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選手だけじゃない、ピッチの外でも熱い!サッカー界の名監督たちが放つ唯一無二の魅力【前編】

サッカーの試合で熱いのは、選手だけではない。タッチライン際で激しく指示を飛ばし、時には審判や相手チームに食ってかかる監督。独自の戦術や哲学でチームを率い、その存在感をピッチ内外で示している。選手たちを尊重する思いやこだわりのスタイルを貫く姿は、選手だけでなくファンの心にも突き刺さる。そんな個性あふれる名監督たちは、どんな哲学でチームを作り、何をサッカーに求めているのか?日本と海外の“クセ強”監督たちに迫り、彼らの魅力を紹介していく。※トップ画像出典/photoAC

Icon arata illust2 眞木 優 | 2025/03/24

哲学を重んじる知将・岡田武史(元日本代表監督)

元日本代表監督の岡田武史は、『岡ちゃん』の愛称で親しまれる日本サッカー界の重鎮といえる人物だ。1998年、日本代表を史上初のワールドカップ出場に導き、2010年南アフリカ大会では、ベスト16という快挙を達成した名将だ。彼の指導哲学は戦術論にとどまらず、サッカーの本質を選手に深く理解させることにある。『守破離』の概念を重視し、基礎を徹底的に固めた上で、選手自身が主体的に考え判断できるよう育成する『岡田メソッド』を確立した。そんな岡田の特徴は、知的かつ哲学的なアプローチだ。選手とのコミュニケーションを大切にし、データ分析を駆使しながら冷静に判断を下す姿勢は独特である。また単なる勝利を追い求めるのではなく、日本サッカー全体の成長を見据えた長期的なビジョンを持つ点も特徴的といえる。冷静沈着な態度と選手育成への深い洞察は、ファンからの信頼も厚く、彼の存在は今なお日本サッカー界に大きな影響を与え続けている。

勝利への執念を燃やす教育者・黒田剛(FC町田ゼルビア)

黒田剛監督といえば、高校サッカーの名門校・青森山田高校サッカー部で28年間指導を行い、数多くの選手をプロの世界へと送り出した名監督である。2023年には、自身初となるJリーグクラブ・FC町田ゼルビアの監督に就任した。就任当時は「高体連の指導者がプロで通じるのか」との声もあがったが、その言葉を覆すように、就任1年目にしてチームをJ2優勝、J1昇格へ導く指導力を見せたのだ。
黒田監督は勝利から逆算された現実的なサッカーを展開するのが特徴だ。球際での競り合いの強さやロングボール、ショートカウンターを多用して縦に早い展開を目指している。さらに注目されたのが、青森山田高校の代名詞でもあった『ロングスロー』をプロの世界でも取り入れたことだろう。この町田ゼルビアのサッカースタイルに対して、サッカーファンから厳しい声もあったが、勝利への執念と正当な戦術として使い続けた。その結果、J1昇格への切符を見事に掴み取り、今や試合をするたびにSNSやメディアで話題となりやすい黒田のスタイルは、今後も注目していきたい。

情熱的で感情豊かなリーダー・秋葉忠宏(清水エスパルス)

秋葉忠宏の指導スタイルは、情熱的で感情豊かな点が特徴だ。水戸ホーリーホック時代には、「獰猛さ」という言葉を用いて攻撃的な姿勢を植え付け、リーグ最多得点を記録するチームを作り上げた。
選手との率直で熱意あふれるコミュニケーションを重視し、「自分の言葉で情熱を伝える」ことを指導の軸としている。また「嘘をつかない」ことの重要性を強調し、誠実な姿勢を貫いている点も魅力といえるだろう。秋葉監督の指導哲学は、選手の個性を尊重し、自由な発想を推奨することにある。自身の哲学観についてインタビューされたときにも「60%はチームとしての方向性を守り、40%は個人戦術を活かす」と語っているほどだ。そして、サポーターとのつながりも非常に大切にしており、『サポーターファミリー』やホームスタジアムを『聖地』と呼び、サポーターとの絆を深める姿勢がチームの強さを支えているのかもしれない。彼の情熱的で感情豊かなリーダーシップは、チームの成功に欠かせない要素となっているだろう。

攻撃的スタイルを貫く名将・ミハイロ・ペトロヴィッチ(元北海道コンサドーレ札幌)

2024年シーズンで北海道コンサドーレ札幌の監督を退任したミハイロ・ペトロヴィッチ監督、通称『ミシャ』。これまでJリーグではサンフレッチェ広島、浦和レッズ、北海道コンサドーレ札幌の3クラブを率い、日本を代表するベテラン監督の1人である。
そんな彼の代名詞ともいえるのが、超攻撃的なサッカーだ。3-4-2-1のフォーメーションを基本としながらも、攻守の局面に応じて最前線や最終ラインの人数が変わる可変システムが特徴。サイドバックを高い位置に置き、前線に5人が並ぶような超攻撃的スタイルを貫き、磨き上げてきた。彼の攻撃的サッカーへのこだわりは、時にリスクを伴うが、そのエキサイティングな試合展開こそがファンを惹きつける大きな魅力でもあるだろう。また、彼のもう一つの魅力は、攻撃的なスタイルからは想像できない、愛らしい笑顔や周囲から親しまれる人柄にもある。

完璧なフットボールを目指す妖精・ドラガン・ストイコビッチ(元名古屋グランパス)

彼はアーセン・ヴェンゲルの指導に大きな影響を受けている。ヴェンゲル監督から戦術的な思考や現代サッカーに関する多くのことを学んだと明言し、のちに自身とヴェンゲル監督のフットボール観が一致しており、「完璧なフットボール」を目指していると語った。彼の卓越したスキル、カリスマ性、忠誠心、そして型破りな行動は、サッカー界において忘れられない存在と言っていいだろう。
ドラガン・ストイコビッチ監督の最も驚くべきエピソードは、2009年の横浜F・マリノス戦での出来事である。負傷した相手選手のためにボールがタッチラインを割った際、彼は自身のテクニカルエリアからそのボールをダイレクトでシュート。ボールはきれいな放物線を描き、ゴールに突き刺さったのである。この予想外の行動は観客を大いに沸かせた。しかし、審判からはレッドカードが提示され、退場処分。この前代未聞の出来事は、彼のカリスマ性と型破りな個性を象徴するエピソードとして、今も語り継がれるほどインパクトが強かった。2024年のUEFA EUROでセルビア代表を指揮していた際には、ジャッジに対する猛抗議でイエローカードを受けたものの、その姿が「かわいすぎる」とファンの間で話題になった。かつてJリーグでも見せたストイコビッチの感情豊かなリアクションは、今もなお注目を集めているだろう。