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「這い上がる覚悟」──“谷晃生”、逆境を越えた守護神の決断

湘南、ガンバ大阪、そして海外挑戦。順調に見えたキャリアの中で、ベルギーで味わった挫折。「思い通りにいかない」経験を経て、日本での再スタートを決意した谷晃生。移籍先に選んだのは、J1初挑戦のFC町田ゼルビア。そして彼は、チームとともに大きな飛躍を遂げた。リーグ最少失点を記録し、町田の快進撃を支えた守護神が語る「逆境を乗り越えるメンタル」と「勝てるチームの条件」とは。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

Icon       池田 鉄平 | 2025/03/25

「もう一度ゼロから」──FC町田ゼルビアでの挑戦

――2024年にFC町田ゼルビアへ期限付き移籍を決断されました。当時の心境を教えてください。

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

「もっと成長したい」という気持ちがすごく強かったですね。

ガンバ大阪に移籍したときは自信を持っていましたが、ポジション争いがあり、自分のパフォーマンスにも納得できていませんでした。チームの結果も思うようについてこず、「このままでいいのか?」と考えるようになりました。

そんな中で海外挑戦を決め、ベルギーのクラブに移籍しましたが、半年間なかなかうまくいかない時間を過ごしました。試合に絡めず、思ったような結果を出せなくて。「もう一度ゼロからスタートしよう」と思い、日本に戻る決断をしました。

ちょうどそのタイミングで町田からオファーをいただいたんです。そして、決め手になったのは黒田監督と直接話せたこと。知人を通じてお話しする機会があり、監督の言葉に強く共感しました。「J1初挑戦の町田で、自分ももう一度挑戦したい」と思い、移籍を決意しました。

正直、最初は残留争いを覚悟していましたが、実際には想像を超えるシーズンになりました。

――結果的に、J1初年度でリーグ最少失点を記録するなど、想像以上の活躍をされましたね。どのように感じていますか?

正直、自分にとっても予想していなかったシーズンでした。もちろん、いい環境でプレーしたい気持ちはありましたが、ここまでの結果を残せるとは思っていなかったです。

僕自身も新しいチームにスムーズにフィットできましたし、メンタル的にもすごくいい状態でした。「失うものは何もない」「もう一度這い上がろう」という意識が、チームの戦う姿勢とすごく合っていたと思います。

――メンタル面がパフォーマンスに大きく影響したと?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

そうですね。やっぱり、アスリートにとってメンタルはすごく重要です。よく「メンタルが強い」と言われますが、それは人によって違うし、常に強いわけではないんです。

体のコンディションはトレーニングである程度コントロールできますが、メンタルの変化は目に見えない。だからこそ、経験値が大事だと思っています。その点で、昨シーズンはすごくフレッシュな気持ちで挑めたのが良かったですね。

「言葉が通じなくても伝わるもの」──海外で気づいた“存在感”の重要性

――そう考えると、海外挑戦の経験もメンタル面に影響を与えたのでしょうか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

はい、間違いなく影響しました。

ベルギーでは、思い通りにいかないことの連続で、本当にタフな時間を過ごしました。プレー面では言語の壁はあまり関係ないですが、それ以外の部分で大変なことが多かったですね。環境が変わると、サッカー以外のことでストレスを感じることもありますし、「もっとタフにならなきゃいけない」と痛感しました。

――プレー面では、海外を経験して「強化しなければ」と思った部分はありますか?

「どうやって存在感を示すか」という部分ですね。

日本では、同じ言語で細かくコミュニケーションを取れますが、海外ではそうはいきません。特にGKはディフェンスラインとの意思疎通がすごく大事なので、言葉が通じなくても、自分のプレーで証明しなければいけないと感じました。

――「存在感を示す」というのは、大きなテーマですね。それを実際にどう意識しましたか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

存在感って、自分で意識して出せるものではなくて、周りが評価するものだと思うんです。だからこそ、日々の取り組みや姿勢がすごく大切になります。

特に苦しいとき、味方の選手が「後ろに谷がいるから大丈夫」と信頼できるような振る舞いやプレーをすること。それが、最終的に「存在感」につながるのかなと。

また、GKとして「ゴールを絶対に守る」という気持ちをプレーで表現できるかどうか。それが結果につながるし、チームメイトの安心感にもつながると思います。

「勝っても浮かれない、負けても崩れない」──町田の強さを支える環境とは?

――昨季の町田は、J1初年度にもかかわらず驚くほど安定した戦いを見せました。その要因は何だと感じていますか?

やっぱり、黒田監督の戦術やチーム作りの影響が大きいです。

試合に向けた準備はもちろん、勝った後の練習の雰囲気作りまで、すごく計算されていました。しかも、それが「やらされている」感じではなく、自然と良い雰囲気になっていくんです。

満足する環境がないというか、常に「崖っぷち」にいる感覚がありました。連勝していてもプレッシャーがあり、「もっとやらなきゃ」という気持ちが常にありましたね。そうやって、勝ち続けながらもさらに高いレベルを求める姿勢が、チームに浸透していたと思います。

だからこそ、勝っても浮かれないし、負けても立ち直れる。そういう環境があったからこそ、シーズンを通して安定した戦いができたのかなと思います。

――谷選手はJリーグや海外でさまざまなクラブを経験されていますが、町田のようなチーム作りは珍しいのでしょうか?

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

そうですね。町田には、唯一無二のスタイルがあると思います。

高校サッカーからいきなり入ってきた黒田監督がJ2優勝を経験し、J1でも優勝争いできるようなチームになるのは、普通ではありえません。でも、それを可能にしているのが町田のチーム作り。

もちろん、選手のレベルが高いこともありますが、それ以上に「勝ちにこだわる姿勢」が他のチームよりも強いんです。その意識がチーム全体に浸透しているからこそ、この結果につながっているのだと思います。

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谷晃生、東京五輪からJ1最少失点へ──勝負を分ける「チャンスを掴む準備」

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▼谷選手を応援しにスタジアムに行こう!
【試合情報】
日程・4月6日(日)14:00キックオフ
対戦・川崎フロンターレ
場所・町田GIONスタジアム

チケットはこちら(https://www.jleague-ticket.jp/club/mz/)


谷晃生(たに・こうせい)
2000年11月22日生まれ、大阪府出身。ガンバ大阪育成組織から高校3年でトップチームのメンバーとして出場。2020年期限付き移籍した湘南ベルマーレでJ1デビューを果たす。2023年ガンバ大阪からベルギーF C VデンデルE Hへ移籍、2024年からFC町田ゼルビアにてプレーしリーグ最少失点に貢献。2025年から完全移籍。2021年の東京五輪ではフル出場、FIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選メンバーにも選出されている。

Photo:Rika Matsukawa