Bリーガーに訊く!日本バスケ界の司令塔・富樫勇樹が語る"世界最高峰の舞台”Vol.3「個人のレベルを上げないと、アメリカには通用しない」
「NBA」。それはバスケットボールを志す人ならば誰しもが憧れる、“世界最高峰”のプロリーグだ。日本人の男子ではリンク栃木ブレックス・田臥勇太選手と、千葉ジェッツふなばし・富樫勇樹選手の2人しか契約を勝ち取った人物はいない。そう、この“2人”という数字が、アメリカと日本の間に大きな差があることを物語っている。とはいえ、昨年から開幕したBリーグをきっかけに、国内のレベルが上がっているのは確か。そこで富樫選手へ最後に聞いたのは、ズバリ「日米の違い」。彼が現地で経験し、実際に見てきた、バスケにおける様々な“リアル”を赤裸々に語ってもらった。
佐藤 主祥
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2017/12/02
富樫:ハッキリ言ってしまうと、バスケに関しては日本とアメリカの差は歴然だと思います。それほどNBAはどの部分においても世界最高峰のレベルにある、ということです。
体格の違いや身体能力の高さは言わずもがなですが、選手個々のトレーニング方法やスキルアップへの取り組む姿勢も違いますし、それをサポートする練習施設も十分に整っています。
アメリカにおけるバスケットというスポーツは古くから文化として根付いてるので、まず選手を育成する環境から差があるなぁと感じますね。
ー根本的なところからレベル差が生じているのですね。アメリカが強い理由が分かります。日本人の良さを挙げるとしたら、勝手なイメージではありますが、練習に対して真面目に取り組む姿勢が他国以上にあるように思えます。
富樫:確かにそういった勤勉さは日本の良さではあります。ですがそれは「コーチが言ったことしかできない」とか、「クリエイティブな発想力がない」ということに繋がってしまっているんです。
バスケには創造的なプレー、つまり“個性”を生み出すことが要求されます。そういった意外性に満ちたプレーをすることで、観客が沸き、チームを勝利に導く。しかし日本の真面目なメンタリティーは監督の指示を遂行しようと一生懸命になり、とっさの判断・対応ができなくなってしまいます。
クリエイティブな思考と、そのイメージを具現化する能力の高いアメリカとの差はそこにあります。
クリエイティブな思考と、そのイメージを具現化する能力の高いアメリカとの差はそこにあります。
練習においても、日本の部活では長時間に及ぶ練習をしているところが多く、メリハリがないと感じています。
逆にアメリカでは練習にかける時間や日数の規定が多いので、1時間半のチーム練習ならその時間帯にだけ集中して取り組み、終わったらすぐに切り上げます。それくらいオンとオフがハッキリしているのです。
もちろん真面目で勤勉な部分は大事だと思いますが、日本のように長く練習すればいいということではないと、アメリカに行って感じました。
ー確かにバスケだけではなくどのスポーツでもそうですが、近年、日本の練習時間の長さは問題視されていますよね。強豪チームの練習量は日本と比べて圧倒的に少ない、というのはトップアスリートからよく耳にします。では、コミュニケーション方法に関して違いは感じますか?
富樫:コミュニケーションに関しては、日本が昔と比べてだいぶ変わってきている印象を受けます。もちろん選手だけではなくコーチや監督とも年齢差はありますが、敬語で話さないといけないとか、そこまで重要視することもなくなりましたから。
だからといって友達として接するわけではありませんが、そこら辺はお互いリスペクトしながらフラットにやれていると思いますよ。
ー試合においてのコミュニケーションに関してはいかがでしょう?千葉ジェッツふなばしではポイントガード、司令塔としてチームを統率する役割もあると思いますが。
富樫:リーダーシップという部分では、特に外国人選手とはコミュニケーションを取るようにはしています。
何かあったらまずは意見交換ですね!
