家族に見守られ、堂々とした潔い花道だった。

 「コーチとしては…成績として勝ってないからやっぱりそこは悔しいです。決してその力がない選手たちではなかったので…。こちらがこうなって欲しい、選手たちがこうしていきたい、というのはまあ出来た。それを組み合わせられなかったのは僕の責任です。でも皆が成長してくれました」

独立リーグにおいて、選手の育成とチームの勝利をどちらも求めるのは難しい。乾コーチは選手の成長を第一に考えた。特に今年はファンがもどかしさを感じる場面は多かったかもしれない。

だが、指導をしながら、自らも先発で中継ぎで投げ続けての3年間。ピッチングを探求し成長し続けたその姿から、選手たちもファンも、受け取ったものは計り知れないだろう。 現役生活は12年。そのうちBCリーグで5年を過ごした。

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「NPBで出来なかったことが出来た」というBCリーグは、乾真大の野球人生の中で大きな意味を持つ場所だった。後に続くBCリーガーたちにとっても、人生の中で大事なものを得る場所になっていくだろう。選手たちへのエールを乞うと、こう答えた。

「大いに喜んで、大いに苦しんで、大いに悩んでください。それでいいと思います。すぐ解決しなくていいと思うんです。僕がそうだったので。上手くいったらしっかり喜んで、上手くいかなかったら落ち込んだり悩んだり、それでいい。思う存分そういう気持ちでやってくれたら、絶対いい」

今後は新たな場所で、指導者としての道を歩むことになる。

  ■逆襲を期す川村監督 BC神奈川は新たなステージへ
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常に投手陣の中心でチームを支えたタフネス左腕が神奈川を去る。コロナ禍で生まれて来季で4年目。BC神奈川は新たなステージを迎えることとなるだろう。

10月29日に行われたファン感謝祭では、ファンクラブ会員と選手との交流の後、今季で退団する選手たちの挨拶が行われた。例年行われる挨拶だが、今年は15名と多かった。

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新キャプテンとして発表されたのは柿崎颯馬内野手。カレオン外野手は残留と見られるが、球団に残る選手で、他に初年度から在籍し、優勝を経験したことがある者はほとんどいなくなる。ある意味これは現在の独立リーグの宿命だ。

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毎年新たに選手が入団し、新たなチームを作ることになる。その中で選手を育て、地域の人に覚えてもらい、応援してもらえる魅力を作り続けていかなくてはならない。簡単なことではないが、どのチームも大幅に選手が入れ替わり、新しいチームとなる。毎年がチャンスであることも確かだ。

 川村監督は2年目となり、今年の経験を踏まえて反撃に出る。3年間で積み重ねたものも、球団や選手たちの中に伝わり続けているものもある。それを生かした4年目のBC神奈川が、BCリーグで飛躍することを期待したい。

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