自分が思っていることを明確に伝える、ということは意識的に行なっています。ただそこまで言うほど細かく言っているわけではないですけどね。正直、プレー中はあまり何かを考えてバスケをしていないので(笑)。
ーそうなんですね(笑)。ではどんなことを考えているのでしょう?
富樫:例えば、セットプレーだったら誰にボールを渡そうか、その後はどういう風に攻めていこうか、ということは考えます。
だからといってそこまで深くは考えていません。逆に考え過ぎずに、自分の発想の元でプレーしています。
それも自由にやらせてくれる監督あってのことなので、本当に感謝しています。
ーそれだけ監督と選手の信頼関係があるということですね。チームの司令塔という部分でもう1つお聞きしたいのですが、中心選手としてセルフブランディングを意識したりしますか?キャラクター作りをしたりとか。
富樫:意識的に「こういう風に見せよう」っていうのは全くないですよ。それは他の選手も同じだと思いますね。
ただ、キャラクター作りというわけではないですが、チームの広報担当の方からは「記事の見出しになるようなコメントを残せよ!」ってよく言われます(笑)。
僕は「好きなようにやれば良いじゃん!」って感じでいつもやっているので、あまり気にしていませんが(笑)。
ーその自由気ままなスタイルが富樫選手のキャラとも言えますね(笑)。日本と比べて、アメリカ人選手のメディア対応はいかかでしょう?
富樫:そこは日本と違って、きついコメントをサラっと言ったりしますね。年上の先輩選手に対して、「あの人は全然上手くない」とか「大したことない」って普通に言うので、初めは驚きました。
日本の場合は、周りから言動の1つひとつを細かく見られている部分があるので、試合に勝った後とか「チームメイトのおかげで勝てました」という感じで丁寧な言葉で表現しますよね?
先ほど触れたように真面目な性格の表れだと思いますが、少し周りの反応を気にし過ぎているように感じます。これはアメリカを見てきたからこそ思うことではありますが。
ー富樫選手はイメージ的に、そういった日本人要素が強い方なのかと(笑)。
富樫:そんなことないですよ(笑)。僕も試合中に何か言ったりしますからね(笑)。アメリカで聞いたような挑戦的なことまではさすがに言いませんが。
ただ僕自身も、アメリカでプレーしている時に「あのちっちゃいアジア人を攻めろ!」って観客から野次られることはよくあったんです。まずこの身長ですし、向こうにアジア人自体いませんからね。なので試合前から下に見られてしまうんです。
そういうこともあったので、課題として「体を大きくしよう」というのはずっと言われていることではありますね。バスケ選手にとっては体が大きいに越したことはないですから。
ー富樫選手や栃木の田臥選手のような、あまり体が大きくない選手が日本バスケ界のトップに君臨している。これは体格に恵まれない子供たちにとって、とても勇気付けられることだと思います。では最後に富樫選手自身、東京五輪の出場を目指していると思いますが、2020年に向けて取り組んでいることがあれば教えてください。
富樫:まずはオフェンスの部分をもっと磨いていきたいと思っています。チーム力はもちろんですが、個人のレベルアップを図っていかないと、まずアメリカには通用しません。そこは2014年のアジアカップから監督やコーチに言われ続けていることなので、意識して取り組んでいます。
なので代表の時だけでなく、自分のクラブでもアグレッシブにゴールを狙っています。今以上に個人技を高めて、自分のプレースタイルをさらに確立させる。それがチーム自体のレベルアップにもつながってくると思うので。
ーそれは千葉ジェッツふなばしの成長にもつながると思いますが、選手代表としてBリーグ2年目を戦うチームの見所もぜひPRしていただければ!(笑)。
富樫:はい(笑)。千葉ジェッツふなばしは走るプレースタイルが特徴であり、その機動力が魅力のチームです。Bリーグ界においてジェッツブースター(ファン)の多さは有名ですし、チームとして会場を盛り上げる演出等も進化しているので、バスケ好きな方から初心者の方まで楽しめると思います。それは来ていただいたら分かると思うので、ぜひ観に来てください!
(了)